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Ⅹ 彼女のいない魔法学園
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アリスベール魔法学園。
敷地から数十キロ離れた王都、中心地。
赤をイメージカラーにしたお城のような建物。
扉はどこにもないが、壁のガーゴイル像に学生証を見せると隠し扉が現れる。
まさに魔法のような建物だ。
この学園の関係者じゃない者が敷地内を訪れると、魔法植物である草木やガーゴイル像、小人の置物が一斉に襲ってくるのだとか。
子供たちの学び舎は安全であるべきだ、これは俺も肝に銘じておかねば。
「それで、どうしてまた魔法学園なんかに」
「と言いますと?」
同行してきたアネモネが首をかしげる。
「俺は自分の領地で学校を開こうと思っている身だ。言わばここは敵対勢力と言っても過言ではない」
「学園も卒業せず、子供たちになにを教えるというのですの? そもそも不登校を続けていては第三王子リエル様が他生徒に舐められてしまいますわ。それはもうペロペロと」
「舐めさせとけ、甘くないって気がついたら興味も失せるさ」
「それはなりません。王位継承権三位だとしても、この学園には有名貴族の子息が多く在籍しておりますわ。仲良くなって損はありません」
三位って、もう王位には関係ないって言われているようなものじゃないか。
三匹の子豚じゃあるまいし、三男に活躍の機会はないのさ。
「そもそもなんで男装したままなんだ、アネモネ」
「気になさらず」
「なるわ、大いになるわ」
「リエル様を想ってのことですわ。考えてみたら分かると思いますが、婚約破棄をしたすぐに綺麗なメイドを傍に付けているとなれば変な噂も立つことでしょう。しかし執事ならば、『ああ、なるほど。そういう意味か』と誤魔化せましょう」
コイツ、自分のこと〝綺麗な〟って恥ずかしげもなく言いきったぞ。
実際スタイルも良いし、輪郭も綺麗なんだが。
仮面で素顔を隠しているもんだから反応に困る。
まあ、確かに。
バカ王子が容姿の良いメイドを連れて歩いていたら変な噂が立ってしまうか。
「それにしても他生徒の視線が集まるな」
廊下を歩いているだけなのに、じろじろと見られている。
王族への敬意の眼差しじゃない。
もっと嫌味な嘲りのようなものが含まれているような気がする。
それこそ、バイト先のお局たちがこそこそと井戸端会議をしているようないやぁな感じの。
「早くも、『ああ、なるほど。そういう意味か』作戦の効果ですわ」
「それがなんなのか分からんし、多分違うと思うぞ」
「御主人様。貴方様はただ、胸を張っていればいいのです」
そう言って俺の手を取る美声の執事。
意図的なのかメイド姿の時よりも低い声色で優しく囁く。
危うく乙女の顔になりかけた。
実際、女子生徒のほとんどが男装姿のアネモネに頬を赤らめている。
「おっと……どうやら、視線の理由はこちらが原因のようですわね」
廊下の突き当たり、壁に学園新聞が貼られていた。
タイトルは〝第三王子に婚約破棄されたアイビー公爵令嬢。早くも次のお相手が!? 学園のアイドルココアちゃんをいじめていた悪女の次なるターゲットはユーリ・フォルシオン辺境伯!!〟。
「下世話な。誰がこんなものを」
「新聞部ですわね」
「それにしてもこの話は関係者しか知らないものだ。どうしてこの学園にまで」
「盗聴魔法、あるいは情報屋から買ったのでしょうね。どちらにしても趣味の良いものじゃありませんわ。そもそもこんなの事実と異なるじゃありませんの」
「ああ、アイビーが悪女なんて書きやがって」
「違いますわ。そこじゃなく」
俺が新聞を睨みつけていると焦った足音で近付いて来る何者か。
視線を向けると学生であろうが丸眼鏡に所々白髪まみれの頭な、見るからに苦労人の青年。
「これはこれは、リエル様。僕たちの新聞を読んでいただき」
「お前がこれを書いたのか?」
「いやぁ……その……まあ、はい。新聞部部長をしております」
「ゴシップを書くならまず事実を確かめろ。ひとりの視点からだけじゃ内容は偏る。そんなものは報道とは言えない。マスゴミなんて言われ始めたらもう終わりだぞ」
「も、申し訳ございません」
汗をだらだらと流し、頭を下げる新聞部部長。
タイトルは陳腐だけど文章も綺麗でとても読みやすいぶん残念だ。
アイビーのことを少しでも知っていれば悪女なんて書いたりしない。
「それとこの挿絵、誰が書いた」
「アイビー公爵令嬢の似顔絵ですか。美術部に依頼して」
「原画が欲しい。いくらだ」
「え?」
「彼女の美しさが大変よく描写されている。写真もないこの世界でよくぞここまで。新聞の挿絵は鉛筆で書かれているようだが出来ればカラー版が欲しい。どうか彼女を象徴する優しくも力強い赤で!」
「ちょっと、リエル様!?」
なぜか慌てて俺の腕を引くアネモネ。
気のせいか顔が真っ赤な気がする。
