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マモルからの招待

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私はマモルからの手紙を、何度も眺めて呻いていた。一体これはどう言う意味なんだろうか。良い香りのするカードには明日の日付でマモルの住む離宮での晩餐への招待が書かれていた。

こんな招待を受けたのは初めてだった。そしてカードの下には赤い薔薇の返事をしますと書かれていた。私は落ち着かない気持ちで部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。


時々マモルから手紙を貰ったことはあったけれど、最近ではパタリとなくなっていた。それは丁度私が大人になったのと時を同じくしていたので、マモルが私と深入りしない様にとしているのが丸わかりだったので、私はそれはそれで酷く打ちひしがれた気分になったのだった。

これが最後になるかもしれないと思いながら、私の気持ちを込めて彫ったあの赤い薔薇が、マモルの気持ちを動かしたのかもしれないし、一方で最終通告を受けるかもしれない。

私は嬉しくも怖い気持ちで執事を呼び、明日の夜は特別な晩餐があるからと、持っている衣装の中で一番男っぷりが上がる様に見えるものを選んでもらった。


幼い頃から私についてくれている執事は鏡の中に映る、王子の中で一番濃い背中までの金色の髪と獅子族の証である金色の瞳を持つ私の顔を見つめながら、微笑んで言った。

「きっとマモル様も、デービス殿下が立派な獅子の王子になられた事を実感していただける事と思います。願望成就をお祈りしております。」

私は少し照れくさい気分で、ため息を吐きながら呟いた。

「ああ、私もそうであって欲しいと願っている。そうでなくては私の一途な恋心が報われないからな。」



見慣れた離宮の中を少し懐かしい気持ちで眺めながら、私は離宮の執事に案内されるがまま、晩餐の行われる大きな植物の生い茂ったガラス張りの美しい屋内庭園へと足を踏み入れた。少し日が暮れてくるにつれて魔法で美くしく輝き出すこの庭園は私が大好きな場所だった。

幼い頃、竜のロクシーと一緒に何度もここで遊んだ懐かしい記憶がどっと溢れ出てきて、私は思わず口を開けて天井を見上げた。小さな王子だった頃は遠くに見えていたロクシーの飛び回っていた天井は、大人になった今眺めてみれば、それほど遠くもないことが分かった。


「懐かしいでしょう?デービス殿下。よくここでロクシーと三人で遊びましたね。」

いつの間に側に来ていたのか、マモルはあの頃と全く変わらない姿で私の隣で微笑んでいた。あの頃はその柔らかな手を繋いで見上げていたマモルは、今は私の胸ほどの背丈になって、それでも相変わらず輝く様な悪戯っぽい黒い瞳を輝かせて私を見つめていた。

「マモル…。ああ、懐かしい。思えば私はずっとマモルと一緒に過ごす事が多かったんだって今なら良くわかるよ。先日兄上にも言われたんだ。お前はマモルの弟の様にべったりと過ごしていた癖に、それ以上をなぜ望むのかとね。私にしてみれば、それはそっくりそのまま兄上に返したい言葉だったけれど。」


するとマモルは少し困った顔をして、腰までつく様な長い黒髪をサラリと揺らして、私の手を引いて歩き出した。

「今日はデービス殿下から貰った木彫りの薔薇の花のお礼をしようと思ってね。とても気に入ったよ。殿下をここに呼ぶほどには。」

私はグッとマモルを引っ張って言った。

「マモル!焦らさないで教えてくれ。私を受け入れてくれるのか、そうでないのかを!」

すると少し赤らんだ顔を背けたマモルは、小さな声で呟いた。

「…受け入れるよ。」


そのマモルの言葉は瞬時に私の身体を駆け回った。マモルの甘い言葉が耳をくすぐったかと思うと、身体をひと息に熱くさせた。気がつけば私はマモルを掻き抱いて、半年前に犯す様に口づけたその甘い唇にもう一度貪る様な口づけを落としていた。

胸元に少し抵抗する動きを感じて顔を離すと、顔を赤くさせたマモルが、大きく深呼吸しながら囁いた。

「これから晩餐が有るんだよ?…夜食にしてもらった方が、いい?」

私は恋の成就に胸がいっぱいになりながら、マモルとの甘美な口づけにもう一度溺れた。他の獣人と何が違うのかははっきりしなかったけれど、マモルとの甘い口づけは私を夢中にさせた。赤い唇はふんわりと柔らかく応えて、私よりずっと小さな舌は滑らかで卑猥に私に絡みついた。


私は自分の首に回された細い指先がうなじを撫でるのを感じながら、マモルを抱き上げて踵を返すと、勝手知ったるマモルの寝室へと向かった。迎え入れてくれた時に居た執事や召使い達は姿を見せず、私は自分の抑えきれない衝動を他の獣人に見せなくて済んだ事に何処かホッとしていた。

マモルを抱えたままベッドに転がると、私を見上げたマモルは見せたことの無いしどけない表情で私に囁いた。

「デービス、愛してる。もし、デービスが受け取るのが私の愛の一部で良いと覚悟してくれるのなら、私はデービスに精一杯の愛を捧げるよ。」








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