負けるな!小さなαくん

ゆあ

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負けるな!小さなαくん

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オレの憧れの人は、とても綺麗だ
静と動を体現しているような流れる動きに、目を奪われた

的を射る姿が綺麗で、つい憧れて入った弓道部
全く知識もなかったし、興味もなかったはずなのに、いつの間にかのめり込んでいた
あの人に褒めてもらいたい。認めてもらいたい。
そんな邪な気持ちもあってか、練習には人一倍参加した

「姫宮先輩!今のどうですか!」
がっつり外しているにも関わらず、満面の笑みを浮かべて先輩を見る
「全然ダメ。まず姿勢、中心がブレてるから体幹からやり直して」
冷たい声音とぶっきらぼうな言い方のせいで、他の部員からは怖がられているが、そんな事は一切気にせず、ガンガン聞きに行く
「わかりました!ちょっと筋トレとストレッチやり直してきます!」
基本的な基礎トレを再度やり直す為、道場の外に走って向かう


「あいつ、すげーなぁ~、静御前の氷の助言すらへこたれないって」
「今日もワンコは元気に走り回ってるね~」
他の部員たちがコソコソと話しているのも気にせず、自分に課せられた課題をちゃくちゃくとこなしていく


騎士ナイトちゃん、マジですげぇーな。あの姫宮先輩の威圧に耐えれるの、お前だけじゃね?」
同じ学年で一番仲の良い部員のタケルが一緒に基礎トレをしながら話しかけてきた

「見た目めっちゃ綺麗なのに、対応が冷た過ぎて辞めて行った奴が多いのに、お前だけはめっちゃ懐いていくのな
あんなα特有の威圧感で睨まれたら、誰だって逃げたくなるよな。それとも、騎士ナイトちゃんはΩだからやっぱ惹かれるわけ?」
ケタケタ笑ってるタケルの頭を本気で殴る
「だーれがΩだ!!オレはαだって言ってるだろ!」
頬を膨らませて怒るも、はいはい。と適当な返事しか返ってこない


確かに、身長も160cmをやっと超えたところだし、声変わりもまだだ。
しかも、母親譲りの可愛いと言っていい顔立ちのせいで昔からΩだと勝手に思われてきたし、何度襲われそうになったか...

自分の境遇にハァァァっと深い溜息を漏らすも、黙々と課題をこなす


でも、みんなが先輩のことをαだと言っているが、そこにオレだけが違和感があった
いつも甘くて優しい匂いがする先輩
近寄りがたいくらいの美人で、カッコいい先輩なのだが、時折見せてくれる笑顔が可愛くて...
いつかオレの番になって欲しいって何故が思ってしまう
α同士では優劣があるから難しいらしいけど、何故が先輩にだけは認めて欲しいと思ってしまうのだ




早朝のほんのり冷たい風を受けながら、いつもの様にまだ誰も来ていない道場に1人で自主練習を始める
「ん~、いい線行くようにはなったのになぁ…
なんか、違うんだよなぁ~」
理想とする先輩のフォームを真似てみるも、上手くいかず、矢も的には向かうものの中に当てることも出来ず
「身長差もあるから、あと15、いや20cmくらい伸びて欲しいよな...
そしたら、先輩より高くなれるし…」

「なにブツブツ1人で話しているんだ...」
明らかに呆れている声が聞こえ、声の方を勢いよく振り返り
「あ、姫宮先輩!おはようございます!!
先輩早いですね!自主練ですか?なんか、お手伝いしますか?あ、後でまたフォームチェックもして欲しいんですが!?」
駆け寄って矢継ぎ早に声をかけると、クスッと笑い出す先輩にドキドキする
「ふふっ、本当、柳は犬みたいだよね。俺みたいな愛想も良くないやつに懐くなんて、珍しいよ」

笑う先輩が可愛くて、顔が熱くなる
先輩が欲しい。オレだけのにしたい。
そんなことを考えて見惚れてしまっていると、何故が先輩の様子がおかしい。
急に苦しそうにしゃがみ込んでしまい、耳まで赤くなっている
「えっ...せ、先輩!大丈夫ですか?」
慌てて支えようと肩に触れた瞬間、今までよりもずっと強く甘い香りがし、理性が飛びそうになる

「えっ、これって...ヒート?でも、先輩はαだって...」
涙で潤んだ先輩の目に惹きつけられる
欲しい!先輩が欲しい!
本能が全身で先輩を求めてしまい、襲い掛かりそうになる
なんとか自分の手の甲に血が滲む程強く噛み付き、痛みから正気を保つ
「っフー、っフー…せ、んぱい…すみません。オレ、居るとヤバそうで...」
立ち去ろうてした瞬間に手を掴まれ、身動きが出来ない
「ごめ、今は、ひとりにしないで...薬、俺の鞄に入ってるの、取って」

微かに震えて耐えている先輩に返事をし、鞄の中を漁って抑制剤を見つける
ついでに、自分では使うことはないだろうと思っていた発情ラットの抑制剤を噛み砕くように飲む

徐々に落ち着いてきたのを確認し、先輩に抑制剤と持って来ていた水を渡して飲ませた




やっと先輩が落ち着き、一息つく
「柳、ごめん...この事は、秘密にして欲しいんだけど...」
何度もウンウンと頷くも、自分もまさかこんな事になるとは思ってなかったせいでドキドキして頭が回らない
「だ、大丈夫です!絶対に誰にも言いません!!
でも、まさか姫宮先輩がΩだったなんて...いつも甘くて良い匂いだなぁ~って思ってたけど...」

つい思ってたことを口にしてしまい、重い沈黙が流れる

「……見えないだろ?俺みたいに可愛くもないのがΩだなんて…、自分でも信じられなくて再検査したくらいだし」
苦痛を誤魔化すような笑いに胸が痛む
オレと一緒なのかな?

