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161 竜王とダンマス⑤(お友達)

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竜の谷は、乾燥した岩肌剥き出しの、厳しい環境との事でしたが……対価に何を提示して頂けますかね?

「そうだね……普段なら対価として、食料の提供の代わりに庇護を…となるのだが、君達には必要ないだろう……それでは、これを」

竜王様が目配せすると、近くに居た竜がこちらに飛んで来た。
その竜は大きめの袋を抱えており、目の前にその袋を広げると、その中身が露になる。これは…石か何かでしょうか?

「私の住処竜の谷で採取される、鉱石だよ。他の所では、滅多に取れない物もあるはずだから、交換材料としては申し分ない筈だ」

おぉ、鉱石ですか! これは有り難いですね。家のダンジョン内では、金属類が産出されませんからね。要塞化している山脈にも、全くありませんでした。その為、金属を欲する場合、【生産】でDPを消費して作り出すしかない。
ですが、ダンジョンの属性の為か、土地柄のせいか、金属類の【生産】コストが、馬鹿にならないんですよね。

「他にも種類は有るから、何が欲しいか提示してくれれば用意しよう。これがサンプルだ」
「これはこれは、至れり尽くせりですね。拝見させていただきます」

ふむふむ、思った以上に種類が豊富で、迷いますね~。
【金《ゴッテンコウ》】に【銀《ベルナコウ》】【鉄《スチルコウ》】【真銀《ミスリル》】【真金《オリハルコン》】【黒鉄《ダマスコウ》】【無垢金《ベルナコルコウ》】【瘴金《ベナールコウ》】と、より取り見取り。
一人で決めるには、用途が多すぎますし、研究者マッド職人オタクさん達にも、確認したいところ。

「これで、交渉材料は問題ないかい?」
「はい、十分です。後は交換レートなど、細々したモノを決める必要がありますね」
「それは良かった。なんせ、金属類が全く見られなかったからね。欲しがるんじゃ無いかと思っていたんだ」

むむ、有り難いですが、お土産からそこまで読まれるとは……エレンさんの選択も有るでしょうが、油断なりませんね。

「そうだ、今度は君たちが私の元に来ると良い、歓迎するよ。私達が気付いていないだけで、そちらの利益になるモノがあるかもしれないからね」
「ええ。機会があれば、ぜひ伺わせて頂きます」
「失礼します。こちら、サラダになります」

安堵したのか、自棄なのか、葉野菜の盛り合わせをムシャムシャ頬張る竜王様。うん、美味しそうで、何よりです。

あぁ…ゴドウィンレポートが半分を切った。これは、要らない所を流し読みでスルーしていますね。

「しかし、周囲の警戒をしながら、物を読んで、会話して、よく同時に処理できますね」
「……<平行思考>や<高速思考>を使えば、そこまで難しい事では無いよ。君だってできるだろう?」
「う~ん、できなくはないですけど、長時間は難しいですね」

俺はスキルを使えても、習得ができませんからね。コアさんを経由する関係上、日常的に無意識レベルで使用ができない。なので、肉体や技術関係のスキルの使用が苦手なんですよね、集中力が持たないのです。

「それよりも、あの子がやっていることの方が凄いと思うけど。魔法と魔術の多重同時使用?」
「あぁ、魔導のことですか」
「魔導、初めて聞く言葉だね」

そりゃそうでしょう、なんてったって、魔導はここが発祥の地ですからね。
そもそも、今まで誰も同時に使用するって発想をしなかったらしく、もしくは秘匿でもしていたのか、<翻訳>する際、魔導に当たる言葉が存在しなかったのだ。
“魔法及び魔術の平行同時使用”、長いので他の呼び方が無いかと、皆で思案している時、俺が呟いた「魔法と魔術…魔の道…魔導?」を聞いた皆が賛同し、コアさんが世界にアクセス。

この瞬間、世界に魔導が誕生した。口は災いの元ですね……いや、本当、まじで。

「器用な事をするね。どれ…あ」

竜王様が、ルナさんの魔導を見て挑戦するも、魔術がすぐに崩壊して仕舞う。慣れないと難しいですからね。
大きいモノになると、集団魔法の様に合同でやらないとできない程。一人でできるルナさんが、異常なんですよね~。

「難しいね、これ。しかし、わざわざ両方を使う必要が有るのかい? 魔法で事足りると思うけど」
「やり方次第ですね、興味が?」
「興味は有るけど、今は良いかな。それよりも、その…先に聞きたいことが在るんだけど…」

おや? 歯切れの悪い言い方ですね、何か言いにくい事でしょうか?

