厄災の青い鳥はしあわせな夢を見る

こうらい ゆあ

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彼が誰かから銀色の杯を渡されている
飲んだ瞬間、喉を掻き毟り、真っ赤な血を吐いて倒れる夢
叫び声と悲鳴
銀色の杯と中に入っていた真紅の飲み物が印象的だった

アレを飲ませちゃダメ
彼を殺さないで…




「ーーーッ………」
恐怖で叫びながら目覚めたつもりが、声にもならなかった

いつ来るかわからない恐怖
でも、きっと、これは近い未来

彼が死んでしまう、確定された未来

早く伝えないと…
それだけは嫌だ…
彼が死んでしまうのだけは…
それだけは、絶対に、嫌だ…




ベッドサイドに置かれた紙とペンを取り、書き殴るように言葉を書く

信じて貰えないかもしれない
気味悪がられるかもしれない
捨てられるかもしれない

でも、彼が殺されるよりは、マシだから…

ベッドを降りて伝えに行こうとするが、脚も腕も足りないボクにはベッドを這って落ちるしか出来ない


ガタンっ


床に落ちると、扉の方に這って向かう
ほんの少ししか進めてないのに、途方もない時間がかかり、息が上がる

「はぁっ…はぁっ…ッ…」
傷口が痛み、冷や汗が吹き出す




ガチャッ



不意に扉が開き、今すぐ会いたかった彼が入ってきた
「あっ…」
これで伝えられると嬉しくなり、声を出すも、見下ろしてくる彼の視線はいつもと違い凄く冷たく、射殺さんばかりのもので、本能が逃げろと訴えてくる

「ルリ、何をしている」
低く冷たい声に身が震える
殺されると本能が訴えてくる

「………ぁっ…」
怖くて声がでない
食べられると本能が訴えてくる


…食べられても、いいや…
もともと、あの買主の男に殺される運命だったんだから…
彼になら、食べられても…

恐る恐る、書き殴ったメモを彼に差し出す

「銀の杯、ダメ、死ぬ…か、訳がわからないな
こんな事を書いて、ここから出られるとでも思ったのか?」
左腕を引っ張られてベッドに投げ戻される
痛みに呼吸が止まるも、逃げようとしたわけではないと訴える為に首を横に振り

「ぃあ…いあう、いあ…ッ」

ドンっ
苛ついて、近くの壁を殴る彼の姿にこれ以上何も言えず、ガタガタと身体を震わせて縮こまる

そんなボクの姿を見て、チッと舌打ちをして扉を叩きつけるように閉めて部屋から彼が出て行った

彼が去ってからも、恐怖はなかなか収まらず、身体がガクガクと震える
そのまま眠ることが出来ず、ゆっくり外が明るくなるのを見て、やっと身体の力が抜けていく




外が明るくなり、室内に柔らかな日差しが入ってくる
いつもと変わらない気持ちの良い朝のはずなのに、怖くてしかたない

いつもなら、もうすぐ彼が起こしに来てくれる時間なのに…
会いたいのに、会うのが怖い

またあの怖い目で見られたらどうしよう
逃げるつもりじゃなかったけど、そう思われていたらどうしよう
来てくれなかったらどうしよう




コンコン


軽いノック音の後、いつもの優しい彼が入ってきた
「ん?ルリ、今日はやけに早いな。クマが出来てる、寝てないのか?」
あの時に会った人とは全くの別人のような優しい彼
いつもの優しい彼
もう怒ってない?それとも、今が嘘?


どっちが本物の彼なんだろう…



今なら夢のことを伝えられるだろうか
今度こそ伝えようとするも、あの時の恐怖から身体が震えてしまう
また、夢のことを伝えたら怒られると感じ、何も言うことが出来なかった



何度か夢のことを伝えようとしたが、その度にあの夜の恐怖が蘇り震えて伝えることができない

でも、あの日が刻々と近づいてくるのだけはわかった

焦りだけが日々募っていく



またあの夢だ…
今回は前よりも周りの様子がはっきりと見える

とても嫌な感じのキラキラがいっぱい付いた偉い人が彼に会いに来た
何か話しをして、お連れの人がお盆に例の銀の杯を載せたお盆を持って来ている

「ダメっ!!飲まないで!!」

夢の中のボクは叫ぶけれど、誰も聞いてくれなくて…

彼が偉い人と笑顔で杯を掲げてから飲み干す
その後は前に見た夢と同じ…

血をいっぱい吐いて、苦しんで死んでしまう彼
見たくないのに…
側に行きたいのに…

夢の中のボクは何か見えない壁に阻まれて近づくことも出来ない

誰か…誰か…
彼を助けて…




目が覚めると、そこはいつもの綺麗な広いベッドの上だった

今日だ…
今日、あの夢が現実になってしまう

左手で自分の身体を抱き締めて震えを抑える
どうにかして、一緒に居なきゃ…
伝えれなくても、一緒に居ればなんとかなるはず
銀の杯を飲ませないようにしなきゃ…


コンコン


軽いノック音の後に、彼が顔を覗かせる
「おはよう。よく眠れたか?」
ベッドの縁に腰掛け、ボクの頬を撫でて顔色を確かめる
「うん、隈もないな。しっかり寝れたようでよかった」

返事をするようにコクリと頷き、彼の服の裾を摘む

「ん?どうした?何か怖い夢でも見たのか?」
再度コクリと頷き、彼の胸に頬を擦り寄せて甘えしがみ付いて離れないようにする

彼の耳がピクっと動くのがわかったが、気付かないようにしてギュッと服を握る

「今日は甘えたなようだな…仕方ない、今日は出来るだけ側にいるから安心しろ」
溜息を吐かれるも、頭を撫でて側に居てくれると言ってくれた


これで、きっと大丈夫…
あの銀の杯だけは絶対に飲ませない…




昼過ぎに来客があるらしい
いつもよりも館の人達が忙しなく働いている

「午後から来客があるから、ルリはこの部屋に居て欲しい」
嫌だと言うように首を横に振り、服の裾を掴む
「ぁ…んんっ…」

イライラしているのがわかる
怖くて手が震えるが、必死に離さないようにし
「あぅ…」

涙目でじっと見つめていると、ハァァァっとあからさまに迷惑だと言うような盛大な溜息を吐かれ

「今回だけだ。絶対に邪魔をするなよ。邪魔をすれば、お前の今の待遇も変えなければならなくなるからな」

なんとかボクも一緒に居ることを許してもらえた
これで、あの銀の杯を飲むのを防げるなら、後はどうなってもいい…
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