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月夜桜

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第一章 忍び寄る影

2話 初めてのLHR2

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「えーと、とりあえず、連絡事項から伝えたいと思います」

 望奈美は、気を取り直して手元のメモ帳を見る。

「今日から一週間後に新入生宿泊研修会──という名の新入生親睦会が行われます。皆さん、準備をしておいてください。しおりは今から配ります」

 先ほどの書類の束から白い冊子を取り出し、一番前の席に人数分のそれを置いていく。
 しおりの表紙には、『新入生宿泊研修~旅のしおり~』と書かれており、その下には名前を書く空欄が設けられていた。
 ページを一枚めくると、そこには実施要項が。


 ・日 時:令和十九年四月十三日(月)
 ・集 合:本校正門前第一駐車場 八時集合
 ・目的地:京都府京都市桂周辺
 ・宿泊地:山の手山荘
 ・特筆点:公共交通機関などが理由で八時に到着出来ない場合、前日十七時までに申請することによって自宅から本校までの送迎バスを運行します。また、宿泊は二泊三日となるので気を付けてください。当日に遅刻又は欠席する場合は、状況が分かった時点若しくは七時までに連絡すること。

(ふむ。二泊三日……まずいな。武装をどうするべきか)

「それと、皆さん、今から渡す手紙は保護者宛になっていますけど、これは生徒用なので自分で保管しておいてください」

 そう言いながらプリントを配っていく。
 そこにはこう書かれていた。

 ──────────────────────────────────────

                             令和十九年四月六日

 保護者 各 位

                      山川高等学校教務部 長谷川 千尋

 拝啓 
 桜花爛漫の候、皆様におかれましてはますます輝かしい春をお迎えのことと存じます。
 さて、この度、本年度におきましても「新入生宿泊研修会」を実施することになりましたため、下記に概要を記させていただきます。
 本校の教育活動へのご協力、よろしくお願いいたします。
 なお、今回の研修におきましては、費用は『全て』本校でお支払いいたします。つきましては、新たに備品などを購入された際には、本校経理部宛に御請求いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
                                    敬具

                  記

 1.日 時:令和十九年四月十三日(月)
 2.集 合:本校正門前第一駐車場 八時集合
 3.目的地:京都府京都市桂周辺
 4.宿泊地:山の手山荘
 5.その他:期間は二泊三日となります。 なにか御座いましたら、本校教務部 長谷川までご連絡ください。

                                   以 上

 ──────────────────────────────────────

「はい、これらを読んで何か分からない事とかありませんか? ないのなら説明に移りますが」

 一通り見渡し、挙手する生徒が居ない事を確認してから言葉を続ける。

「はい、居ないようなので説明に移りますね。この学校では、毎年、新入生に対して研修という名の親睦会を行っています。この目的の一つがクラスのみんなと仲良くなりましょうということです。また、この他にも校則の詳しい説明やクラブ紹介なども行われるので、楽しみにしていてください。因みに、私は写真部の顧問をしていますよ。まぁ、実績は殆どないんですが……」

 しょんぼりといった様子で肩を落とす望奈美に、忠長を除く男子生徒──延いては女子生徒までもが保護欲に狩り立てられる。

「こほん。気を取り直して。行先は、しおりに書いてある通り、京都です。初日を除き、夕方までは班で分かれて京都を観光。夜は宿でレクリエーションです。宿というよりかは、ホテルに近いと思いますけど、向こうが『ここは宿だ! 絶対にそれだけは譲らんぞ!』と言っているので、宿です。今回に限り、こちらで寝泊りする班と観光をする班に分けます。勿論ですが、前者は男女別、後者は男女混合となります。不埒なことを考えていた男子生徒諸君、この学校の風紀委員はとても怖いので、気を付けるようにしてくださいね?」

 何名かが目を逸らし、音の出ない口笛を吹き始める。
 忠長はちらりと一瞥し、直ぐに興味を失ったかのようにしおりへ目を戻した。

「えーっと、あとは、集合場所周辺には私達が立っているので迷子になることはないと思います。また、前日の十七時までに私に電話をすれば、送迎バスを手配することが可能です。欠席の連絡は七時までに学校へ。遅刻する場合は、少しでも遅れると分かった時点で今から教える番号に連絡をしてください」

 マーカーを取り出し、きゅっきゅっと電話番号を書き綴っていく。
 一昔前までは主流であった電話番号のイニシャルだったため、生徒たちは驚いたように顔を見合わせた。

「遅刻するときは、この電話番号ですよ! 今すぐどこかにメモしてください!」

 言われるまでもなくメモを終えていた忠長は、当日の工程と対処を思い浮かべているのであった。
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