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動き出す関係
夏休み直前
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「夏休み前にインターハイ本戦始まるの?」
僕が慶太に尋ねると、高校のバレーボールの本戦は夏休み入ってすぐがメインだと教えてくれた。そう答える慶太の隣を歩きながら、慶太が先日のキスについて全く触れてこないのが何とも落ち着かなかった。…良いんだけど別に。
「おはよう、長谷部。」
そう言って声を掛けてくる僕の少ない友人達が、もはや珍しげに慶太を見なくなっていた。僕と慶太が幼馴染で、たまに朝も一緒に来るのはすっかり慣れた光景になりつつあった。
僕はチラッと慶太を横目で見て言った。
「慶太は大会観に行く?」
すると慶太はじっと僕を見て尋ねてきた。
「なぁ、どうして急に兄貴の大会に行きたがる様になった?圭さん?」
僕は眉を顰めて何故ここで圭さんが出てくるのか不思議に思った。確かに慶太にしてみれば急な事なんだろう。僕はいつだって応援に行きたかったけれど。
「別に応援はいつも行きたかったんだよ。翔ちゃんのチーム強いし。でも去年は翔ちゃん一年だったでしょ。あまり試合には出られなかっただろうし。
でも前回圭さんが誘ってくれた試合でのあの活躍見たら、もうすっかり全部観に行きたくなっちゃった。まして今回はインターハイ本戦だからね!いっぱい応援しなくちゃ!」
僕がそう意気込んでいると、慶太は呆れた様に言った。
「まぁ侑の兄貴贔屓は昔からだからな。ちっさい頃は翔ちゃん、翔ちゃんってバカみたいに纏わりついててさ。」
僕は自分の翔ちゃんへの恋心が慶太に見透かされそうな気がして、慌てて言った。
「とにかく、本戦は慶太と一緒に行けなくても行こうと思ってる。場所はちょっと遠いけど多分一人で行けるだろうし。部活休んでも行くよ。」
慶太は肩をすくめて自分も出来るだけ一緒に行くけどと、呆れた様に言ってくれた。僕はやっぱり文句を言いながら優しい慶太にっこり笑って礼を言うと、手を振ってそれぞれの学年の下駄箱へと別れた。
靴を履き替えていると、クラスの女子の中で比較的話をする加賀美が下駄箱から靴を引っ張り出しながら話し掛けてきた。
「おはよう、長谷部。相変わらずあの一年生と仲良しだね。サッカー部の。幼馴染なんだっけ?」
僕はニヤリと笑う加賀美に挨拶を返すと頷いた。
「そう、可愛い弟分なんだよ。」
すると加賀美がクスクス笑って意味深な表情で首を傾げた。
「そうなの?私には長谷部の番犬に見えるけど。綺麗なご主人様を必死で守ろうとする健気なワンコって感じ。」
僕は首を傾げて加賀美を見た。加賀美の言うことは時々分からない。僕はクスッと笑って言った。
「確かに僕はお世話されがちだけど、だからって番犬は酷いよ。ふふ。」
すると加賀美が何か口の中で呟いたけど僕には聞こえなかった。
去年と同じ様に、慌ただしく夏休み前の日々は過ぎてあっという間に終業式になった。体育館に学年別に並びながら、僕は三年の集団の中から、僕を見る五十嵐先輩と目が合ってお辞儀をした。別に部活の先輩なのだからおかしい事は何もないはずだけど、先輩の周囲の生徒が何やらクスクスと盛り上がっていたので、何だか居た堪れない。
最後に入ってきた一年生の集団の中から、頭ひとつ抜きん出た慶太が僕の方を向いて手を振るから、これはこれで僕の方が落ち着かない。昔から慶太は物おじしない所があったけど、幼馴染とバレてからは更に気にしなくなった気がする。
周囲の同級生や一年生が僕と慶太をチラチラ見るから、僕はため息をついて前だけを見ていた。だから五十嵐先輩が僕と慶太のやりとりを眉を顰めて見ていたなんて全然気が付かなかった。
僕の中二の夏休みはもう目の前に迫っていた。僕は翔ちゃんの試合を見に行ける事が楽しみで仕方がなかったけれど、僕を取り巻く景色がすっかり変化し始めていたなんて、その時は全然意識してなかったんだ。そう、多分。
