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268 カッターナの日常①(賭け)

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 目的地に向けて、散歩がてらカッターナの街中を歩いていたら、コアさんからの報告が入った。
 なになに、おぉっと? ちょっと目を放していた間に、9番の転移塔が起動したのですか。起動させたのは何方様でしょうね……まぁ、予想は付きますが。

 えぇっと、ロット、ロビン、マリア、ララ、ジャックの、お決まり【破壊者】五人組ですね。って、あれ? 今朝方まで、ハンターギルドに居たはずですが……半日で塔まで行ったのですか?

 おぉう……探索しないで移動すると、めちゃくちゃ速いですね。然も今まで通りなら、【破壊者】ことジャックさんは殆ど力を貸していないはず。実質、4人だけで探索している状態でこの速度でしょう? おっかないですね~。

 う~ん。ちょっとヤバいかな? 人間性は、ゴトーさんからのお墨付きがあるので大丈夫だと思いますが、なるべく敵対関係にはなりたく無いんですよね~……特にジャックさん。

「そこの兄ちゃん! 辛気臭い顔して何処行くんだい」
「おん?」

 どうしよかと考えながら歩いていると、横から声が掛けられた。どうやら悩みが顔に出ていたらしい。
声を掛けて来たのは、通りかりの屋台の草人おっちゃん。その人が、人好きそうな笑顔をこちらに向けていた。

「見ない顔だけど、なんかあったのかい? 随分思いつめた顔だったぞ」
「いえいえ、大したことじゃ無いですよ。そちらこそ随分機嫌が良さそうですが、何かあったのですか?」
「な~に、ここ最近になって、生活が滅茶苦茶楽になっただけさ。やった分だけ手応えがあるってのは、気分がいいよな。新しい領主様に感謝ってもんだ! 何があったか知らないが、兄ちゃんもほら、これでも食って元気意だしな!」
「ははは、これはどうも」

 差し出された何かの串焼きを受け取る。支払いをしようとしたら、金は良いと言われてしまった。これは渡すではなく、渡したって思っていますね。断ると押し付け合いになるパターンだ。有り難く受け取っておきましょう。

 しかし、この人が言っている新しい領主ってのは、たぶん俺の事でしょうね~。実質この街を回しているのはゼニーさんですが、ゼニーさんの事は豪商とか、おじ様とか言われていますし……う~む、そんなつもりは無いんですがね~、面映ゆい。

「おぉ!? 大ボスじゃないっすか! こんなとこで何してるっすか?」
「もぐもぐゴックン。おや、お勤めご苦労様ですクッキーさん」

 受取った串焼きを口に入れたタイミングで、街の警備を担当していた子に声を掛けられた。キョクヤさんのとこの、ウルグのクッキーさんと、更にその連れですね。
 魔物が群れを成して歩いている様子を見ても、周りの住民は何とも思っていない様子から、この街に馴染んでいるのが良く分かる。

「良かったら食べます? 美味しいですよ」
「マジっすか!? 食うっす!」
「「「あざーす!」」」

 奢るついでに売り上げに貢献をしようかと、店主さんに向き直ると、挙動不審にクッキーさんと俺を交互に見比べていた。

「おお、ぼす? 大ボス? ボスのビャクヤの上? って、ことは、りょ、りょう!?」
「し~~~」

 口元に人差し指を立てつつ、ちょっとわざとらしく口止めすれば、店主さんは、慌てた様子で両手で自身の口を覆い塞ぎ、分かったと言わんばかりにしきり頷いて見せた。

 別に俺の事は規制している訳では無いですが、言いふらしている訳でも無いですからね~。それにこの様子だと、俺の事が広まり過ぎると、街中を動くのに苦労しそですし、ご遠慮願います。

 なので、余計な事を言わない様に、クッキーさん達の口に、追加で貰った串焼きを口止め代わりに突っ込みつつ、その場を後にする。あ、結構な本数でしたし今回はちゃんと支払いましたとも。

「大ボスは、何処行くんすか?」
「町の様子を見ながら、街の外の様子でも見に行こうかと」

 適当な店で歩き食いをしながら、街中を目的地に向けてのんびり歩く。
 うむ、抑圧され、踏みにじられていた頃の鬱憤を開放するかのように、活気に溢れた良い街並みです……例えカラ元気でも、元気には変わりないですからね。これからです、うん、これから。

