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番外編
奇跡
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関東平野のホワイトクリスマス。この奇跡、あなたは信じる?
* * *
「おかしいなぁ……」
公園に佇む一人の少年。
二十歳は越えていたが童顔な為に少年と表現した方がしっくりと感じるこの男は、来るはずの少女を待ち続けていた。
約束の時間ぴったりに初めて来ることができたというのに、今日は肝心の彼女の方が来ないなんて。
待ち合わせの時間から一時間と半分。なにか遭ったんじゃないかとケータイにかけるが繋がらず、必然的にここに立たされる羽目となった。
展望台のついたちょっと珍しい公園。さらにグラウンドの中央には一本の木とベンチがある。そのベンチはこの公園の唯一の出入口をにらんでいる。少年はこのベンチの前で彼女と落ち合うはずだった。しかし彼女は来ない。
溜息をついて空を見上げる。雪でも降ってきそうな空模様。この辺では土地柄クリスマスに雪だなんてロマンチックなことは起こらないけど、どこか期待してしまう。
と、そのとき聞き慣れない着信音が。少年はケータイを取り、耳にあてた。
「はい、どちら様でしょうか?」
非通知は拒否してあったはずなのにと訝しげに思う。
「ハヤセ ケント君だね?」
「えぇ、そうですが、あなたは?」
優しげな男性の声に心当たりはなかった。
「この公園で有名な人物さ。名乗るほどのものでもないよ。で、本題を。君の待ち人はここに来ているけど、逢えないよ」
重々しく彼はそう言ったのだが、その意味するところが分からない。
「え?」
「君が奇跡を信じるなら……もし奇跡は起こすものだと思っているなら、逢えるかも、ね。答えは君の中にある。会える会えないは君の心次第さ。さぁ示してごらん」
電話はそこで途絶えた。
「奇跡……?」
彼女はここに来ている。でも会えない? 奇跡?
謎掛けのような言葉は、それでも彼の心を代弁しているかのようだった。
「そうだなぁ……奇跡が起こせるものなら……」
――今すぐ君に逢いたい――
冷たい強風に双眼を閉じる。次に少年が瞳をあけたとき……。
「なぁにが“今日は待たせない”よ!」
今日はクリスマスイヴ。待ち合わせた公園は既に街灯の灯がともる。
空にはモクモクとした灰色の雲が広がり、星空も生憎見えやしない。約束の時間から一時間半が経過。三十分前に電話したが電波届かず。
あいつは一体何を考えているんだか。
女の子をこの寒空の下に放置するなんていい度胸しているんじゃないの!?
「まったく……」
でも変なのだ。待たせられても今までは三十分程度。今日は明らかにオーバーしている。詫びの電話やメールもないし、おかしい。
彼に対して苛立ちを募らせる一方、同様に不安と心配な気持ちでいっぱいになった。ケータイの待ち受け画面には二人で顔を寄せ合って撮った写真。なんの反応もない。デジタル時計の表示が一つずつ数字を増やすだけ。
「どうしたんだろ……」
ふぅとついた溜息がケータイの表示画面を曇らせる。
と、唐突に。
聞き慣れない着メロとバイブ。あたしはびっくりして思わず落としてしまった。そして慌てて拾い上げ、電話に出る。
「あ、あの……」
こんな着信音、あたし入れていたっけ? そういう不信感が明らかに声に混じっていた。
「こんにちは! 呼ばれていないけどクリスマス企画中につき大サービス!」
プチッ。あたしは反射的に電話を切った。ブルーな気分のあたしに今のはないだろ、ヲイ。
「――何も無言で切ることはないんじゃないかなぁ? ミヤマツ キリノさん。君の落ち込んだ心を少しでも和らげようっていうんだから」
声はあたしの座っているベンチの後ろ、さらにそこにある木の裏から聞こえた。
驚いて上半身をひねって振り向くと、なにやら白い大きな袋を肩越しに担いだ青年が立っていた。
「はぁ? アンタ誰? ってか、なんであたしの名前を知ってんの!?」
あたしの頭の中はパニックを起こしていた。
っつか、いつからそこにいたのさ? 入り口はあたしの目線の先にあるっていうのに。
「ボクは尾根篤弘。名前や携帯の番号を知っているのは調べたからさ」
やんわりとした笑顔を向ける不審人物。この男、一体何者?
「で、そんな前置きはどうだって良いんだ。今日のボクのお仕事は……」
と、不審人物はそこで話を一度区切り、担いでいた袋の中から一通の封筒をとりだした。
「はい。君にこれを」
差し出されたクリスマスカラーの緑と赤のチェック柄の封筒をあたしは渋々受け取る。
「と、いうわけで今日のボクのお仕事は終了です」
ペコリとお辞儀をして、不審人物は立ち去ろうと出口に向かって歩き出す。と、思ったら彼は振り返った。
「そうだ。君は奇跡って信じる? 今夜はひょっとしたら起こるかもよ」
なにやら意味深げに笑んで(実際は照明が暗くてよく見えないのだが)謎の男、尾根篤弘は去った。
あたしはそれを確認すると、渡された封筒をまじまじと見つめ、封を切った。
どうして?
