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204 欲望の口

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ゼニーさんも出掛けた、少ないですが拠点を中心に護衛も付けたので、遠方への護衛の質も上がった、土地の買い取りも任せて、資材も当分の量を屋敷の倉庫に置いてきた……うん、カッターナでやる事が無くなりましたね!

できる事が無い訳ではありませんが、無理してまでする事でもありません。定期的に様子を見るとして、その辺りの事は本職の方々にお任せです。
それに、余りこちらを疎かにする訳にもいきませんからね。

「しかし、本当に遠慮なしに伐採しますね、こいつ等」

 魔物と言う脅威がある世界なので、視界を広く取る意味でも、間違いでは無いとは思いますけどね? こんな事を続けていたら、ここら一帯更地になって仕舞うではありませんか。後先考えているのでしょうかねぇ……考えて無いだろうなぁ。

 まぁこの認識は、人間ケルドだけでなく、あらゆる知的生物に共通して居そうですがね。
なんせ、この世界に在るあらゆるモノの成長速度が、俺が居た世界の比では無い。それに地面が吹っ飛んだとしても、その分魔力が撒き上がるので、それを元に元の地形に戻る力もあるので、枯渇するなんて考えがそもそも無いのかもしれません。環境破壊などの考え方は、一般的ではないのでしょう。

(しかし、全く魔物が出て来ねぇな)
(楽で良いけどよ~、これじゃ稼ぎにならねぇよ)

 ダラダラと、緊張感の欠片も無く周囲の者と駄弁る人間ケルド共。
 森に潜む魔物達は、相手の数を見て警戒しているのか、積極的に襲うのを避けて遠巻きから様子を伺うに留めて居ますからね。大半の者は、魔物の影すら見ていない。2、3日程度ならいざ知らず、そんな日々が5日6日と続けば、緊張感も薄れると言うもの。

(そう言えば、モエーノの馬鹿連中は何処行ったんだ?)
(最近見ねぇな……帰ったか?)
(ここに居ても、飯は食えても、金にはならねぇからな~)
 
 それ故に、勝手に森の奥へと無警戒に足を踏み入れた獲物達は、暗殺紛いの襲撃に会い、一人残らず腹の中に納まっている。
 ときたま逃げ出すことに成功する者も居ますが……まぁ、逃がす訳も無く、隠密状態で監視している子達が綺麗に一匹残らず捕まえて、実験の被検体に成っていますので、情報漏れなし! 
 ……一部の者は、かなり警戒しているらしいですがね。流石に全部が全部、馬鹿では無いか。

(平和だね~)
(平和ねぇ……森の中で、警戒に当たってた奴らの一部が、勝手に奥まで行って帰って来ないとか有るらしいが?)
(魔物が居るとしたら、こっちに来ないとか有り得ねぇだろ。ここの方が多いんだからよ、もしこの森に居るなら、今頃、ワラワラ群がってきてるって)
(よしんば襲われたとしても、誰も気づかないとか有り得ないだろ)
(……それもそうか!)
(寧ろ、奥に何かあって、独占してんじゃねぇか?)

 そんな感じで、呑気に馬鹿な事を呟く人間ケルド共ですが……その時間も終わりなんですよね~。

~ 報告。【ケルド】が、迷宮【結晶峡谷】へ侵入しました ~

―――

 伐採を強制されている奴隷たちは、命令通り黙々と木々を切り倒し、一か所に積み上げていく。

 そんな彼等が作業する数メートル先の森の中、伐採作業を邪魔されない為に、雇われのハンター達が、森からの襲撃に備えて交代で巡回していたのだが、その内の一グループが、森の奥へと足を進めていた。死んでいった馬鹿共とは違い、明確な目的を持って。

「この先だ、間違いない」
「おぅ……やべぇな。俺でも感じられるぞ」

 彼等が感じ取ったのは、今まで感じたことも無い程に濃密な魔力。足を進めるごとに重く、纏わりつくように、濃厚なものへと変わって行く。
そして、日光さえ遮る深い森がぶつりと途切れ、急激に視界が開けると、彼等はその魔力の出所を目の当たりにする。

「な、なんだこりゃ」

 彼等の目の前に広がるのは、数十メートルはある断崖絶壁。その手前には、崖に沿う様に広がる大地が裂けたかの様な大穴。まるで外からの侵入者を拒む様に、何かを区切る様に……存在するだけで恐怖心を掻き立てる巨大な地割れが、南北に延々と続いていた。

 地割れを覗き込むも日の光が底まで届くことなく、全てを飲み込むような深淵から、今まで通って来た森とは比較にならない程の魔力が、湧水が湧くように滾々と溢れ出していた。

「やべぇよ…この穴、ぜってぇやべぇよ」

 地の底から溢れ出す魔力を感じ取り、彼等は即座に判断する。自分達が対処できるレベルを明らかに超えていると。

 魔力が濃い場所には、必然的にその濃度に見合った存在が生息する。強力な魔物が多数闊歩する危険地帯である。
 せめてもの救いは、周囲の魔力が薄い事だろう。これでは、強力な魔物は上がって来る可能性は低い。

「だが……低いだけだ。ゼロじゃねぇ」
「まさか、ここら一帯に魔物が居なかったのって、ここに生息する魔物を避けてたって事か?」
「もしくは、狩り尽くされた後……とかな」
「道中に在った何もない広場とか、骨の山とか……その名残か?」

 全くの偶然だが、決して的外れな考えでは無い。
そして、強力な魔物が存在する可能性が在るならば、幾ら数が揃おうとも、彼等だけではまず対処できない。撤退する理由としては十分だろう。

 だがここに来て、この地の支配者によって撒かれた仕掛け悪意が芽吹く。

「待て、なんだこれ?」

 穴を覗き込んでいた者が、崖の縁に、日の光を反射し輝く物体を発見する。そこにあったのは、透き通る小さな水晶体。よく見れば、地割れの壁面にもチラホラと散見できた

硝子クリスコウか?」
「いや、魔力を感じる、寧ろ流れ込んでくる?」

 その透明な見た目から、硝子クリスコウかと当たりを付けるも、拾い上げた者はそれを否定する。それは周囲から魔力を吸収し、しかし拾い上げた者へ流し込む、不思議な物体だった。
少なくとも、彼等はこのような物体が存在する事を知らない。存在したとしても、この近辺では流通していない、希少な物である可能性が高い。

 新種の物質の発見。そう何度もある訳では無いが、全く無いことでもない。今も尚、未開の地には人が知らない、未知の存在が溢れているのだ。
そしてそれらは、発見者に巨万の富をもたらす。その事に思い至った彼等の思考は、完全に欲望に染まっていた。命を懸けるだけの価値があると。

「集めろ、他の奴らに先を越されるな!」
「壁面にある奴の方がでけぇぞ!?」
「あそこ! 下の方に、色が付いたでけぇの見えねえか!?」

欲望を掻き立て引きずり込む、底なしの悪意と言う名の芽が今、開花した。
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