そんなのは気にしている場合ではない、必ずやこのアイビーの似顔絵の原画を手に入れなくては。
俺はいたって真面目である。
敷地から数十キロ離れた王都、中心地。
赤をイメージカラーにしたお城のような建物。
扉はどこにもないが、壁のガーゴイル像に学生証を見せると隠し扉が現れる。
まさに魔法のような建物だ。
この学園の関係者じゃない者が敷地内を訪れると、魔法植物である草木やガーゴイル像、小人の置物が一斉に襲ってくるのだとか。
子供たちの学び舎は安全であるべきだ、これは俺も肝に銘じておかねば。
「それで、どうしてまた魔法学園なんかに」
「と言いますと?」
同行してきたアネモネが首をかしげる。
「俺は自分の領地で学校を開こうと思っている身だ。言わばここは敵対勢力と言っても過言ではない」
「学園も卒業せず、子供たちになにを教えるというのですの? そもそも不登校を続けていては第三王子リエル様が他生徒に舐められてしまいますわ。それはもうペロペロと」
「舐めさせとけ、甘くないって気がついたら興味も失せるさ」
「それはなりません。王位継承権三位だとしても、この学園には有名貴族の子息が多く在籍しておりますわ。仲良くなって損はありません」
三位って、もう王位には関係ないって言われているようなものじゃないか。
三匹の子豚じゃあるまいし、三男に活躍の機会はないのさ。
「そもそもなんで男装したままなんだ、アネモネ」
「気になさらず」
「なるわ、大いになるわ」
「リエル様を想ってのことですわ。考えてみたら分かると思いますが、婚約破棄をしたすぐに綺麗なメイドを傍に付けているとなれば変な噂も立つことでしょう。しかし執事ならば、『ああ、なるほど。そういう意味か』と誤魔化せましょう」
コイツ、自分のこと〝綺麗な〟って恥ずかしげもなく言いきったぞ。
実際スタイルも良いし、輪郭も綺麗なんだが。
仮面で素顔を隠しているもんだから反応に困る。
まあ、確かに。
バカ王子が容姿の良いメイドを連れて歩いていたら変な噂が立ってしまうか。
「それにしても他生徒の視線が集まるな」
廊下を歩いているだけなのに、じろじろと見られている。
王族への敬意の眼差しじゃない。
もっと嫌味な嘲りのようなものが含まれているような気がする。
それこそ、バイト先のお局たちがこそこそと井戸端会議をしているようないやぁな感じの。
「早くも、『ああ、なるほど。そういう意味か』作戦の効果ですわ」
「それがなんなのか分からんし、多分違うと思うぞ」
「御主人様。貴方様はただ、胸を張っていればいいのです」
そう言って俺の手を取る美声の執事。
意図的なのかメイド姿の時よりも低い声色で優しく囁く。
危うく乙女の顔になりかけた。
実際、女子生徒のほとんどが男装姿のアネモネに頬を赤らめている。
「おっと……どうやら、視線の理由はこちらが原因のようですわね」
廊下の突き当たり、壁に学園新聞が貼られていた。
タイトルは〝第三王子に婚約破棄されたアイビー公爵令嬢。早くも次のお相手が!? 学園のアイドルココアちゃんをいじめていた悪女の次なるターゲットはユーリ・フォルシオン辺境伯!!〟。
「下世話な。誰がこんなものを」
「新聞部ですわね」
「それにしてもこの話は関係者しか知らないものだ。どうしてこの学園にまで」
「盗聴魔法、あるいは情報屋から買ったのでしょうね。どちらにしても趣味の良いものじゃありませんわ。そもそもこんなの事実と異なるじゃありませんの」
「ああ、アイビーが悪女なんて書きやがって」
「違いますわ。そこじゃなく」
俺が新聞を睨みつけていると焦った足音で近付いて来る何者か。
視線を向けると学生であろうが丸眼鏡に所々白髪まみれの頭な、見るからに苦労人の青年。
「これはこれは、リエル様。僕たちの新聞を読んでいただき」
「お前がこれを書いたのか?」
「いやぁ……その……まあ、はい。新聞部部長をしております」
「ゴシップを書くならまず事実を確かめろ。ひとりの視点からだけじゃ内容は偏る。そんなものは報道とは言えない。マスゴミなんて言われ始めたらもう終わりだぞ」
「も、申し訳ございません」
汗をだらだらと流し、頭を下げる新聞部部長。
タイトルは陳腐だけど文章も綺麗でとても読みやすいぶん残念だ。
アイビーのことを少しでも知っていれば悪女なんて書いたりしない。
「それとこの挿絵、誰が書いた」
「アイビー公爵令嬢の似顔絵ですか。美術部に依頼して」
「原画が欲しい。いくらだ」
「え?」
「彼女の美しさが大変よく描写されている。写真もないこの世界でよくぞここまで。新聞の挿絵は鉛筆で書かれているようだが出来ればカラー版が欲しい。どうか彼女を象徴する優しくも力強い赤で!」
「ちょっと、リエル様!?」
なぜか慌てて俺の腕を引くアネモネ。
気のせいか顔が真っ赤な気がする。
そんなのは気にしている場合ではない、必ずやこのアイビーの似顔絵の原画を手に入れなくては。
俺はいたって真面目である。
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