婚約者のせいで友達が出来ないんですが

小倉みち

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第1章

報告

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 私は家に帰るなり、すぐにカレンに飛びついた。


「カレン、カレン、カレン!」

「何何何何! なんですか!?」


 廊下を掃除中のカレンは、鬱陶しそうに私の身体を払いのけた。

「酷い! 私はあなたのお嬢様なのに!」

「わかってるなら、お嬢様らしく振舞ってください。セレーナ様」

「あとでね!」

「あとじゃありません。、そうしてください」

「えー。カレンって本当堅物よね」

「あなたの頭が緩すぎるんですよ」

「ちょ、ちょっとカレン!?」


 カレンと一緒に廊下を掃いていたメイドのアリサが悲鳴をあげる。

「お嬢様になんてことを!」


 ああ、そうだ。

 そうだった。
 

 私とカレンの主従関係は、他とは少し違う。

 それはこの屋敷の中でもかなり変わっているという認識をされており、それをなんとなく知っていた私たちは、こういう軽口を部屋以外でしないようにしていたのだ。


 その暗黙の了解を、嬉しさのあまりについ忘れてしまった。


「アリサ、気にしないで」

 私は笑顔で説明する。

「これが私たちの普通なの」

「ふ、普通……?」

「そう、私たちは言わば姉妹みたいなものなのよ。だから、カレンには特別にそれを許しているのよ」

「と、特別……」


 アリサはまだ困惑しているようだったけど、気にせずに私はカレンに話しかける。

「ねえ、聞いてよ!」

「なんですか」

「今日、本当に良いことがあったのよ」

「ああ、友達でも出来たんですか」

「辞めて……。私の傷を抉らないで」


 思わぬ攻撃に、私はうっと胸を押さえた。

「では、テストで良い点を?」

「今日は小テストなかったわ」

「誰かに褒められたんですか?」

「違うわ。相変わらず誰とも会話してないわよ」

「じゃあ、一体なんなのですか?」


 私たち今掃除で忙しいんですけど、とでも言いたげな表情を浮かべる。

「もったいぶらずに早く言ってください」

「うふふ」

「笑い方怖」

「良い。驚かないで聞いてね」

 と言った。

「はいはい」


 カレンは興味なさそうに水の入ったバケツを持つ。


 私はそんな彼女の態度を特に気にすることなく、深呼吸して言い放った。

「殿下が浮気したのよ。で、婚約破棄することになったわ!」


 ガッシャーン!


 大きな音が廊下に響く。

 金属が地面に落ちた音だ。

 足がひんやりと冷たい。


 下を見ると、カレンの落としたバケツがひっくり返って、廊下と私の足をびしょびしょに濡らしていた。

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