お隣さんは僕のまたたび〜拗らせ両片思いの功罪

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

文字の大きさ
2 / 68
中学二年生

温水慶太

しおりを挟む
部活で少し疲れた身体を感じながらも、久しぶりの慶太との遊びの予定に心は浮き立っていた。慶太はお隣さんだ。僕が三歳でこの家に引っ越して来てから、一つ下の慶太とはずっと仲良しだ。これは一般的には幼馴染と言うのだろう。

僕は手早くシャワーを浴びてTシャツとハーフパンツに着替えると、家にあったスポーツゼリー飲料を二つ手に取って門邸を軋ませた。隣の門邸の前で呼び鈴を押すと重そうな足音を響かせて玄関が開いた。


「慶太、ちゃんとモニター見た?物騒なんだからチェックした方がいいよ。」

僕のそんな小言になんて事ない顔をしながら、僕を家に招き入れると家の鍵を掛けた。

「母さんパートだからちゃんと戸締り。これならいいでしょ?」

僕は肩をすくませて久しぶりの温水ヌクミズ家の匂いを嗅いだ。懐かしいこの家の匂いはずっと変わらない。三歳から入り浸って来た温水ヌクミズ家は、中学で部活を始めてからこそあまり来ていないけれど、僕の第二の家の様なものだ。


手土産を見せると慶太は機嫌良く階段を上がって行った。僕は自分よりひと回り大きな身体を恨めしげに見上げると、慶太の部屋の奥の扉を見つめた。静かな家の中には他には誰も居ないみたいだ。

「何かさ、部活は楽しいけど自由時間殆ど無いじゃん?中学生ってここまで変わるのかなって。」

そう言いながら、慶太は手にゲーム機を持ってベッドにボスンと転がった。僕は持って来たスポーツ飲料ゼリーをひとつ慶太に放ると、キョロキョロと部屋を見回した。


「何か、変わった?」

兄の翔太と違って散らかしがちの慶太の部屋が珍しく片付いている。慶太はニンマリ笑って、まるでとっておきの話があるかの様に声を顰めて言った。

「先週、女子が遊びに来た。」

僕は思わず口元を緩めて呟いた。

「お前、生意気。」

自分の事を棚に上げて、慶太の健全な行動に口を出す自分は随分な偽善者だと思いながら、笑う慶太を睨みつけた。


「彼女?」

ゲームのスタンバイを操作しながら、何気なく尋ねると慶太は眉を顰めて答えた。

「残念ながら友達。て言うか数人で遊ぶ予定だったのにさ、急にドタキャン。いきなり二人で俺焦ったよ。」

僕は絶対その女の子が図ったのだと思いながら、入学当初と比べたらすっかり中学生らしくなった慶太を見つめた。温水家は皆ガタイが良くて、おばさんでさえ多分170cmはあると思う。だから慶太もその例に漏れず中1の中じゃ頭ひとつ大きい。


僕はぱっちりした二重瞼のほりの深い顔を見つめながら尋ねた。

「慶太急に大きくなったよね。身長どれくらい?」

慶太はゼリーを吸い込みながら、僕に目を向けると言った。

「あー、母さんはとっくに越えたね。流石に父さんや兄さんには全然だけど。兄さんは高2なのにまだ伸びてるんだぜ。とっくに185cm超えてんのに。まぁバレーやるには良いんだろうけど。ま、俺はユウより大きいから満足だ。」


僕は飲み切ったゼリーパウチをゴミ箱に捨てると、肩をすくめて言った。

「デカい温水家の皆さんと比べられてもね?僕だって長谷部家では順調な成長ぶりですから。所謂平均値っていうね?」

慶太は笑いながら、でも何か言いたげな顔で僕を見ていた。僕はゲーム機を手にして顔を逸らして対戦しようと言った。何となく今日の昼に五十嵐先輩と待ち合わせしていた事を聞かれそうな気がしたんだ。でも、部活の先輩である五十嵐先輩と僕が話をしようが変には思われないはずだ。

僕は何となく慶太の視線を感じながらも、久しぶりの二人遊びを楽しんだ。












しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

運命の相手 〜 確率は100 if story 〜

春夏
BL
【完結しました】 『確率は100』の if story です。 本編は現代日本で知り合った2人が異世界でイチャラブする話ですが、こちらは2人が異世界に行かなかったら…の話です。Rには※つけます(5章以降)。「確率」とは違う2人の関係をお楽しみいただけたら嬉しいです。

父の男

上野たすく
BL
*エブリスタ様にて『重なる』というタイトルで投稿させていただいているお話です。ところどころ、書き直しています。 ~主な登場人物~渋谷蛍(しぶや けい)高校二年生・桜井昭弘(さくらい あきひろ)警察官・三十五歳 【あらすじ】実父だと信じていた男、桜井が父の恋人だと知ってから、蛍はずっと、捨てられる恐怖と戦っていた。ある日、桜井と見知らぬ男の情事を目にし、苛立ちから、自分が桜井を好きだと自覚するのだが、桜井は蛍から離れていく。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

〔完結済〕この腕が届く距離

麻路なぎ
BL
気まぐれに未来が見える代わりに眠くなってしまう能力を持つ俺、戸上朱里は、クラスメイトであるアルファ、夏目飛衣(とい)をその能力で助けたことから、少しずつ彼に囲い込まれてしまう。 アルファとかベータとか、俺には関係ないと思っていたのに。 なぜか夏目は、俺に執着を見せるようになる。 ※ムーンライトノベルズなどに載せているものの改稿版になります。  ふたりがくっつくまで時間がかかります。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ
BL
「他人に触られるのも、そばに寄られるのも嫌だ。……怖い」 現代ヨーロッパの小国。王子として生まれながら、接触恐怖症のため身分を隠して生活するエリオットの元へ、王宮から侍従がやって来る。ロイヤルウェディングを控えた兄から、特別な役割で式に出て欲しいとの誘いだった。 無理だと断り、招待状を運んできた侍従を追い返すのだが、この侍従、己の出世にはエリオットが必要だと言って譲らない。 しかし散らかり放題の部屋を見た侍従が、説得より先に掃除を始めたことから、二人の関係は思わぬ方向へ転がり始める。 おいおい、ロイヤルウエディングどこ行った? 世話焼き侍従×ワケあり王子の恋物語。  ※は性描写のほか、注意が必要な表現を含みます。  この小説は、投稿サイト「ムーンライトノベルズ」「エブリスタ」「カクヨム」で掲載しています。

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。

処理中です...