 そんなこんな、目的地まで真っ直ぐ進んだため、それ程時間が掛かる事無く、街の外周である防壁の前まで到着した。

「ここまでで良いですよ、自主的護衛、有難うございました」
「……ワフ!」
「「「ワフ!!」」」

 労っておくと、敬礼しながら見送られた。
 何でそんなに嬉しそうなの? と、疑問に思いつつも、何事かと周囲の人からの視線が集まってしまったので、足早にその場を後にする。

 防壁に登る為の石階段を上がる途中、何か重い物が衝突する音が響く。どうやら今日もやっているようですね。
五月蠅いと言う事で設置されていた、遮音の魔道具の範囲外に入った為でしょう。野晒となっている歩廊に顔を出せば、人による歓声が上がる。

「ウガァ!」
「シュロロ」

 ぶつかり合う黒と銀の巨体。それを見て盛り上がる人と、防壁の麓には袋を抱え、事の成り行きを見守る人。ここでの日常的光景が広がっていた。

「おいそこの! 無賃観戦はご法度だぞ!」
「おん?」

 黒いゴドウィンさんが銀の斬竜さんに抗っている姿を眺めながら、恒例行事が終わるのを待っていると、横から声を掛けられた。
 振り向けばそこには、ちょっと小綺麗な格好視した、丘人のおっさんが居た。

「観戦したきゃ、料金を払いな」
「え~? そんなルール有りました~?」
「あったりめぇよ、ここは、新領主様のシマだぞ。金が湧いて出てくると思ってんのか? 領主様のこういった地道な努力が、この街の発展に繋がるんだよ」
「シマって……まぁ、いいや。それでは俺も買いましょうか。内容は?」
「そこの立て札を見な」

 なになに? 黒い竜を基準に、勝利100倍、引き分け50倍、一撃2倍、逃走1.1倍、敗北0倍元締め総取り……上限は? あら、表記が無いですね~。

 これは……ちょっとお仕置きしておきましょうか。

「ふむふむ、では一撃2倍に掛けましょう。はい、掛け金」
「へへへ、毎度……え゛?」

 懐の袋を丘人さんに渡して、賭けに参加する。ジャラリと金属音を響かせながら、丘人さんの掌に金貨の山ができる。上限を設定して無いんですから、ちゃんと受けてくれますよね?

 受取った時は銀貨か銅貨とでも思っていたのか、中を見てちょっと引いていますが、最終的には馬鹿なカモが来たと笑みをこぼし、金貨袋を受け取った。

 金貨の小山は、中々のインパクトだったのか、周囲の人もちょっと呆れ顔を向けて来るが、前の方へ移動する俺の為に道を開けてくれる。

 防壁の縁まで来れば、ぼっこぼこにされて居るゴドウィンさんの姿が良く見える。斬られ、抉られ、断たれ、血の海の中で瞬時に再生し、活路を見出そうと、斬竜さんへと果敢に向かって行っている。

 おぉ? 斬竜さんの尾がブレたと思ったら、ゴドウィンさんの首が飛んだ……と思ったら、一瞬で繋がった。とんでもない生命力と再生能力ですね。体力特化型ドラゴンは伊達ではない。

