厄災の青い鳥はしあわせな夢を見る

こうらい ゆあ

文字の大きさ
8 / 11

8

しおりを挟む
屋敷が、街が、家が、みんな燃えている
悲鳴と泣き声、怒声が聞こえる

隣の国が攻めてきた

目を瞑って、耳を押さえたくなる悲惨な光景
敵らしき人が何かを掲げている

見たくない
やめてっ!やめてっ!!

知っている黒い髪
ずっと見ていた顔
ボクの大好きな彼の頭部

目を逸らせたいのに、何故か釘付けにされてしまう



「ーーーッ!!!?」
声にならない声を上げ、手は宙を掻くように伸ばされたまま目が覚めた

息が荒く、体はガタガタと震えが止まらない

なに、あの夢…
今まで見た夢で一番怖かった
街全てが燃えていて、沢山の人の死体と焼ける臭い、悲鳴と怒号
そして、彼の……


あれは、スグじゃない…
遠くはないけど、今すぐではないはず…
もっと、もっと何かわかるものがあるはず…

震える身体を抱きしめながら、自分自身に言い聞かせる

旗…

彼の…後ろに旗があったはず…

明るくなったら、教えて貰わないと…もっと、もっと…知らなきゃ…





『リューク様、これはリューク様の紋章ですか?』
屋敷内でもよく目にするもの
黒い狼の横顔に金色の剣が斜めに描かれている

「そうだ。オレの紋章がコレになる
隣国からの防衛も兼ねているから、国王から承った剣を紋章に組み込むことを許されているんだ
これは、オレの誇りでもある」

隣国
ヒト族が多く住んでいて、この国に領土を狙っていると聞いたことがあった
捕まったら、奴隷にされるか殺されるか…あとは、死んだ方がマシだと言う仕打ちをされると聞かされたことがある

『隣国の、旗ってどんなのですか?』
心臓が早鐘を打つ
何となく、予感はあった…


赤い下地に双頭の黒いドラゴンが描かれた物を見せられる
「これだ。もし、この旗を見たら急いで逃げるんだ
万が一捕まれば、どうなるか…」
苦々しく話す彼に息が詰まる
夢で見たあの旗…


コクコクと頷く
逃げる手段を持たないボクだけど、彼の邪魔にはなりたくなくて…

『もっと色々教えてください。夢を見たら、すぐに伝えれるようにしたいから』

今はまだ言えない
あの未来が近づいてくる気がするから
まだもう少しだけ、色々確認してからじゃないと…




あれから、毎晩同じ夢を見る
もっと知りたいのに、見えない壁に阻まれて知ることが出来ない
「お願い!ボクのモノならなんでも差し出すから!もっと、もっと…」

ブチッ

背中に痛みが走った

ブチッブチッブチッ

何かが千切れる音と全身を駆け巡る痛み
残っているはずの翼の部分が痛い
羽根を抜かれた時のように
翼を折られた時のように

痛みで身体が硬直し、息ができない


「翼なんて要らない!!だから、もっと知るための脚を下さい!!」
痛みに耐えながら叫ぶ
誰に言っているのはわからないけれど、出せるだけの声を出して

バツンッ!


不意に背中から大きな音が聞こえ、雷にでも撃たれたような痛みが全身を襲う

「ぎぃやあああああっ!!!?」
付け根から切り落とされた痛みに視界が歪む

視線の先には、もう無くなっていたはずの左脚がしっかりとあり
「ありがと…ござ、ます…」

これで、もっと見に行ける
悲しい未来を変えに、行ける




目が覚めるといつも以上に身体が重い
背中の痛みで吐きそうになり、口元に手を添える


「っ…」

なんとか身体を起こすも翼がある部分が異様に重い
動かそうとしても、感覚がないことに気付き、夢のことを思い出し笑みを浮かべる

これで、今晩から動ける
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

雄牛は淫らなミルクの放出をおねだりする

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...