厄災の青い鳥はしあわせな夢を見る

こうらい ゆあ

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あの日から、リューク様は本当に優しくしてくれる
恋人のようにボクを何処に行くにも抱き抱えて連れて行ってくれる

初めて、街中を巡ることになった
沢山のお店や街の人々

今まで見た中で一番人が多い場所


「刻詠みの神子さま?」
急に声を掛けられ、リューク様に抱えられたまま下を振り向くと、小さな兎族の仔がちょこんと立っていた

「ママが言ってたよ。領主さまと一緒にいる青色の片翼の神子さまが、この街を守ってくれるから、ミミたちは安心だって」
小さな花束を渡してくれた

リュークに抱えられたまま小さな仔の話しを聞いて、恥ずかしさから顔が赤くなるのがわかる
初めて言われたことに、胸が熱くなり、どう答えていいのかわからない

「お花、ありがとう。ルリは喋れないが、喜んでいるよ。」
ボクの代わりにリュークがお礼を言ってくれる
ボクも笑顔で頭を下げ、ありがとうと手を振る

小さな仔は嬉しそうに母親の方に駆けて行った

「ルリ、お前の予知夢のおかげであの仔たちは生きながらえているんだ
この辺境伯領は、豊かな領地ではあるが、凶暴な魔獣も多く出てくる地でもある
その魔獣から得られる希少で強力な素材もあるが、その分反乱など起きると一溜まりもない
隣国とは今は貿易などで友好的な関係を結んでいるが、いつどうなるかはわからないからな…
だが、ルリが来てくれてからは、先に対策出来ていることもあり、街の皆がお前に感謝しているんだ
皆、ルリのことを敬意を込めて刻詠みの神子と言ってるんだよ」

生まれて初めて、この力のことを褒めて貰えた
今まで、厄災を運んできたとしか言われたことのないボクの力
嬉しくて、でも恥ずかしくて、誤魔化すようにリューク様に抱き付いて胸に顔を埋める

そんなボクの頭をポンポンと撫でてくれる
この人のこういう優しいところが好きだった



リューク様のことが気になって仕方ない
助けてくれたから
優しくしてくれたから
必要としてくれるから

リューク様のことが、好き

自覚するとその気持ちは一気に溢れ出した



あぁ、ボクにも愛しい人が出来たんだ
ボクのことを愛してるって言ってくれて、大切にしてくれる

ずっと憧れていた存在
ずっと諦めていた人
ずっと叶わないと思っていた夢



リューク様の頬に擦り寄り、触れるだけのキスをする
「…………」
声にはならないけれど、「愛してる」と呟いてみる

彼は嬉しそうに微笑み掛けてくれ、キスを返してくれた
「オレもルリを愛しているよ」





緊張して眠れない

初めて好きな人に一緒に寝たいと言ってしまったから

夕食の後、ボクを部屋に連れて行ってくれた彼に今日は一緒に寝て欲しいって書いた紙を見せた

驚いて尻尾を膨らませていたけど、すぐにイタズラっぽい笑みを浮かべ
「一緒に寝るとは、どういうコトかわかっているのか?」
ボクの胸に手を這わせ、首筋にキスを落としていく

恥ずかしさから心臓がバクバクする
真っ赤になりながらコクンと頷くと、彼が困った顔をし
「ルリ、すぐに終わらせるから待っていてくれ」
触れるだけのキスをされ、急いで出て行く彼を見送る


嬉しくて、でも恥ずかしくて…
期待と緊張で落ち着かない…


前の買主に玩具のように犯されたことはあるけれど、あれは痛みと気持ち悪さだけの行為だった
薬で無理矢理気持ち良くされた時も、吐き気が止まらず、早く終わって欲しくて仕方なかった


初めて、この人に抱いて欲しいと思った
この人になら、全てをあげたいと思った



でも、こんな汚い身体、誰が欲しがるの?

不意に暗い気持ちが込み上げる
服を捲り上げ、お腹に視線を落とすと、歪な縫い痕が鳩尾から臍のあたりまで伸びている

あの部屋に居た時に切られた傷

他にも脇腹や背中にも同じような歪な縫い痕が多数あり、触れる度に心が沈んでいく


こんな汚い身体…見たら萎えちゃうよね…


涙で視界が歪み、隠れるようにシーツに包まる

ガチャッと扉が開く音がし、彼が用事を済ませて部屋に戻ってきた

シーツに包まって隠れるボクを見て、クスッと笑い、シーツごと優しく抱き締めてくれる
「ルリ、恥ずかしくなったのか?どうした?何故泣いている?」
シーツ掻き分け、ボクの顔を見て泣いているのがわかると心配してくれる
親指の腹で涙を拭い、目元に唇が当たる

「やはり、オレが抱くのは嫌か?」
あからさまに尻尾と耳が垂れてシュンと落ち込んでいるのがわかり、違うと言うように首を横に振る
おずおず自分の服を捲り上げ、お腹の傷を見せる

「傷が痛むのか?」
優しく縫い痕を撫でる手が熱い
違うと言うように首を横に振るとクスッと笑われてしまい

「コレはルリが必死に生きたいと思った証だから汚くはない
普通なら早々に死んでいるほどの酷いモノなんだよ」

傷痕に沿うようにキスをされ、擽ったいようなゾクゾクした感覚に身を捩る

「ルリはどこも綺麗だよ。だから、オレにお前の全てを預けて欲しい」
小さく頷いて、彼に身体を預ける

胸の突起を舐められるとビクンッと身体が震え、心臓がバクバクする
「ッ…はぁ…っぁ…」
快楽なんて一度も知らなかった身体が喜び、触れられる度に呼吸が荒くなる

「ルリ、愛している」
彼の熱い吐息が気持ち良い
触れられた場所が熱い
お腹の奥まで熱いモノを何度も打ち付けられ、声にならない嬌声を上げながら何度も果てた

大好きな彼に身も心も蕩ける程愛され、疲労感から眠りに落ちた







喉の渇きに目が覚めると、彼の姿が見当たらず、不安になって辺りを見渡す
まだ外は暗く、朝までは長い

扉が少しだけ開いており、誰かが話している声が聞こえ、息を潜めて会話を盗み聴きしてしまった


「アレの信用を無事得られたのですな。これでこの地は安泰でしょう!
あとは、アレが逃げれぬよう、しっかり愛されていると思わせれば安心じゃろ
片目がない分、魔力がいつ枯渇して予知がなくなるか解らぬからの…」

聞き覚えのある皺がれた声
いつも優しくボクに文字を教えてくれたおばあさん
温かくて、優しい声のはずなのに…
今聞こえる声は、とても冷たくて怖い…

誰と話しているんだろ…
わかっていたけれど、理解したくなくて、考えたくなくて
聞こえてきた声に涙が溢れた


「やはり、あの目か…隻眼になる前なら、何とかなったものの…」

聞きたくなかった
すぐに、誰かわかってしまったから…

さっきまで優しくボクを抱いてくれた彼
たくさん、「愛してる」って囁いてくれた声


でも、話を聞いて納得してしまった
ボクがあの人に愛されるはずがないから
嘘でも、幸せだったから…



ボクの夢が分かれば、この地は平和になるんだ…
みんな、喜んでくれてたから…
もともと、あの時に死ぬはずだったんだ…


それなら、彼の望み通り沢山、沢山、夢を見よう
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