生き別れの兄が魔法使いだった

小倉みち

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第1章

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「――――――――――――は?」


 私は頭が真っ白になった。


 兄?

 兄って言った?

 私の兄って言わなかった? 

 この人。


 びっくりし過ぎて頭の中が空っぽになり、兄と名乗る男の声が全部脳内を横滑りしていく。


「実はね、僕お父さんとお母さんとあの事故に巻き込まれたんだけど。その事故がちょうど世界の狭間だったみたいで。その衝撃で僕、異世界に転移したんだ。そこでは結構大変だったよ。身寄りのない子どもがたくさんいる施設に預けられて、そこにやってきた意味わかんないジジイに引き取られた挙句、

『お前には魔法の才能がある。魔法使いになれ』

 って言われて。身寄りもないし行く当てもないから、そのジジイの下で魔法の勉強をして、それから10年ずっと頑張り続けたんだ。もちろん、花のことは1日たりとも忘れたことはなかった。どうにかして元の世界に戻って花を見つけようとしていたんだ。そこでようやく向こうの世界でこっちに続く道が見つかって。着の身着のままで飛び込んだんだけど。あの子どもたちの遊んでいる砂場だったらしくて。ちょうど遊んでいた子どもたちに見つかって虐められて。君に助けてもらったんだ。まさか君が花だとは――」


「ちょ、ちょっと待ってください」

 私は男の長台詞を制止する。

「冗談ですよね?」

「冗談じゃないよ」

「もしかして、兄の友達とか? 私を馬鹿にしに来たんですか?」

「まさか。悪趣味なことはしない」


 彼の顔は、真剣そのものだった。

 とても嘘をついているようには見えない。


 ということは、だ。


 この男の頭がとてつもなくおかしいのか、それとも本当なのかのどっちかだ。


 でも、シャンプーやリンスを知らないところを見ると。


 この男はマジで、私の知らない場所から来たみたいだ。


「じゃ、じゃあ」

 私は深呼吸して言った。

「その証拠、見せてくださいよ」

「証拠?」

「あなたが私の兄だという証拠です」

「うーん」


 男は腕を組む。

「それは難しいなあ。何か証明出来るものがないから。魔法使いってことなら大丈夫だけど」

「じゃあ、魔法を使ってくださいよ」

「良いよ――じゃあ、何かコップ持ってきて」

「コップ?」

「いらないやつの方が良いな」


 私は半信半疑で、食器棚の奥に仕舞われていた汚い水垢だらけのコップを取り出し、リビングのローテーブルの上に置いた。

「よし。よく見ててね」


 男はそう言って目を瞑り、何やらどの国の言葉でもない言語を連ねる。


 ――すると。


 パリーン。


 その薄汚れたガラスのコップが、周囲に四散した。


「えっ、えっ」

 私は慌てて顔を庇うが、痛みはない。


 よく見ると、そのガラスの破片が宙に浮いている。


「どう? 凄いでしょ?」

 男は自慢げだ。

「これが魔法。僕が魔法使いってこと、信じた?」


 私は何も言わず、宙に浮くガラスを見つめる。


 ……なんか、頭痛くなってきた。


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