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乗り越える壁
翔ちゃんを応援
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心臓がドクドクと踊っているのが分かる。試合が進行するにつれて、周囲と同様にため息と興奮が繰り返し積み重なっていく。僕は後から出て来た翔ちゃんを目を凝らして見つめていた。
無駄のない動きと凄まじいジャンプ力は日頃の練習の賜物なのだと感じる一方で、それは相手のチームも同じだと言うことが素人の僕にも伝わって来た。
どちらが勝っても負けても納得できる様なその白熱した試合は、どこで勝負が決まるのかと、僕と慶太は時々顔を見合わせながら興奮と不安に顔を強張らせた。
翔ちゃんとチームメイトが飛び上がったブロックが相手のスパイクを捉えた時、僕たちは思わず立ち上がって声を枯らした。結局それから流れが優位になって、翔ちゃんの二葉高校は勝利を収めた。
僕と慶太は抱き合って声にならない叫び声をあげたけれど、それは周囲の観戦の人達の興奮した声に紛れて吸い込まれていった。
「翔ちゃんやった!一回戦突破したよ、慶太!」
興奮が冷めやらない僕に慶太は呆れた顔を見せながら、どこか誇らしげに言った。
「全くハラハラさせてさ!まぁ兄貴すげぇよ!だって全国一回戦突破だぜ?」
三年ぶりの二葉高校インハイ出場は、下の方の高校応援席でも盛り上がっていて、僕たちはまだ熱い気持ちと身体の火照りを覚ますべく席を立った。今日は二回戦もあるので、僕たちはそれまで時間を潰そうと三階一般席を出た。
表示ビジョンを観に行くと、沢山の人たちがそれを眺めていた。僕たちはまだ時間が相当ありそうだとアリーナを一旦出ることにした。ここは都会の整備されたアリーナだから読み取りスタンプで再入場が可能だった。
近くの大きな公園で念のために買って置いたサンドイッチやおにぎりを食べようと、僕たちは歩き出した。すると後ろから声を掛けられた気がして、僕たちは足を止めた。見るからに女子高生らしい二人連れは、何やらヒソヒソと話しながら明らかに僕たちを見ている。
僕と慶太は顔を見合わせて、その見知らぬ女子高生たちを眉を顰めて見つめた。
「ねぇ、この前二葉の応援来てたでしょ?今日も観に来てたの?君たち選手の誰かの関係者だったりする?」
インハイ出場を決めたあの予選の時に、近くで応援していた女子高生かもしれない。僕は面倒くさい相手に捕まったと思いながら、無言を貫いた。でも慶太はそもそも愛想が良くて良いやつだから、女子高生たちを無碍にすることなど出来なかった。
「…はい。温水翔太の弟ですけど。」
すると女子高生たちが喜色満面で、僕たちに、いや、慶太に猛烈にアピールして来た。
「私たちぃ、温水君の大ファンなの!えー、信じられない!弟君もバレーボールやってるの?…確かに似てるよね!ちょっとタイプは違うけど。ね、連絡先交換しない?お兄さんの事もっと教えて欲しいな。」
慶太は、翔ちゃんのファンを名乗る図々しい女子高生たちを無碍にも出来ずに困っている様だった。僕は慶太の腕を掴んで引っ張ると、うるさい女達にひと言言って歩き始めた。
「あの、個人情報保護してるんで、すみません。」
女子高生が僕の顔を見て黙ってしまったので、僕たちは後ろからの視線を感じながら公園へと入って行った。僕の怒りのオーラに慶太は笑いを浮かべながら言った。
「…侑、せっかく可愛いお姉さんと知り合える所だったのに。」
僕は慶太をジロリと睨んで公園のベンチを指差して言った。
「はぁ?あんなギャルっぽいの趣味な訳?そもそもあいつら圭さんの取り巻きだって。慶太利用して、あわよくば翔ちゃんに近づこうとしてるの見え見えじゃん。キモいよ。翔ちゃんにはもっとマシな女子じゃないと。」
慶太は面白そうに僕を見つめると、ニヤつきながら言った。
「何かうちの兄貴が彼女つれて来たら、侑が凄い勢いでチェックしそうじゃん。俺、目に浮かんだわー。」
僕は翔ちゃんが自分で選んだ人なら大丈夫でしょと言いながら、もし翔ちゃんが彼女を連れてくる様な事があったら、絶対に会わない様にするだろうと思った。想像で翔ちゃんが誰かの彼氏になるのは納得していても、実際目にしたら僕が苦しくなるだけなのは分かりきっていた。
僕は今までの様に、翔ちゃんと距離を取っていた方が良かったのだろうかと思わずにはいられなかった。キーチェーンを渡したあの日、僕は翔ちゃんに改めて好きと言う感情を刻みつけられてしまった。
