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月夜桜

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第一章 忍び寄る影

4話 罰則強制執行部

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「はい、では、これより風紀委員会会議を行いたいと思います。進行は、私、風紀委員長の早川虹海はやかわななみが行います。議事録は、梓紗ちゃん、お願いね?」
「了解です」

 会議室で行われ始めた風紀委員会会議には、新入生を含めて総勢五十一名の風紀委員が集まっていた。
 この内、約十七名ずつ【風紀部】【情報部】【罰則強制執行部】に分かれている。と、言うものの、【風紀部】に関しては全部門で行われているので、実質二部門しかないと言える。
 情報集めも武術にも自信の無い人がいる為、【風紀部】という抜け穴が作られたとも言う。
 平たく言えば、じゃんけんに負けた人用の助け舟みたいなものだ。

「というわけで、まずは各部門を纏める部長から自己紹介をしようか。それじゃあ、私からね。三年十七組、早川虹海よ。風紀委員長と罰員の部長をしているわ。……あっ、罰員ってのは、風紀委員会罰則強制執行部を略してるらしいね。誰が言い始めたのか知らないけど、罰則強制執行部なんて長ったらしい名前、非効率的すぎるからね。多分、私の会期中に名前を変えるから、その時はよろしく~。はい、次は梓紗ちゃん」

 その言葉に、眼鏡を掛けた黒髪の少女は、ツインテールを揺らしながら無表情にこう言った。

「二年九組、皇梓紗です。一応、情報部長をしています。よろしくお願いします」
「はいはい、梓紗ちゃん、もっと愛想良く、ね?」

 忠長は、無表情ながらも要所要所で少しだけ動く表情筋から「あ、この人は感情表現が苦手なだけで感情そのものは豊かなんだ」と思う。

「ん。じゃあ、次はうちやね! うちは二年六組の中島明松なかじまかがりや。風紀部長をやらしてもろてるで。気軽に〝明松ちゃん〟って呼んでなー?」

 元気よく関西弁をしゃべる金髪の彼女。
 正直に言って、風紀を取り締まる側のヘアカラーがこんなのでいいのかと思うが、この学校に髪に関する校則はないので問題ない。身だしなみで書かれてあることとすれば、爪を伸ばしすぎないように、ぐらいではないだろうか。
 これも、爪で人を傷つける恐れを少なくする観点から見れば正当性はある。加え、少々長いぐらいでは摘発されないのがこの学校だ。

「うんうん、自己紹介は終わったね。それじゃあ、新入生の自己紹介もちゃっちゃとやっちゃおう! まずは……そうだね、忠長君から行こうか。例外のことはなるべく早く伝えた方がいいしね。というわけで、よろしく!」
「何か、無茶苦茶な振り方をされた気がしますが──」

 そう言い、彼は立ち上がる。

「一年三組、吉村忠長です。よろしくお願いします。例外のことですが……姉弟子、ほんとに入らなくちゃダメです?」
「──弟弟子は、姉弟子の言うことに?」
「絶対服従です。はい。……というわけで、建学初の一年から罰員に入ることになりました。何かと至らぬ点があるとは存じますが、御指導御鞭撻の程、宜しくお願いします」
「委員長!!」

 彼が深くお辞儀をする前に異議を唱える声があげられる。

「何故、一年から罰員に入れるのですか! 危険過ぎますっ!! それに、前例がない!!」
「この子は、私の家の門下生。つまり、私の弟弟子に当たるの。人柄も実力もちゃんと把握しているわ。それと、前例は作るものよ? ああ、そうね。どれぐらいの実力かと言うと、塾頭候補筆頭だったっけ?」
「そこで話を振られても困ります、現塾頭(休職中)様?」
「ふふ、忠長君、いい度胸してるじゃないの。私、塾頭とかやりたくなかったのに、どっかの誰かさんに押し付けられてやってるんだけどなぁぁぁぁぁぁ???? 数年ぶりに姉弟喧嘩がしたいの??」

 突然発生した威圧に、風紀委員室が重苦しい雰囲気となる。

虹海さん・・・・、その話はまた後で決着をつけましょう。ですから、威圧を解いてください。どれだけ濃密な殺気を込めたらこうなるんですか。本当に堅気の人間ですか?」

 ふっと威圧が消え、満面の笑みを浮かべる虹海。何故か、機嫌がよくなったようでツーサイドアップにした栗色の髪がゆらゆら揺れている。

「皆、ごめんね~。ま、ということで、忠長君は罰員ってことでよろしく~。あとは、一組の子から順番に自己紹介していってね~」

 一組から順番に十七組の生徒の自己紹介が終わった後に虹海が口を開く。

「はぁ~い、皆ありがとう。取り敢えず、一年の皆には、一学期の間は風紀部に所属してもらうよ。詳しい説明は各部長から話してもらうとして……ほかに何かある人?」

 虹海がそう言うと、一人の女子生徒が手を挙げる。

「はい、宮古雫みやこしずくちゃん、どうぞ」

 水色の短髪で少し幼い顔つきをした少女が不満げに小さな口を開く。

「要求。その子だけ、不公平。私にも武術の実力がある。剣術だけど」

 忠長に向かって細い指を向けつつ、その眠たそうな目で彼を睨む。

「う~ん、そうは言ってもなぁ。私、雫ちゃんの実力を見たことないし」

 う~ん、う~ん、と唸る虹海。
 忠長が嫌な予感を感じ、「私と試合するのはなし」と口を開きかけた瞬間、虹海が「そうだ!」と掌を叩いた。

「異議あり」
「忠長君、私、まだ何も言ってないんだけど? それはそうと、委員長権限で異議申し立ては却下します。雫ちゃん、忠長君と試合してみようか。異種格闘戦になるけど、いい?」
「ん。異議なし。ただ、木刀を得物として使う許可が欲しい」
「許可します。また、突き技の使用・・・・・・も許可します」

 それに反応したのは、先ほど虹海に口答えをした二年の男子生徒だった。

「委員長! 突き技は危険過ぎます!」
「忠長君、どう?」

 そんな彼の言うことを完全に無視して忠長に話を振る。
 忠長は、眉間に指を置いて天井を見上げていたが、やがて観念したように言葉を紡いだ。

「はぁ、どうせ何を言っても変わらないですよね。分かりました。宮古雫さん、その申し出、受けさせていただきます。その代わり、互いに手加減なしで行きましょう。その方が後腐れありません」
「ん。賛成。委員長」
「両者の合意が確認できました。風紀委員長の名の下に、武道場の使用及び私闘を許可します。開始は、今から三十分後。それまでに準備をしてください。また、風紀委員に限り、観戦を許可します。梓紗ちゃん」
「はい。既に武道場のブッキングは終えています。また、風紀委員以外の立入禁止令を生徒会に通達しました」
「ありがとね」

 その言葉を聞いた忠長と雫の二人は、いつもと何も変わらない様子で風紀委員室から退出するのであった。
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