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食後
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私たちは無事に食事を終えた。
久しぶりに食べた家の料理はとても美味しかったし、何よりランスも喜んでいるようだった。
彼がにこにこしながら豪快に食べている様子を見て、私たちは安心した。
彼が喜んでくれているようで、とても嬉しい。
食事が終わり、私たちはダイニングルームから去った。
いつもならそのままお風呂に入って寝るのだが、今日はそうせずにランスに話しかける。
「ねえ、ランス」
私は声が裏返しにならないよう、気をつけて言った。
「イザベラから聞いたんだけど。話って何?」
「ちょっと待って」
低い声でランスは答えた。
「2人になれる場所はあるか?」
「ここじゃ駄目なの?」
「出来れば」
私は考えた。
この屋敷には、隅から隅まで使用人たちが点在し、仕事をしている。
その中で唯一、いない場所と言えばーー。
「庭はどう?」
私はランスに提案する。
「夕方なら、庭師もいないし。多分2人っきりになれると思うわ」
「わかった。じゃあ、そこへ行こう」
我が屋敷の庭は、両親が文化人的な側面を持っているというのもあり、かなり造形に力を入れていた。
中央には大きな噴水が置かれ、それを取り囲むようにして様々な花が植えられた花壇が設置してある。
余談だが、あの私が溺れそうになった池は、危険だということで、お父様の手配によって埋められてしまった。
「……」
ランスは庭を見たきり、黙り込んでしまった。
「どう?」
私は沈黙が耐えきれず、話しかける。
「覚えてる? 多分、ここは10年前とほとんど変わっていないと思うの」
「少しだけ。見たことがある気がする」
「そっか」
私たちは無言で、噴水の前のベンチに座った。
「それで、話って?」
「君に、謝ろうと思って」
「謝る?」
ランスは小さく頷いた。
「何を?」
「俺が、君のことをあまり覚えていないということを」
私は微笑む。
「気にしなくても良いわよ、ランス。だって10年も経っているもの。あなたは大変な人生を送ってきたんだし、私のことを忘れて当然よ」
私は優しく言った。
「それより、私こそごめんなさい。あなたに、私の期待を全部押しつけてしまっていたわ」
ランスは首を左右に振る。
「いや、君が謝ることじゃない。君が俺に期待してたのは、当然だと思う」
「でも」
「どうか謝らないで欲しい。君に謝られると、俺はどうしたらいいかわからない」
「そっか」
しばし、無言。
「ねえ、ランス」
「ん?」
「どうして、私たちについてきてくれたの? 最初は嫌がってたのに」
私が外へ出て行って、戻ってきたときにはもう、彼の意見は変わっていた。
一体どうやって、お父様とお母様は、彼を説得したのだろうか。
「……えっと」
ランスは、なんて言えばいいかわからないというような表情で頭を掻くが、しばらくして言葉がまとまったのか、口を開いた。
「君、泣いてたろ? あの時」
あの時、とは。
ランスが私との思い出を忘れていたことを知り、ショックで部屋から飛び出した時のことだ。
「う、うん」
「それで俺は、かつての俺が君や君の両親にとても好かれていたんだってことを知った。それに加えて、今の俺のせいで傷ついているということも」
「それは、私たちが悪いわ。あなたのせいじゃない」
「いや、俺のせいだなんだーーだから、俺はかつての俺がどうするだろうかと考えて、ついていくことにしたんだ」
ランスの言葉は、良くわからなかった。
かつてのランスと、今のランス。
確かに彼は10年の間でかなり変わったけど、でもどちらも、ランスであることは変わりないのに。
どうしてそんな、あたかも違う人のことを話すかのように、昔の自分について語るのだろうか。
久しぶりに食べた家の料理はとても美味しかったし、何よりランスも喜んでいるようだった。
彼がにこにこしながら豪快に食べている様子を見て、私たちは安心した。
彼が喜んでくれているようで、とても嬉しい。
食事が終わり、私たちはダイニングルームから去った。
いつもならそのままお風呂に入って寝るのだが、今日はそうせずにランスに話しかける。
「ねえ、ランス」
私は声が裏返しにならないよう、気をつけて言った。
「イザベラから聞いたんだけど。話って何?」
「ちょっと待って」
低い声でランスは答えた。
「2人になれる場所はあるか?」
「ここじゃ駄目なの?」
「出来れば」
私は考えた。
この屋敷には、隅から隅まで使用人たちが点在し、仕事をしている。
その中で唯一、いない場所と言えばーー。
「庭はどう?」
私はランスに提案する。
「夕方なら、庭師もいないし。多分2人っきりになれると思うわ」
「わかった。じゃあ、そこへ行こう」
我が屋敷の庭は、両親が文化人的な側面を持っているというのもあり、かなり造形に力を入れていた。
中央には大きな噴水が置かれ、それを取り囲むようにして様々な花が植えられた花壇が設置してある。
余談だが、あの私が溺れそうになった池は、危険だということで、お父様の手配によって埋められてしまった。
「……」
ランスは庭を見たきり、黙り込んでしまった。
「どう?」
私は沈黙が耐えきれず、話しかける。
「覚えてる? 多分、ここは10年前とほとんど変わっていないと思うの」
「少しだけ。見たことがある気がする」
「そっか」
私たちは無言で、噴水の前のベンチに座った。
「それで、話って?」
「君に、謝ろうと思って」
「謝る?」
ランスは小さく頷いた。
「何を?」
「俺が、君のことをあまり覚えていないということを」
私は微笑む。
「気にしなくても良いわよ、ランス。だって10年も経っているもの。あなたは大変な人生を送ってきたんだし、私のことを忘れて当然よ」
私は優しく言った。
「それより、私こそごめんなさい。あなたに、私の期待を全部押しつけてしまっていたわ」
ランスは首を左右に振る。
「いや、君が謝ることじゃない。君が俺に期待してたのは、当然だと思う」
「でも」
「どうか謝らないで欲しい。君に謝られると、俺はどうしたらいいかわからない」
「そっか」
しばし、無言。
「ねえ、ランス」
「ん?」
「どうして、私たちについてきてくれたの? 最初は嫌がってたのに」
私が外へ出て行って、戻ってきたときにはもう、彼の意見は変わっていた。
一体どうやって、お父様とお母様は、彼を説得したのだろうか。
「……えっと」
ランスは、なんて言えばいいかわからないというような表情で頭を掻くが、しばらくして言葉がまとまったのか、口を開いた。
「君、泣いてたろ? あの時」
あの時、とは。
ランスが私との思い出を忘れていたことを知り、ショックで部屋から飛び出した時のことだ。
「う、うん」
「それで俺は、かつての俺が君や君の両親にとても好かれていたんだってことを知った。それに加えて、今の俺のせいで傷ついているということも」
「それは、私たちが悪いわ。あなたのせいじゃない」
「いや、俺のせいだなんだーーだから、俺はかつての俺がどうするだろうかと考えて、ついていくことにしたんだ」
ランスの言葉は、良くわからなかった。
かつてのランスと、今のランス。
確かに彼は10年の間でかなり変わったけど、でもどちらも、ランスであることは変わりないのに。
どうしてそんな、あたかも違う人のことを話すかのように、昔の自分について語るのだろうか。
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