「今日は、このまま早退することにするよ。万が一、またなってバレると困るから。
柳が冷静で助かった、ありがとう。」
頭をポンポンと撫でられ、胴着のまま帰る先輩を見送る




騎士ナイトちゃーん、はよ~」
勢いよく抱き付いてくるタケルをすんでのところで避ける
「はよ~」
眠たげに欠伸を漏らしながら適当に挨拶を返すと、不満げな顔で肩を組まれ
「今日も1人朝練したん?真面目だね~
でも、なんか姫宮先輩は体調不良で帰ったって聞いたぜ?」
つい先程のことを思い出し、顔が赤くなる
目敏くオレの顔をみてニヤァ~と笑うタケルに嫌な予感ぎする
騎士ナイトちゃん、もしかして静御前に告白とかしたわけ?んで、振った先輩が気にして早退!!どうだ!オレの名推理!!」
言われた瞬間に腹に一発重い一撃をお見舞いする

「まだ振られてねー!ってか、告白もしてねぇーよ!!」
「うぅ…いてぇ…、騎士ナイトちゃん、見た目によらずいい拳持ってるよな...ガクッ」
ワザと死んだフリをする友人をほっといて自分の席に戻る




あの日から、今まで以上に先輩が気になって仕方ない
甘くて優しい匂いがすると、ドキドキするし、夜のオカズでも...先輩、本当にごめんなさい。

一応、部活内では今まで通りで過ごしているが、オレが振られたというデマだけが部内の噂になり、同情からか皆んなが優しい
そのせいで、先輩までもがちょっとよそよそしいからデマのはずなのにタケルの噂が本当みたいにみられて寂しい日々を送っていた

「柳、今日の練習後、ちょっといいか?」
いつも通りフォームのチェックをして貰っていると、耳元でこっそりと言われ、嬉しさに勢いよく頷く
「おい、腕の力を抜くな!危ないだろ」
危うく弓を弾く力を緩めそうになり怒られる
ただ、ニヤついてしまった顔を戻すことができず、呆れられてしまった




道場の前で待っていたが、時間になっても現れない先輩が心配になる
「あれ?オレ、揶揄われた?いやいや、姫宮先輩に限ってないだろ!
ん~、更衣室の方に呼びに行こうかな。うん。そうしよ!」

軽い足取りで更衣室に向かうと、室内から何やら争っている声が聞こえ

「や、やめっ…いやだっ!!騎士ナイトっ、助け…」




あの日から、気になって仕方がない後輩
第二の性を検査した小6のあの日
自分の性がΩだとわかり、1人だけ保健室に呼ばれた
周りとは違う性と、今後の事を聞いて絶望したのを覚えている

1人、親に連絡が入っているにも関わらず、帰るのが嫌で公園の遊具に隠れていた時に声をかけてくれた自分よりも小さな男の子
女の子のように可愛い彼を見て、こんな子がΩならわかるけど、自分のような可愛くもないのが...と思っていたのに、その子を見ていると全身の血が騒いだ

これが、運命の番というものかと本能で感じたのを覚えている
彼は、まだ自覚もなかったのか無邪気に笑い掛けて、慰めてくれた

「ひめちゃん、笑ってる方が可愛い!大きくなったら、ナイトのお嫁さんになってね。約束だよ」

頬にキスをする彼に、戸惑いながらも頷いた


あれから、転校とかもあったけど、また会いたくて生まれ育ったこの街の高校に進学した
まだ彼がここに居る確証もないし、この高校で会えるとは思ってなかったのに...

部活見学に来た彼を見て、あの時の彼だとひと目でわかり心踊った
あの時の約束、子どもの約束だから無効かもしれないけど...

「はじめまして!先輩の弓を射る姿に惚れて入部しました!先輩みたいになりたいので、ご指導ご鞭撻お願いします!!」
久々に会った彼からの挨拶に泣きそうになった
そりゃ、あんな子どもの時の約束、覚えてないよな...





