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136 現世でチートを持っても碌な事にならない

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俺の事ですか? う~ん、そんなの聞いても、楽しくないと思いますよ? ……そんなに興味あります? 自分だけずるい? そんな事言える立場ですか? ……仕方ないですね。

俺が生まれた場所は、地球の日本って島国です。
父母姉、そして俺の四人家族。家庭は可もなく不可もなく、普通の家庭だったと思いますよ。

生れてから数年は、問題なく過ごして居たと思います。おかしくなったのは……おかしい事に気が付いたのは、小学校に入る前だったから、5~6歳頃かな?

その頃の俺は、周りの人の“様子を見て”、その人が喜ぶように話しかけたり、動いたりしていました。
何故って? 喜んでもらえればうれしい、その程度の理由だったと思います。そもそも、理由とか考えていませんって。

たまに関わる人なら、気の利く子供で済みましたが、近くに居る母親はそうではなかった。
初めの頃は、周りと同じ反応で喜んでくれていた。だけど、それが何回も何日も続けば、疑問に思う、疑問は不信に変わる。

始めは、本当に小さなものだった、それこそ違和感程度のモノ。
見えると言っても、それが何を意味しているかなんて、初見では分からない。だけど、それが良いものか悪いモノかぐらいは、何となく分かる。

どんどん大きくなってくる、俺に向けられる負の感情。更にそこに、怯えや恐怖の感情が募ってくる。
その理由が分からない俺は、如何にかその感情を払拭しようと、余計に干渉することになる。自分が原因だなんて、分かって無かったですからね。だって、こちらに接するとき、いつも普通の表情でしたから。

え? 自分が原因である事に気が付くとか、無理でしょ。物心つく前から見えていたんです。当時の俺にとって、この状況が当たり前、普通の事だったんです。普通の事を、疑う理由は無いでしょう?
俺も子供でしたからね、疑うことも無く、その情報を元に行動しましたとも。

そして、限界が訪れる。
その感情が表に、表情に、言葉に現れた時、その感情が何なのかを知った。
自分が原因であることを知った俺は、母から距離を置くことにした。近づくだけで、不信と嫌悪を向けてくるようになって仕舞いましたからね。暫く時間をおいて、改めて話をしようと思ったんです。

でも、その機会が訪れる事は無かった。

父の急な転勤、家族は、当時小学1年生だった俺を置いて出て行った。理由は聞いていない。まぁ、母親の精神状態が理由でしょうけど。

家政婦は居ましたけど、午前中だけで殆ど会うことは無い。実質独り暮らしですね。
学校側は、母が残っていると思っていたらしいですし、家政婦の方も、午後には家族が戻っていると思っていたらしい。家政婦は、俺の生存確認の為に置いて行ったのでしょうね。

父は仕事人間で、殆ど話した事が無かったですし、母には近づくわけにはいかなかった。
まぁ、必要な書類等は出してくれていましたし、そこまで不便は無かったですがね。

寂しい? 寂しいですか……考えたことも無かったですね。寧ろ人が誰もいない時間ができて、少し気が楽になっていた気がします。何だかんだ、気疲れしていたんでしょうね。

生い立ちはこんなもんでしょうか。

あ、見える感情については、学生生活の中で大体把握しました。
一般の人は、他人の感情が見えない事を含めてね。他人の行動を見ていたら、分かりますとも。
虐めで、加害者側が遊んでいただけですとか言った時、理解できなかったからね。周りも、それで済ませていましたし。

それからは、適度に察知して、面倒ごとにならない程度に指摘して、ちょうどいい塩梅を掴んでいきました。

社会に出てからも、それは変わらない。まぁ、これのお陰で、顰蹙を買うようなことを避けられたのは、良かったかな?

それも有って、かなり速く出世したと思います。周りへのフォローが大変でしたけど。
……出世したかった訳では無かったんですがね~。

就職して数年後には、新人の教育係を任された。相手は御得意様の所の息子さん。その親御さんとも面識がありましたし、その人からの指名もあっての抜擢だった。

うん、まぁ良い子でしたよ? 真面目でしたし、やる気も在りましたしね。でも、ちょっと適当な所があって、カギの閉め忘れとか、サインの書き忘れが多かったですね。何度言っても治らなかったし、本人も真剣に捉えていなかった。

そんなある日、とうとうやらかした。
出社して、顔を合わせてすぐに分かりましたとも。顔にも感情にも出ていましたから。

何があったか聞いても、何でもないとしか言わない。俺自身、思い当たる事が無い。彼の性格から、何かの管理等は任せていませんでしたからね。個人的な事かと思い直し、その日はそのまま仕事に移った。

そこで、脅してでも吐かせれば良かったんですよね~。次の日、俺は会社の金を横領したとして、会社側から訴えられた。

告発はその新人君……と、それを唆した同僚ですかね? 感情を見た限り、そうだと思いますよ?
その同僚、俺の出世を妬んでいましたからね。めんどうだから放置していましたけど。部署も違うし、話すことも無いのに、そこまで干渉するのも変でしょ?

そこからは速かったですね~。
内容は、会社の金を不正使用。目的は、借金の返済。
あ、覚えはないですよ? そもそも、借金とかした事なかったですし、それ位の額なら、返済できるだけの貯蓄在りましたし。

詳細は、俺が新人君に命令して、会社の金を引き落とし、渡したって事になっていた。
その金の行き先の確認者として、同僚が一緒に告発したらしい。

その二人の証言が重要視されて、碌に捜査もしなかったんじゃないですか?
真面目に話を聞かれることも無く、有罪判決が出ましたね。弁護人も、示談しか進めませんでしたし、俺の話を一切信用していませんでしたからね。

えぇえぇ、初めて、殺意ってものを覚えましたよ。関わった連中の事は、全部覚える位には。
ちなみに告発した同僚、借金で首が回らなかったらしい。俺を告発してから、羽振りが良くなったみたいですけど。
ん? えぇ、調べましたとも……その後? さぁ、どうなったんでしょうね~? ふふふ。

その後は、数日警察に拘留されていました。あそこは~、そうですね、肥溜でしょうか?
まるで、穴と言う穴に、汚物を流し込まれているかのような状態。
犯罪者扱いに、決め付け、侮蔑、軽蔑、何よりもそんな感情を抱きながら、俺は味方ですよ~と近づいてくるクズ。吐き気しか無かった。

まぁ、金払って、その件は終わりになりましたけどね。

その頃からでしょうかね~、他人の感情が見えるだけでなく、音や嗅覚でも判断できるようになったのは。
今までは、視界にさえ入れなければ良かったですが。その頃からは……もう無理でしたね。
他人に近づくだけで、不快感しか無かった。視界に入れるなんて、苦痛しか無かったです。

そこからは、如何にかこの感覚を消せないか、抑えられないか模索することになる。
結果としては、相手や周りへの興味を無くせば、抑えられることに気が付いた。

後はまぁ、知っての通りですね。バイトを転々として、犯罪者でも関係なく雇ってくれるところに就職。内容はブラックでしたけど、データを入力するだけの、人と一切関わらなくていい場所に配属して頂けました。会社がブラックだとしても、社員がブラックとは限りませんからね、当時の人事担当者には感謝しています。

大体こんなもんですかね? ね、面白くなかったでしょ?
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