望まぬ運命に、元βは白いフリージアを捧げる。

こうらい ゆあ

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5.スズランの香り

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 その日の夜、家に帰ってきたもの、僕の胸は重かった。
 リビングの窓から差し込む薄い月光が、部屋に冷たい影を落とし、静寂が僕の心のざわめきを一層際立たせる。

 宮田の匂いが、頭から離れない。
 みずみずしいスズランの香りが、まるで僕のαの本能を絡め取るように、鼻腔にまとわりつく。
 まるで、僕のαとしての本能が、由良以外の何か――いや、誰かを求めているみたいで……
 こんなの、初めてだ。
 由良を愛してるのに、なんでこんな気持ちになるんだ……

 暗い気持ちのまま、リビングに足を踏み入れる。
 床に散らばる由良のスケッチブックの切れ端と、ソファに置かれたクッションが、いつもと変わらない日常を思い出させる。
 由良は、いつものようにソファに座って、スケッチブックに何かを描いていた。
 柔らかな黒髪が肩に落ち、透明感のある肌が部屋の明かりに映える。
 彼の細い指が鉛筆を握る姿、集中するたびにわずかに開く唇が、僕の心を一瞬で温かくする。 
 由良の姿を見ているだけで、僕の心が一瞬で落ち着くのを感じる。
 でも、それと同時に宮田の甘い香りが脳裏をよぎり、胸がざわつく。
 まるで由良の温もりを汚すような罪悪感が胸を締め付ける。 
 
「由良、今日……ちょっと変なことがあったんだ……」
 僕は、今日あったことを、正直に話すことにした。
 由良には隠し事なんてしたくない。
 僕が愛しているのは、由良ただひとりだけだったから……
 由良の瞳に映る僕の姿を見ながら、胸の奥で愛と罪悪感が交錯する。

 今日転属してきた宮田のことをかいつまんで説明すると、由良の鉛筆を持つ手が一瞬止まる。
 少し垂れ気味の目元が、じっと僕を見つめてくる。
 その瞳には、いつも見せる優しい光に加え、どこか不安げな影が宿っていた。
「変なことって……?」
 由良の声は穏やかだけど、どこか探るような響きがあった。
 ソファのクッションを握る手が、わずかに力を増し、彼の不安が伝わってくるようだった。
 僕は深呼吸したあと、宮田についてちゃんと説明した。
 総務から営業に転属してきた後輩だということ。
 僕が教育係になってしまったこと。
 βのはずなのにΩのような反応を示し、僕のフェロモンが勝手に反応したこと。
 話しをしていくうちに、由良の表情が少しずつ硬くなるのがわかった。
 彼の白い肌に、緊張で浮かんだ汗が光り、普段は柔らかな唇が固く結ばれる。 
 
「……それは、つまり……辰彦の『運命の番』が見つかったって、ことだよな……」
 由良の声が微かに震えている。
 彼の細い指が鉛筆を握りしめ、関節が白くなるほど力を込めている。
 下唇を噛み締める姿に、堪えきれない感情が滲んでいる。
「違う!宮田はただの後輩だ。僕が愛してるのは由良だけだ!」
 つい声が大きくなってしまい、由良を驚かせてしまう。
 でも、これだけは信じて欲しかった。
「違うんだ……こんなの、ただの……本能の誤作動みたいなもんだろ」
 必死で言うが、由良は小さく笑って目を逸らす。
 その笑顔は、まるでガラス細工のように儚く、僕の心を刺す。

「はぁ……何言ってるんだよ、辰彦。よかったな、運命の相手と出会えるなんて……。普通ないんだろ?奇跡ってやつかな?」
 由良の声は、微かに震えていたけど、諦めと優しさが混ざっていた。
 彼の瞳に滲む涙が、月光にきらめき、胸が締め付けられるほど美しいのに、どこか遠い。
「辰彦の『番』かぁ~。きっと素敵な人なんだろうな。運命の相手なんて、誰も……放っておけるわけないよな」
 由良の言葉に、僕の胸が締め付けられる。
 由良の細い肩がわずかに震え、まるでこの瞬間を最後にしようとしているかのようだった。
 いや、違う。
 僕は由良を離したくない。
 宮田がなんだろうと、僕の心は由良のものなのに……

「由良、僕は……」
 言葉を続けようとした瞬間、由良は立ち上がってキッチンに向かう。
 僕の手が届かない場所に消えていくように見えた。
「いいよ、辰彦。オレには関係ないから……」
 由良の背中が、いつもより遠く感じる。
 どうして、なんで……?
 由良に関係ない?そんなわけないだろ。
 
 今にも消えてしまいそうな由良の手を掴み、引き寄せる。
 彼の華奢な手首は驚くほど細く、触れると簡単に折れてしまいそうだった。
 驚いたように振り返る由良の目には、涙が滲んでいるように見えた。
「由良、僕は宮田と『番』になんてなりたくない。僕が愛してるのは由良だけだ。信じてくれ」
 由良は一瞬、言葉を失ったように僕を見つめてくる。
 でも、すぐに小さく笑って、僕の手をそっと振りほどいてしまった。
 彼の唇が震え、僕の言葉を飲み込むように、わずかに開く。
 
「うん、わかった。……辰彦、ありがとう」
 由良の声は、どこか儚く、夜の闇に溶けるようだった。
 彼の指が、僕の手から離れる瞬間、冷たい風が胸を吹き抜けるような感覚がした。
 僕の心は、由良の笑顔に救われると同時に、宮田の存在が暗い影を落とす。

 由良を愛してる。
 心からそう思う。
「今日はヤらない」って言う由良を押し倒し、声が涸れるまで抱いた。
 由良の身体が小刻みに痙攣し、汗と熱で絡み合う瞬間、彼の甘い匂いが僕を満たした。
 うなじに歯を立て、愛液に濡れた肌を貪るたびに、由良が僕のものだと確信した。
 由良の甘い啼き声をキスをして塞ぎ、真っ赤に熟れた胸の突起を爪で引っ掻いて刺激する。
 我慢しきれずに溢れ出す精液を由良の可愛いアナルに塗り込んで解し、グポッグポッと卑猥な音を立てながら結腸まで犯す。
 白い首筋がピンク色に火照り、うなじを舐めただけで簡単に達してしまう由良。
 由良のうなじに新たな噛み跡を作り、滴る血を優しく舐めてやる。
 痛みに身体を強張らせる由良を落ち着かせるためにペニスを扱き、ナカに出した精液を塗り込むように腰を動かす。
 由良の感じ過ぎて言葉にならない嬌声を聞きながら、僕は何度も由良への愛を確かめる。

 
 でも、αの本能が、宮田を……陽翔を意識してしまう。
 陽翔のスズランの香りが、まるで僕を誘惑するようにまとわりつき、由良の温もりを上書きするような錯覚に身体が震える。
 
 
 由良、俺はどうしたらいい?
 由良を愛してるのに、なんでこんな感覚に囚われるんだ?
 リビングの静寂の中、由良のスケッチブックに描かれた未完成の絵が、僕たちの関係の脆さを映しているようだった。
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