上 下
9 / 12
第1章

突然

しおりを挟む
 それは、本当に突然のことだった。


 私がいつものように朝仕事をしてから学校へ行くと、教室に、


「ヤバい! ヤバいって!」

 と、男子生徒がはしゃぎながら飛び込んできた。

「何よ」

「うるさいんだけど、朝から」


 女子生徒たちに邪険にされても、彼はまったく気にも留めなかった。


 それどころか、

「村に今貴族が来てるんだって!」

 と、さらに騒ぐ。


「貴族?」

「何それ」

「冗談でしょ?」


 と、誰も取り合おうとはしない。


 だけど。


 私はサーッと、血の気が引いていくのを感じた。


 いや、まさか。

 そんなはずは――。


「なあ、エミリー」

 私の表情の変化に気づいた男子は、私に絡んできた。

「えっ」

「お前は、俺のこと信じてくれるよな?」

「はあ」


「ちょっと。エミリーが可哀想でしょ」

「俺は可哀想だとは思わないわけ? なあ、エミリー」


 ……とりあえず、私を挟んで喧嘩しないでほしい。


「その貴族って?」

 私は、バクバクと怯える心臓に気づかないふりをして尋ねた。

「なんでここに?」


「さあ」

 男子は首を傾げた。

「知らねぇ。ただ、村長が慌ててそいつを家に連れて行ってたけど」


「へえ」


 どうやら、彼から情報は聞き出せないみたいだ。


「でも、本当に貴族かどうかはさておき」

 友人の1人が言った。

「私たちには関係ないことでしょ」

「まあ、そりゃそうだな」

 彼女にそう言われて、スッと平静に戻る男子。


「多分、村関係の仕事で来てんだろうな」


 それなら良いんだけど。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私が聖女だからって舐めてもらっちゃ困りますわ、婚約者様

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:332

新米冒険者のとんでもない1日

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:14

『恋愛短編集②』婚約破棄の後には、幸せが待って居ました!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,214pt お気に入り:273

『完結』番に捧げる愛の詩

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:256

魔王の正体は愛しの兄だったらしいです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:4

私を殺した竜人に復讐を

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:23

処理中です...