僕が慶太に尋ねると、高校のバレーボールの本戦は夏休み入ってすぐがメインだと教えてくれた。そう答える慶太の隣を歩きながら、慶太が先日のキスについて全く触れてこないのが何とも落ち着かなかった。…良いんだけど別に。
「おはよう、長谷部。」
そう言って声を掛けてくる僕の少ない友人達が、もはや珍しげに慶太を見なくなっていた。僕と慶太が幼馴染で、たまに朝も一緒に来るのはすっかり慣れた光景になりつつあった。
僕はチラッと慶太を横目で見て言った。
「慶太は大会観に行く?」
すると慶太はじっと僕を見て尋ねてきた。
「なぁ、どうして急に兄貴の大会に行きたがる様になった?圭さん?」
僕は眉を顰めて何故ここで圭さんが出てくるのか不思議に思った。確かに慶太にしてみれば急な事なんだろう。僕はいつだって応援に行きたかったけれど。
「別に応援はいつも行きたかったんだよ。翔ちゃんのチーム強いし。でも去年は翔ちゃん一年だったでしょ。あまり試合には出られなかっただろうし。
でも前回圭さんが誘ってくれた試合でのあの活躍見たら、もうすっかり全部観に行きたくなっちゃった。まして今回はインターハイ本戦だからね!いっぱい応援しなくちゃ!」
僕がそう意気込んでいると、慶太は呆れた様に言った。
「まぁ侑の兄貴贔屓は昔からだからな。ちっさい頃は翔ちゃん、翔ちゃんってバカみたいに纏わりついててさ。」
僕は自分の翔ちゃんへの恋心が慶太に見透かされそうな気がして、慌てて言った。
「とにかく、本戦は慶太と一緒に行けなくても行こうと思ってる。場所はちょっと遠いけど多分一人で行けるだろうし。部活休んでも行くよ。」
慶太は肩をすくめて自分も出来るだけ一緒に行くけどと、呆れた様に言ってくれた。僕はやっぱり文句を言いながら優しい慶太にっこり笑って礼を言うと、手を振ってそれぞれの学年の下駄箱へと別れた。
靴を履き替えていると、クラスの女子の中で比較的話をする加賀美が下駄箱から靴を引っ張り出しながら話し掛けてきた。
「おはよう、長谷部。相変わらずあの一年生と仲良しだね。サッカー部の。幼馴染なんだっけ?」
僕はニヤリと笑う加賀美に挨拶を返すと頷いた。
「そう、可愛い弟分なんだよ。」
すると加賀美がクスクス笑って意味深な表情で首を傾げた。
「そうなの?私には長谷部の番犬に見えるけど。綺麗なご主人様を必死で守ろうとする健気なワンコって感じ。」
僕は首を傾げて加賀美を見た。加賀美の言うことは時々分からない。僕はクスッと笑って言った。
「確かに僕はお世話されがちだけど、だからって番犬は酷いよ。ふふ。」
すると加賀美が何か口の中で呟いたけど僕には聞こえなかった。
去年と同じ様に、慌ただしく夏休み前の日々は過ぎてあっという間に終業式になった。体育館に学年別に並びながら、僕は三年の集団の中から、僕を見る五十嵐先輩と目が合ってお辞儀をした。別に部活の先輩なのだからおかしい事は何もないはずだけど、先輩の周囲の生徒が何やらクスクスと盛り上がっていたので、何だか居た堪れない。
最後に入ってきた一年生の集団の中から、頭ひとつ抜きん出た慶太が僕の方を向いて手を振るから、これはこれで僕の方が落ち着かない。昔から慶太は物おじしない所があったけど、幼馴染とバレてからは更に気にしなくなった気がする。
周囲の同級生や一年生が僕と慶太をチラチラ見るから、僕はため息をついて前だけを見ていた。だから五十嵐先輩が僕と慶太のやりとりを眉を顰めて見ていたなんて全然気が付かなかった。
僕の中二の夏休みはもう目の前に迫っていた。僕は翔ちゃんの試合を見に行ける事が楽しみで仕方がなかったけれど、僕を取り巻く景色がすっかり変化し始めていたなんて、その時は全然意識してなかったんだ。そう、多分。
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