上 下
15 / 45
第1章

週末

しおりを挟む
 思わぬ提案に、私は驚く。

「週末?」

「うんそう。それなら、ここの生活もキープしたままで、かつ僕の世界でも少しずつ慣れていけると思うんだ」

「私が異世界に行くのは、もう確定な感じなんですね……」


 正直、出来れば行きたくないんだけど。

 だって怖いし。


「怖いの?」

「はい」

「どうして?」

「どうしてって、それは知らない場所ですし。それに自分の持ってる常識とは全く違う場所に行くのはちょっと」

「うーん」


 兄は私の返答を聞いて、また何かを考え始める。

「本当に行きたくないの?」

「出来れば」

に?」

「……」


 薫は続ける。

「僕、思うんだけどさ。つい先日君は義理の両親を失ったわけだ。つまり、君は本当の意味で1人になった」

「……何が言いたいんですか?」

「天涯孤独の君の目の前に、『兄』と名乗る人物が現れ、自分と一緒に暮らそうなどと言い出す。確かに怪しさ極まりないよね」


 わかってくれているなら、何よりだ。


「でも、君は僕が『兄』であることを認めてくれた。違うかい?」

「いや、それはそうなんですけど……」

「君は本当にそれで良いの? 半信半疑だろうけど、せっかく『兄』が現れ、家族に戻ろうという提案をしているのに。君は本当に、僕の提案を拒否して1人で生きていくの?」


 私は考える。


 もしこのまま彼の提案を拒否し、兄がいなくなってしまえば。


 この人が本当にお兄ちゃんかどうかわからないまま、私は本当の意味で1人身になってしまう。

 私は誰にも守ってもらえない、支えてもらえないまま、ずっと1人で――。


 もしこの男の提案を受け入れ、週末に異世界で過ごすことになれば。


 この人が兄ではなかった場合の、底知れぬ恐怖心と失望感は容易に想像出来、それはとても嫌だと思っている。

 でも、現状では彼がお兄ちゃんだと認めざるを得ないし、本当に彼がお兄ちゃんだったとすれば。


 私は、諦めるしかなかった「家族」という存在を、もう一度手に入れることが出来る。


「……わかりました」


 私は、悩んだ末に結論を出した。

「ひとまず今週末に、異世界に行ってみることにします」

「それは良かったよ」


 薫は、ふわりと笑う。

「本当に良かった――1つ、僕は約束しよう」

「はあ」

「君のことはちゃんと守るよ。君は唯一の、僕の妹だからね。だから心配しないでね」

しおりを挟む

処理中です...