 う~ん、お互いに悪条件魔力濃度が低い且つセーブして戦っているのもあって、ゴドウィンさんが一発殴れるかどうかも怪しい状況ですね。

 ……仕方がない、発破をかけるか。

「おらぁ、ゴドウィン! ちったぁ気張ったところ見せろや!」
「グラァ!?」

 大きく息を吸い、ゴドウィンさんに聞こえる音量で声援を送れば、二体共動きを止めこちらに視線を向ける。

 いいよ~、やっちゃっていいよ~と、軽く手を振ってやれば、改めて顔を見合わせる二体。

「ニヒィ~!」

 ゴドウィンさんがとっても良い笑顔を浮かべると、全身から魔力が噴き出す。再生に回していた魔力を、身体能力の強化に充て、それでも足りない分を魔石から引き出す。

 本当の竜の証、竜気法。その能力向上は、並みのスキルを凌駕する。

 そして、ゴドウィンさんの巨体がブレた。

「シュ!?」
「グラァ!!」

 咄嗟に放った斬竜さんの貫き手を軽々と避け、そのまま側面に回ると、振るわれた拳が斬竜さんを拭き飛ばした。

「はい、一発入りましたね。賭けは俺の勝ちです」
「え、え、えぇ?」
「ふべべべろろべべべ!?」

 元締めの丘人に振り返り、換金を促す。
 反撃とばかりに、滅多切りに合っているゴドウィンさんを背後に感じますが、まぁ、死ぬことは無いでしょう。

「てめぇ! こんなもん認められるわきゃねぇだろうが! 恩人の領主様に申し訳が立たないと思わねぇのか!」
「そうだ、そうだ!」
「いや、知らんがな」

 本人に対し、そんな事言われてもねぇ……賭けに勝ったんだから、金を受け取るのは当然の権利でしょう。

「う~ん、まぁ、ちょっと足りないですが、まま、これで良いですよ。残りはサービスしてあげます」
「ご、強盗だーーー! そいつをとっ捕まえろ!」

 丘人の金が入った袋を自分の異空間に放り込めば、言い掛かりを吹っ掛けて来た。

 事情を見ていなかった人たちが、何事かとこちらを見やる。周りのサクラも喚いてきて、五月蠅い事この上ないですね。

「領主様に報告すれば、お前、分かってんだろうな!」
「さあ? その行動によって、自分にどのような反応が返ってくるか考えて、リスクとリターンを考えて、それでもやるって決めたら、好きにすれば良いんですよ。身勝手な行動を抑制するために、法律集団のルールが有るんですから。例え破ったとして、それで裁かれようと殺されようと、その人の価値観と倫理観から来る自己責任でしょう? 俺は、自分の行動に不正は無く、この金を正当に受け取る権利があると判断します」
「ふざけんな! ぶっ殺せ! へぶ!?」

 周りの仲間と思われるチンピラ風の男たちが、丘人の声で各々手持ちの武器を抜いた瞬間、突然背後に現れた人によって、丘人さんが地面に顔面から叩き付けられ、取り押さえられた。

「あ、ミールさん、お久しぶりです」
「まったく、お前は何やってんだよ」
「ミ、ミールだと!?」
「警備主任が、何でここに!?」
「あれ、そんな役職になっていたんですか?」
「エッジに押し付けられたんだよ!! お前、何とかしろよ!?」

 え~、優秀な人材は、効率よく使わなきゃダメでしょう? だからそんな、項垂れないで下さい。

「てかだ、護衛も付けずこんな所ほっつき歩いてんんじゃねぇよ!? 危機感もてや! びっくりしただろうが!」
「ははは……あ、その人、詐欺、脅迫に、強盗と殺人未遂、あと人の名前を無断使用した所属偽造です。キークさんも、逃げた人とっ捕まえて下さいね~」
「だー、聞く気ねぇな、お前!?」

 ミールさんの登場で、その場にいた人たちの動きが止まる。それだけ有名になっているって事なんでしょうが、隠密行動が中心のお二人が有名で良いモノか……今の所、カッターナ内部以外で動かす予定はないし、動くときに見つからなければいいか。

「あぁそうそう、他人の名前を使う時は、選んだ方がいいですよ? いつ本人が出て来るか分かったもんじゃないですから」
「え、あ、ぁ」

 リスク管理が甘かったですねと去り際に言ってやれば、察したらしい丘人さんは、青ざめながら小刻みに震えていた。
 そりゃ、ねぇ? 普通だったら、仮とはいえ領主の名前を勝手に使ってタダで済むもんじゃ無いでしょうからね~。今後、同じ様な事をされては面倒なので、処罰は厳しいモノになるでしょう。少なくとも、金でどうにかなることは無い。

 賭け自体は制限して無いし、本来ならこんな大損状況にもならなかったのでしょうね。新規参集者が馬鹿勝ちでもした際には、情に訴えて、更に仲間以外の人に弾圧させれば、自分は何もやって無いと言い張りつつ、儲けを出せると言ったところでしょうか。

 こう、ケルドでない犯罪者はそこそこ頭が回るので、対処が面倒になりがちです……今回は突然の事で対処を間違えたみたいですがね。
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