イバラの鎖

コプラ

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辺境の地で

団欒

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 セリーナ姉上から食後に兄弟だけでゆっくり話をしましょうと誘われて、僕はいつになく心が浮立った。結局兄上は騎士達と訓練したり、義父上と二人で書斎に篭って話をしたりと、忙しそうにしていて僕の相手などして貰えなかった。

 だから姉上の気遣いは舞い上がるほど嬉しくて、僕はまるで飛び跳ねる様に談話室へと向かった。

 落ち着いた雰囲気の談話室は昔から家族だけで使う思い出深い場所だった。僕より先に来ていたセリーナ姉上は、珍しいお菓子や果物、珍味の様なもの、そして僕用のお茶、二人用の軽いお酒を用意させると侍女を下げた。


 「姉上、お誘い下さってありがとうございました。…あの兄上は?」

 僕は並べてある美味しそうなものを確認しながら、姉上の勧めてくれた椅子に座った。姉上は僕のためにお茶を手ずから淹れながら言った。

「もう来ると思うわ。全くシモンは忙しがって兄弟と碌な話もしないんだから。アンドレもほとんど話していないのでしょう?私だって後三ヶ月もすれば、結婚でこの城を出て行くのだから、もっと気を遣って欲しいわ。」

 セリーナ姉上がそう愚痴っていると、開けられた部屋の扉を拳で軽くノックしたシモン兄上がこちらを見つめていた。


 「まったく、少し遅れたくらいなのに悪口が始まっていたのか?相変わらず姉上はキツいな。そんなんじゃ、お相手に逃げられてしまうだろう?」

 そう軽口を叩く兄上はいつになくリラックスしている様子で、僕は知らず微笑んでいた。

「あら、私は大丈夫よ。私と結婚できなかったら、彼は騎士団を辞めると駄々をこねた位なんだから。」

 口元を緩めながら姉上は応戦した。え?将来の騎士団長と目される、あの豪腕の騎士がそんな事を言ったの?僕が驚いてポカンとしていると、二人で顔を見合わせてクスクス笑った。


 「アンドレが信じるだろう?まぁ、騎士団長の息子が昔から姉上にベタ惚れだったのは公然の秘密だからね。実際そんな事も言いそうな気がして来た。…姉上、婚約おめでとう。1日早いけど、乾杯しよう。」

 そう言って、兄上は自分で注いだグラスを掲げた。僕は慌ててお茶のカップを掲げるとひと口飲んだ。

「姉上がこの城を出ていってしまうのは寂しいですね。兄上もいらっしゃられないし…。」

 すると姉上は僕に優しく微笑んで言った。

「あら、もう直ぐ私達の新しい兄弟が出来るじゃない。私の結婚後に生まれるのではなくて?楽しみだわ。寂しいなんて言ってられないくらい、きっとアンドレは大忙しよ?」


 僕は姉上の優しい言葉にニコリと笑った。確かに結婚式の後、母上の出産が控えている。バタバタしそうだ。すると兄上が僕の方をじっと見つめて言った。

「…アンドレはアランに面倒を見てもらっていると聞いた。彼は温厚だからアンドレとは相性が良いだろうね。」

 僕は兄上が僕に話を振ってくれたことに喜んで頷いた。

「ええ。でも僕は弟子としてはパッとしないので、兄上みたいな弟子の方が教え甲斐があるのではないかと申し訳なく思う時もあります。」

 すると兄上は少し顔を顰めて言った。


 「アンドレの世話役を誰にするかでだいぶ揉めたと聞いたが。希望者が多かった様だな。結局決まらなくて父上がアランに決めたと聞いた。知らなかったのか?」

 僕は首を傾げた。そんな話は初耳だ。だから僕は苦笑して言ったんだ。

「きっと僕の指導は楽できると思ったんでしょう。それなら希望者も多いのが頷けます。」

 僕の返事に、兄上はますます眉間の皺を深くした。僕は何がそんなに気に障ったのかと、動揺して目線を彷徨わせた。そんな僕たちの会話に割り込んできた姉上が、空気を変える様に言った。


 「シモン、王都での話をしてちょうだい。女の私の経験値ではアンドレの参考にならないでしょう?」

 僕はハッとしてシモン兄上の顔を見つめた。確かに王都や、王立学園の話を兄上から聞いた事はあまりない。兄上は僕たちの顔を見つめると渋々話し出した。

 兄上の話す学園の生活は、忙しいながらも僕には随分素晴らしいものに感じた。僕は身を乗り出して聞いていたけれど、姉上がふと気づいた様に僕に言った。

「ああ、アンドレはもう時間切れね。お子ちゃまは眠る時間だもの。従者が呼びにくる前に部屋に戻った方が良くはなくて?」


 僕は後ろ髪を引かれながらも、二人に挨拶をすると部屋に向かって廊下を歩き出した。これから姉上たちだけで話もあるだろう。二人より幼くて、しかも血の繋がっていない僕には話せないこともあるかもしれない。

 こうやっていつも僕はいじいじと、後ろ向きな事ばかり考えてしまう。決してそんな扱いをされてる訳ではないのに、僕は自信が持てないんだ。

 歩きながら、僕はポケットが膨らんでいるのに気づいてハッとして立ち止まった。姉上に婚約祝いとして、僕が用意した伝統的な木彫りのお守りを渡すのを忘れていたんだ。

 婚約式で忙しい明日より、今夜渡した方が良いと思ってポケットに入れてきたんだった。僕は踵を返して談話室へ微笑みを浮かべながら戻って行った。


 まさか兄上の冷たい言葉に打ちひしがれる事になるなんて、思いもせずに。

















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