二人の脳裏に過ぎった言葉は同じだった。
さっきまでいなかったはずなのに、まるで空間を渡ってきたかのようにそこにいる待ち人。
お互いに目を丸くして見つめ合う。
「……お待たせ」
先に声を掛けたのはベンチに腰を下ろし、視線を手紙から少年に移した彼女の方。直後、彼女の顔は見る見るうちに蒼くなった。
「ご、ごめん。待たせるつもりはなかったのよ」
「何言っているんだ。来てくれただけで嬉しいよ。さ、行こう」
差しのべた少年の手を彼女は拒否し手首を横に振った。
「あたし、ここに来る途中で事故に遭ったらしいんだわ」
透けだした躰を見ながら、少女は苦笑する。少年もその様子を見てぎょっとした。
「まてよ! 死ぬんじゃないだろ?」
おろおろとしながらも少年は頭の中を整理しつつ喋る。
「さぁ、分からないよ」
作った笑顔から涙が流れる。
「死ぬな! 絶対! 俺、今からお前が運ばれただろう病院をあたるから! だから……!」
「うん、ケントが来るの、待ってる」
もし奇跡が起こるなら……否、起こせるのなら、今……。
彼女の姿ははらはらと舞う粉雪となった。
運命に働きかけて奇跡を起こそう。きっと起きる。強い想いが運命を狂わせ、少しずつ積み重なり大きなうねりになる。願い信じる気持ちが奇跡を生み出す……。
クリスマスの朝、目覚めると病院で。
そして朝一番に飛び込んできたのはケントの心配そうな顔で。でもあたしには何が起きたのかよく分からなくって。なのに、なんか心に引っかかっていることが……。
「あたし、変な夢を見たよ。待ち合わせた公園にいて、ずっとあなたを待ってた。そこに知らない男がやってきて、あたしに手紙を渡すの。それにはあたしが事故に遭って、本当は公園にいないってことが書いてあって……そしたらあなたに会えた」
「俺も同じ夢を見たよ。起きているのに、夢を見た。君がいないはずの公園で君に逢った。君に知らされて、今俺はここにいる」
あたしの手をぎゅうっとしっかりケントは握った。大きなあたたかい手。この手に包まれるとほっとする。良かった、死んでなくて。
「ったく、ドジ。早く治せよ。そしたら出かけよう。次は時間守るから」
彼の言った言葉は優しさが溢れていて、すごく嬉しかった。
「うん。……ありがとう」
あなたの側で夢を見る。
奇跡という名の夢を見る。
ほら、外はまた雪が……。
*END*
* * *
「おかしいなぁ……」
公園に佇む一人の少年。
二十歳は越えていたが童顔な為に少年と表現した方がしっくりと感じるこの男は、来るはずの少女を待ち続けていた。
約束の時間ぴったりに初めて来ることができたというのに、今日は肝心の彼女の方が来ないなんて。
待ち合わせの時間から一時間と半分。なにか遭ったんじゃないかとケータイにかけるが繋がらず、必然的にここに立たされる羽目となった。
展望台のついたちょっと珍しい公園。さらにグラウンドの中央には一本の木とベンチがある。そのベンチはこの公園の唯一の出入口をにらんでいる。少年はこのベンチの前で彼女と落ち合うはずだった。しかし彼女は来ない。
溜息をついて空を見上げる。雪でも降ってきそうな空模様。この辺では土地柄クリスマスに雪だなんてロマンチックなことは起こらないけど、どこか期待してしまう。
と、そのとき聞き慣れない着信音が。少年はケータイを取り、耳にあてた。
「はい、どちら様でしょうか?」
非通知は拒否してあったはずなのにと訝しげに思う。
「ハヤセ ケント君だね?」
「えぇ、そうですが、あなたは?」
優しげな男性の声に心当たりはなかった。
「この公園で有名な人物さ。名乗るほどのものでもないよ。で、本題を。君の待ち人はここに来ているけど、逢えないよ」
重々しく彼はそう言ったのだが、その意味するところが分からない。
「え?」
「君が奇跡を信じるなら……もし奇跡は起こすものだと思っているなら、逢えるかも、ね。答えは君の中にある。会える会えないは君の心次第さ。さぁ示してごらん」
電話はそこで途絶えた。
「奇跡……?」
彼女はここに来ている。でも会えない? 奇跡?
謎掛けのような言葉は、それでも彼の心を代弁しているかのようだった。
「そうだなぁ……奇跡が起こせるものなら……」
――今すぐ君に逢いたい――
冷たい強風に双眼を閉じる。次に少年が瞳をあけたとき……。
「なぁにが“今日は待たせない”よ!」
今日はクリスマスイヴ。待ち合わせた公園は既に街灯の灯がともる。
空にはモクモクとした灰色の雲が広がり、星空も生憎見えやしない。約束の時間から一時間半が経過。三十分前に電話したが電波届かず。
あいつは一体何を考えているんだか。
女の子をこの寒空の下に放置するなんていい度胸しているんじゃないの!?