あの見つめ合った時間、僕は翔ちゃんの目の中に何か動く感情を見つけた気がしたけれど、それはやっぱり勘違いだったんだろうか。僕と翔ちゃんの間に横たわる壁は高くて、結局僕はそれを登ることも、突き破る勇気もなくて頑張ってとそのひと言を言うので精一杯だったんだ。
無駄のない動きと凄まじいジャンプ力は日頃の練習の賜物なのだと感じる一方で、それは相手のチームも同じだと言うことが素人の僕にも伝わって来た。
どちらが勝っても負けても納得できる様なその白熱した試合は、どこで勝負が決まるのかと、僕と慶太は時々顔を見合わせながら興奮と不安に顔を強張らせた。
翔ちゃんとチームメイトが飛び上がったブロックが相手のスパイクを捉えた時、僕たちは思わず立ち上がって声を枯らした。結局それから流れが優位になって、翔ちゃんの二葉高校は勝利を収めた。
僕と慶太は抱き合って声にならない叫び声をあげたけれど、それは周囲の観戦の人達の興奮した声に紛れて吸い込まれていった。
「翔ちゃんやった!一回戦突破したよ、慶太!」
興奮が冷めやらない僕に慶太は呆れた顔を見せながら、どこか誇らしげに言った。
「全くハラハラさせてさ!まぁ兄貴すげぇよ!だって全国一回戦突破だぜ?」
三年ぶりの二葉高校インハイ出場は、下の方の高校応援席でも盛り上がっていて、僕たちはまだ熱い気持ちと身体の火照りを覚ますべく席を立った。今日は二回戦もあるので、僕たちはそれまで時間を潰そうと三階一般席を出た。
表示ビジョンを観に行くと、沢山の人たちがそれを眺めていた。僕たちはまだ時間が相当ありそうだとアリーナを一旦出ることにした。ここは都会の整備されたアリーナだから読み取りスタンプで再入場が可能だった。
近くの大きな公園で念のために買って置いたサンドイッチやおにぎりを食べようと、僕たちは歩き出した。すると後ろから声を掛けられた気がして、僕たちは足を止めた。見るからに女子高生らしい二人連れは、何やらヒソヒソと話しながら明らかに僕たちを見ている。
僕と慶太は顔を見合わせて、その見知らぬ女子高生たちを眉を顰めて見つめた。
「ねぇ、この前二葉の応援来てたでしょ?今日も観に来てたの?君たち選手の誰かの関係者だったりする?」
インハイ出場を決めたあの予選の時に、近くで応援していた女子高生かもしれない。僕は面倒くさい相手に捕まったと思いながら、無言を貫いた。でも慶太はそもそも愛想が良くて良いやつだから、女子高生たちを無碍にすることなど出来なかった。
「…はい。温水翔太の弟ですけど。」
すると女子高生たちが喜色満面で、僕たちに、いや、慶太に猛烈にアピールして来た。
「私たちぃ、温水君の大ファンなの!えー、信じられない!弟君もバレーボールやってるの?…確かに似てるよね!ちょっとタイプは違うけど。ね、連絡先交換しない?お兄さんの事もっと教えて欲しいな。」
慶太は、翔ちゃんのファンを名乗る図々しい女子高生たちを無碍にも出来ずに困っている様だった。僕は慶太の腕を掴んで引っ張ると、うるさい女達にひと言言って歩き始めた。
「あの、個人情報保護してるんで、すみません。」
女子高生が僕の顔を見て黙ってしまったので、僕たちは後ろからの視線を感じながら公園へと入って行った。僕の怒りのオーラに慶太は笑いを浮かべながら言った。
「…侑、せっかく可愛いお姉さんと知り合える所だったのに。」
僕は慶太をジロリと睨んで公園のベンチを指差して言った。
「はぁ?あんなギャルっぽいの趣味な訳?そもそもあいつら圭さんの取り巻きだって。慶太利用して、あわよくば翔ちゃんに近づこうとしてるの見え見えじゃん。キモいよ。翔ちゃんにはもっとマシな女子じゃないと。」
慶太は面白そうに僕を見つめると、ニヤつきながら言った。
「何かうちの兄貴が彼女つれて来たら、侑が凄い勢いでチェックしそうじゃん。俺、目に浮かんだわー。」
僕は翔ちゃんが自分で選んだ人なら大丈夫でしょと言いながら、もし翔ちゃんが彼女を連れてくる様な事があったら、絶対に会わない様にするだろうと思った。想像で翔ちゃんが誰かの彼氏になるのは納得していても、実際目にしたら僕が苦しくなるだけなのは分かりきっていた。
僕は今までの様に、翔ちゃんと距離を取っていた方が良かったのだろうかと思わずにはいられなかった。キーチェーンを渡したあの日、僕は翔ちゃんに改めて好きと言う感情を刻みつけられてしまった。
あの見つめ合った時間、僕は翔ちゃんの目の中に何か動く感情を見つけた気がしたけれど、それはやっぱり勘違いだったんだろうか。僕と翔ちゃんの間に横たわる壁は高くて、結局僕はそれを登ることも、突き破る勇気もなくて頑張ってとそのひと言を言うので精一杯だったんだ。
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