職も家も失った元神童は、かつてのライバルに拾われる

小倉みち

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第1章

会話

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 それからは、2人して当たり障りのない話をしていた。


 昔の話がメインで、誰それが結婚しただの、あのムードメーカーだった○○君が家業を継いだだのと、かつてのクラスメイトたちの現在が主だった。


 ひたすら竹中がみんなの話をし、俺は黙って、時々相槌を打ちながら、微妙な味のカレーを貪る。


 俺が話をしたくないのをなんとなく察しているのか、竹中は俺の話題について触れようとはしてこなかった。


 やがて話題も尽き、無言の時間が増える。


 食事も終了に差しかかったとき、竹中は提案した。

「お酒、飲まない?」

「うーん」


 俺は少し迷った。


 つい数刻前まで酒を浴びるように飲み、思い切り吐いていたのを思い出していたのだ。


 26歳は、決して若くない。


 先ほどまで身体に残っていた酔いは、ある程度消え去ったが。


 これ以上無理をすると、確実に何日か引きずるだろうなあ。

 明日に響くのもなあ。


 なんて考えたあと、もうそんなこと考えなくても良くなったんだった、仕事クビになったんだしと、自嘲気味に笑った。


「どんな酒?」

「ええっと……。赤ワインなんだけど」


 竹中は立ち上がり、キッチンから赤ワインを持ってきた。

 どうやら新品みたいで、俺はあまりワインなんかに詳しくはないけど、それなりの値段のするようなものなんだろう。


 気高いというか、自尊心の塊というか、なんだかエリートっぽい、プライドの高そうなワインに見えた。


「去年の誕生日に貰ったんだけど、もったいなくて飲めてなくて……」

「良いの?」

 俺は尋ねた。

「うん。良いよ。というか、むしろ。こんなタイミングじゃないと、一生飲む機会ないと思うし」


 彼女はいそいそと、コルクをオープナーで開ける。


 その瞬間、芳醇な香りが部屋中に広がった。


「はい、どうぞ」

 ワイングラスに注いでもらった赤い液体を、礼を言ってから口に含む。


 新人の頃、上司に半ば無理やりバーに連れていかれたことがある。


 彼の行きつけの店らしく、高そうなワインを散々飲まされたが、結局何が良いのかわからなかった。


 このワインも、スーパーで普通に売っているものと何が違うのかわからない。

 もしかすると、俺はワインに向いていないのかもしれないな。


「良いワインなんだって」

 竹中は言った。

「でも私、ワインってよくわかんないんだよね。多分普通のよりも美味しいんだろうけど」

「俺も」


 身体に回る酔いを感じながら、俺も同意した。


「違いとか教えてもらっても、さっぱり。金持ちの道楽って感じに思える。まあ俺、豚肉と牛肉の違いもよくわかってない馬鹿舌だから、一緒にされちゃ嫌だろうけど」

「何それー」


 竹中は、声に出して笑った。


 コロコロと、鈴のように笑う竹中。

 相変わらず、彼女の笑顔は可愛らしかった。


 あのころは、それを認めたくなくて必死だったが。


 今もその笑顔が変わっていないことに、心底ほっとしている自分がいた。

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