「まったく……」
でも変なのだ。待たせられても今までは三十分程度。今日は明らかにオーバーしている。詫びの電話やメールもないし、おかしい。
彼に対して苛立ちを募らせる一方、同様に不安と心配な気持ちでいっぱいになった。ケータイの待ち受け画面には二人で顔を寄せ合って撮った写真。なんの反応もない。デジタル時計の表示が一つずつ数字を増やすだけ。
「どうしたんだろ……」
ふぅとついた溜息がケータイの表示画面を曇らせる。
と、唐突に。
聞き慣れない着メロとバイブ。あたしはびっくりして思わず落としてしまった。そして慌てて拾い上げ、電話に出る。
「あ、あの……」
こんな着信音、あたし入れていたっけ? そういう不信感が明らかに声に混じっていた。
「こんにちは! 呼ばれていないけどクリスマス企画中につき大サービス!」
プチッ。あたしは反射的に電話を切った。ブルーな気分のあたしに今のはないだろ、ヲイ。
「――何も無言で切ることはないんじゃないかなぁ? ミヤマツ キリノさん。君の落ち込んだ心を少しでも和らげようっていうんだから」
声はあたしの座っているベンチの後ろ、さらにそこにある木の裏から聞こえた。
驚いて上半身をひねって振り向くと、なにやら白い大きな袋を肩越しに担いだ青年が立っていた。
「はぁ? アンタ誰? ってか、なんであたしの名前を知ってんの!?」
あたしの頭の中はパニックを起こしていた。
っつか、いつからそこにいたのさ? 入り口はあたしの目線の先にあるっていうのに。
「ボクは尾根篤弘。名前や携帯の番号を知っているのは調べたからさ」
やんわりとした笑顔を向ける不審人物。この男、一体何者?
「で、そんな前置きはどうだって良いんだ。今日のボクのお仕事は……」
と、不審人物はそこで話を一度区切り、担いでいた袋の中から一通の封筒をとりだした。
「はい。君にこれを」
差し出されたクリスマスカラーの緑と赤のチェック柄の封筒をあたしは渋々受け取る。
「と、いうわけで今日のボクのお仕事は終了です」
ペコリとお辞儀をして、不審人物は立ち去ろうと出口に向かって歩き出す。と、思ったら彼は振り返った。
「そうだ。君は奇跡って信じる? 今夜はひょっとしたら起こるかもよ」
なにやら意味深げに笑んで(実際は照明が暗くてよく見えないのだが)謎の男、尾根篤弘は去った。
あたしはそれを確認すると、渡された封筒をまじまじと見つめ、封を切った。
どうして?
二人の脳裏に過ぎった言葉は同じだった。
さっきまでいなかったはずなのに、まるで空間を渡ってきたかのようにそこにいる待ち人。
お互いに目を丸くして見つめ合う。
「……お待たせ」
先に声を掛けたのはベンチに腰を下ろし、視線を手紙から少年に移した彼女の方。直後、彼女の顔は見る見るうちに蒼くなった。
「ご、ごめん。待たせるつもりはなかったのよ」
「何言っているんだ。来てくれただけで嬉しいよ。さ、行こう」
差しのべた少年の手を彼女は拒否し手首を横に振った。
「あたし、ここに来る途中で事故に遭ったらしいんだわ」
透けだした躰を見ながら、少女は苦笑する。少年もその様子を見てぎょっとした。
「まてよ! 死ぬんじゃないだろ?」
おろおろとしながらも少年は頭の中を整理しつつ喋る。
「さぁ、分からないよ」
作った笑顔から涙が流れる。
「死ぬな! 絶対! 俺、今からお前が運ばれただろう病院をあたるから! だから……!」
「うん、ケントが来るの、待ってる」
もし奇跡が起こるなら……否、起こせるのなら、今……。
彼女の姿ははらはらと舞う粉雪となった。
運命に働きかけて奇跡を起こそう。きっと起きる。強い想いが運命を狂わせ、少しずつ積み重なり大きなうねりになる。願い信じる気持ちが奇跡を生み出す……。
クリスマスの朝、目覚めると病院で。
そして朝一番に飛び込んできたのはケントの心配そうな顔で。でもあたしには何が起きたのかよく分からなくって。なのに、なんか心に引っかかっていることが……。
「あたし、変な夢を見たよ。待ち合わせた公園にいて、ずっとあなたを待ってた。そこに知らない男がやってきて、あたしに手紙を渡すの。それにはあたしが事故に遭って、本当は公園にいないってことが書いてあって……そしたらあなたに会えた」
「俺も同じ夢を見たよ。起きているのに、夢を見た。君がいないはずの公園で君に逢った。君に知らされて、今俺はここにいる」
あたしの手をぎゅうっとしっかりケントは握った。大きなあたたかい手。この手に包まれるとほっとする。良かった、死んでなくて。
「ったく、ドジ。早く治せよ。そしたら出かけよう。次は時間守るから」
彼の言った言葉は優しさが溢れていて、すごく嬉しかった。
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