「妖精族なのだけど、私の縄張りに連れて行けないだろうか? それと、居るならば悪魔族も」

あぁ、そう言えば、何体か妖精族の子が、テレさんに引っ付いて行っていましたね。元気でしょうかね~、まぁ妖精族ですし、好き勝手生きているでしょうね。
更に来て欲しいとは…妖精族を求めると言う事は、魔力溜まりが発生しやすい土地柄なのでしょうかね。

「う~ん、無理やりは遠慮…そもそも、彼等の特性からして無理でしょうけど、合意の下で連れて行く分には、何も言いませんよ? 俺の部下と言う訳でもありませんし、勧誘はご自由にどうぞ」
「本当かい! いやぁ、有り難い! 本当は鉱石を対価に提示しようと思っていたからね、本音を言うと、かなり困っていたんだ!」

あの困った感情は、それが元でしたか。
しかし対価が無いとは…先ほどの谷への招待も、何か価値があるモノが有れば言ってくれとの事でしたが、そんなに何も無いのですかね?

「土地もそうだけど、私達は竜だからね。何かを作ったり、育てたりする種族じゃ無いのさ」

あぁ、目の前の竜王様は人型ですけど、分身な上、元は頑強な竜族ですもんね。普段は身一つで事足りるのでしょう。
種族全体が弱体化していると言っても、普通の魔物よりも強いですからね。

……逆に、強い竜が他と隔絶した強さを持つともいう。目の前の存在が、良い証拠でしょう。分身でこれとか、本体どんだけなんでしょうね?

「しかし、本当に助かる! 私にできる事があれば、何でも言ってくれ! 力になるよ!」

こちらの両手を持って、感謝の気持ちを伝えて来る竜王様。本当にうれしいのでしょうね。
……ただちょっと、力を抑えて欲しいかな? 手が潰れる。

「困ったときはお互いさまと言う事で、他にも協力できることが在れば、言って下さい。竜王様が相手ならば、こちらも安心ですからね」

感性や良識が近い方を仲間にできるのは、とてもありがたい。それだけ、すれ違いが少ないと言う事ですからね。

「うむ! 竜族…竜の谷としても、君とは争う気はない。私の名のもとに宣言しよう」
「そんな簡単に決めて良いのですか?」
「構わないよ、君と戦っても損しかないからね。もし邪魔をする奴がいたら、私が直々に始末しよう」

おう、目がマジですね、怖い怖い。
周りはともかく、この方は素直に信じても良さそうですね。だがしかし、少々早計にすぎるのでは? 俺達が不利益を及ぼす事を、想定に入れているのでしょうか?

「その時は…その時だね。話し合いには乗ってくれるのだろう? それで十分さ。大半の主は、裏切るなりそもそも話にならない奴ばかりだからね」

殺伐としているな~。

「その……なんだ」

何でしょう? まだ何か言いにくい事でもあるのでしょうかね……なぜ、遠慮ではなく、羞恥心が溢れているので?

「竜族の王としてもそうなのだが、私個人としても、友好的な関係を持ちたいと思っているんだ。仰々しいのは、好きでは無くてね」
「確かにそれはありますね。格式ばった対応は、俺も好きではありません」
「そ、そうか! ならば、お互いの立場を抜きにして…あ~…なんだ。私の…と、友になってくれないだろうか」

友? …………友達?
おおぅ、全く縁のない言葉だったので、ピンと来なかった。友達ですか~……良い思い出がねぇ。

「だ…ダメだろうか?」
「う~ん、ダメとかの以前に、俺は友達はなるモノではなく、なっているモノだと思っていますからね」

実際、他人に対して友達と紹介する仲だとしても、内心全く思っていないとか、ざらにありますし。片方が否定すれば、気まずい雰囲気になったり、最悪こちらが非難までされる可能性がある。

ぶっちゃけ、めんどい。

「え~と、つまり?」
「お互いが友達だと思っていれば、それが本当の友達かと。言葉ではなく、態度と気持ちですね。あ、ちなみに俺は、竜王様の事嫌いじゃないですよ」

どっちかと言うと、好きまである。これだけ素直で、分かりやすく、好感が持てる、優秀な方は会ったことが在りませんからね。

「ならば、私は君を友と呼ぼう! 気持ちは既に、決まっているからな!」
「そ、そうですね。形から入るのも悪くないでしょう。よろしくお願いしますね、竜王様」
「様なんていらないさ! 竜王…も味気ないね。エゼルディア…エディと呼んでくれ! 私も、君の事をダンマスと呼ぼう!」

うぉ、眩しッ!?

一点の曇りのない、まるで赤子の様に純粋な笑顔と感情を、こちらに向けて来る竜王様。
あぁ、やべぇ、直視できねぇ。打算だらけの俺にとって、この笑顔は眩しすぎる。

こんな純真な感情、生まれたての赤子レベルだぞ。赤子と違って、感情がハッキリしているから、眩しくて仕方がない。
これは、とてもじゃ無いが断れねぇ…

「わ、分かりました。エゼルディアさんですね」
「エディ」
「エ…エディさん」
「あはは! よろしくな、ダンマス!」

― バン! -

余ほど嬉しかったのでしょう、手加減なく、思いっきり肩を叩いてくる竜王改めエディさん。その衝撃を真面に受け、俺の上半身は吹き飛び、エレンさんの目の前へと崩れ落ちた。

「あ……ごめん」
「ダンマスーーーー!!??」
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