「何ボーっとしてんだよ。お前、αじゃなくてΩだったんだな。こないだの早退した日に、見ちゃったんだよね~」

名前すら覚えていない3人組
確か、同じクラスの奴だとは思うがそれ以上は興味もないから覚えていない

「αだと言ったことなんて一度もないけど?用事がないならそこ退いてくれる?」
関わりたくないというように1人を押し退けて出て行こうとしたが、腕を拘束されてしまい

「Ωって、男でも濡れるんだろ?さっすが静御前、そんだけ綺麗な顔なら男でも相手して貰うのもいいかもな」
羽交締めにされたせいで逃げられず、脚をバタつかせるももう1人に押さえつけられてしまい
「順番に楽しもうぜ♪この時間、センコーの見回りもないし、ゆっくり楽しめるだろ」
ワイシャツのボタンを外され、露わになる胸に悪寒が走る

「や、やめっ…いやだっ!!騎士ナイトっ、助け…」


バンッ!!!
扉が勢い良く開けられ、羽交締めにしていた奴が何かに打つかり後ろに倒れ込む
何があったのかわからず、目をパチクリさせてしまう

「オレの先輩に何してんだよ!!」




先輩の声にオレの中で何かがキレる音がした
更衣室内に入ると、羽交締めにされて、服が乱され露出した白くて綺麗な肌に目がいく
ブチッと何かがキレる音がし、思い切り羽交締めにしていた人を蹴り飛ばした

殴りかかってくる相手を往なし、代わりに鳩尾を殴る
止めを指すように蹴ろうとした瞬間、「騎士ナイトっ!」という先輩の声に我に返り、拳を握っていた手をヒラヒラと振り
「さっさと出て行ってくれます?まだヤルってなら、相手にはなりますけど?」
αの威圧感を抑えることなく、冷たく言い放つと、3人は逃げるように去っていった

ハァァァっと深く溜息をついてから、先輩の方を振り返るとあられも無い姿を目の当たりにし
「チッ、やっぱり殺すつもりでヤればよかった
姫宮先輩、大丈夫ですか?あの、これオレのだけど羽織ってください。小さいけど...」
自分のブレザーの上着を先輩に渡し、極力肌を見ないように顔を背けるも耳まで真っ赤になっており格好がつかない

「柳、ごめん。助けてくれて、ありがとう」
小さくカタカタ震える先輩を安心させようとギュッと抱き付く
「姫宮先輩、大丈夫。もうアイツら居ないから
先輩、さっき、オレの名前呼んでくれた?オレ、めっちゃ嬉しかったなぁ~」

さっきの嬉しかったのを反芻するように笑うと、先輩が首に腕を回して抱き付いてきた
騎士ナイト騎士ナイト…やっと、名前で呼べた」
いきなりの事で頭が回らないながらも、自分からもギュッと強く抱きしめ
「ひ、ひめ…ちゃんって、言っちゃダメだよね...」
名前を言った瞬間、驚いたのか少し離れてこちらを見詰めてくる
ついクスッと笑ってしまう、驚いた顔が可愛くて堪らず、思わず鼻にチュッとキスをしてしまい
「入部する前からそうかな?って…ずっと探してたんだ。あの時に約束した好きな子の匂いがするって
でも、子どもの時の約束だし、絶対こんなの覚えてないかな?って」
額を先輩にくっ付けて見つめる
「ひめちゃん、小学生のあの時からずっと好きです。
ひめちゃんが覚えてないかもだけど、ずっとオレのお嫁さんになって欲しくて、ひめちゃんを守れるように空手も逃げずにずっとやってきたんだ」

真っ赤になって、固まってる先輩
いつの間にか、希望は確信に変わり、一世一代の告白のつもりで気持ちを打ち明けてみた
返事が貰えないかもしれないし、拒絶されるかもと不安だったけど、先輩の顔を見るとその不安も消し去られ


「ずっと、ずっと大切にするから、オレの番になってください。オレのお嫁さんはひめちゃんしか考えられないから」
恥ずかしそうに小さく頷く先輩に嬉しさを止めることが出来ず、初めてキスをした
何度も唇を重ね、今までの思いを確かめるように深く口付ける

騎士ナイト、その...俺もずっと、好きで…あの約束は忘れた事、ないから…だから、次のヒートの時に番にして欲しい。夢じゃなかったって、思いたいから」

恥ずかしげに言う先輩に嬉しくなり、今腕の中にいる温もりを噛み締める





「で?騎士ナイトはホントーにαだったわけ?」
目が飛び出る程見開いて驚くタケルにニヤニヤと笑みを浮かべ
「だからそう言ってただろ!オレはαで、Ωじゃねぇーって!!」

胴着のせいで、白い首がはっきり見える
先輩の頸には先日のヒートの時に付けたオレの歯形がくっきりと見え、ついそれを見てニヤけてしまう
そんなオレを見てか、少し赤くなった顔をして口パクで「バカ」と言ってくる先輩に愛しさが溢れ、1人悶えるのであった
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みんなの感想(2件)

もくれん
2023.11.20 もくれん
ネタバレ含む
ゆあ
2023.11.20 ゆあ

可愛い攻め、美人受けってセットも好きなんです♪
騎士くん、成長したらいいな…
って話のネタはあるんですが、なかなか機会がなくて…

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Madame gray-01
2023.07.29 Madame gray-01

可愛いカップルです!!!💕

ゆあ
2023.07.29 ゆあ

感想ありがとうございます!
この2人書くの楽しかったです!

解除
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