厄災の青い鳥はしあわせな夢を見る

こうらい ゆあ

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ルリが目醒めなくなって3日が経った

予知が書かれた紙を見つけたのは2日前
ルリが必死に隠していた理由
今眠り続けている理由
ルリの気持ち

これを見つけた瞬間、ルリがこのまま目醒めないのではないかという恐怖が全身を襲った

無理に起こそうとした瞬間、老婆に嗜められる
「意識が夢に囚われ、それこそ戻って来れなくなる
今は、アレが無事に戻ってくるのをお待ちなさい」

歯痒い時間だけが過ぎていった





もう少し、もう少し…この先に、引き金となる人がいるはず

ボクは夢の中を走り続けた
これが最後のチャンス
これを逃したら、未来を変えれないと思ったから

隣の国に入っていく見覚えのある人

リュークに銀の杯を飲まそうとした、あのヒト族の貴族

「なんで!?あの人は処刑されたって言ってたのに!」
今すぐ殺してやりたい衝動に駆られるも、今ボクが居るのは夢の中でしかない

今、あの人を殺しても、未来は変わらない


ブツンッ

何かが千切れる音が聞こえ、その場に崩れ落ちる


あぁ…もうこの脚は無理なんだ…

でも、この事をリュークに伝えれば大丈夫
全て、これで上手くいくから…


世界が遠くに見える
長かった、本当に長かった、悪夢が終わりを告げる





「……………」
重たい瞼を持ち上げ、ゆっくり小さく息を吐き出す
視界が霞みがかっており、頭が痛い

どれくらい、眠り続けていたんだろう…


部屋が薄暗く見え、左手を誰かが握ってくれているのがわかる
「…………」
リュークがボクの手を両手で包み込むように握り、何かを祈るようにしている

帰って、これたんだ…
早く、伝えないと…



「ルリ!よかった…もう、目醒めないのではないかと…」
彼の綺麗な金色の瞳から涙が溢れ落ちてくる
ボクのために泣いてくれるの?

涙を拭いてあげたいけど、左手はしっかり握られているからどうしようもなく、出ない声で「ごめんなさい」と謝る

「伝えたいことがあるのだろ?」
コクンと力強く頷き、痛む身体を起こそうとするも力が入らない
そんな様子を察してか、彼がボクを支えてくれる

『ヒト族の貴族が生きている。あの人が隣国に情報を売り、春に戦争が起きてしまう。このままだとみんな死んでしまう。
リューク様も…』

あの貴族が今隠れている場所やこれから起こること、戦争にならない為のこと
わかること、見えた物を全て紙に書き記していく

全てを書き終えると、力が抜けていきペンが白いシーツに転がり落ちる


「ルリ、こんなに頑張ってくれたのか…」
力強くボクを抱き締めてくれる
彼の温かい体温が嬉しい
求めてくれる強さが嬉しい

彼の苦し気な表情に大丈夫と言うように首を横に振って笑みを浮かべ

口をパクパクとさせる
「貴方の為なら、ボクの命がどうなってもいいよ」
声にはならないけれど、どうしても伝えたかった


笑って欲しかった
良くやったって褒めて欲しかった




秋も深まった頃、あのヒト族の貴族は捕まったらしい
彼が直々に動いて、悪い人はみんな捕まえたんだって
これで、怖いことは起きない

彼が事前に戦争を防げたことが讃えられるんだって
国を挙げてのお祭り騒ぎ
街でもみんな喜んでいて、連日宴会が行われている
王様にご褒美もいっぱい貰えるんだろうな…

これで、彼は幸せになれる
彼女との幸せな未来を迎えることができる




ボクは、力を使い過ぎちゃったみたい…
脚も翼も残っていた右腕も感覚がもうない
唯一自由に動かせる左手が残っててよかった

まだ、側に居させて貰える
まだ、役に立てる

リュークが抱き抱えて丘には毎日連れて行ってくれる
街を見下ろして、彼を見て、また夢を見る

ボクに出来る唯一のこと
少しでもたくさんの夢を見ること
これからもいっぱい未来を見るよ
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