【本編完結】期限つきの恋

こうらい ゆあ

文字の大きさ
37 / 42
~another~ 期限のない恋

8.お姉さんには敵わない

しおりを挟む
 駅前の『にゃんこカフェ』に着くと、ガラス越しに彩花さんが手を振ってるのが見えた。
 店内は、ふわふわの猫たちがゴロゴロしてる癒し空間で、コーヒーの香りと猫の毛の柔らかい感触が混ざってる。
 
 彩花さんは、窓際の席で白いモフモフの猫を抱っこしながらお腹に顔を埋め、傍から見ても満面の笑顔を浮かべているのがわかった。
「はぁ~……御ネコ様、さいこぉ~♡」
 女優さんにあるまじきだらしない笑みで何か言っている。
「……彩花さん、仕事中はその顔は止めた方がいいと思いますよ」
 オレがジト目で言うと、ムッとした表情になり、唇をツーンと尖らせて反論してくる。
「仕事中はこんな顔しませ~ん。もう、葵くん、遅刻しなかったからお仕置きナシにするつもりだったけど、やっぱりお仕置きしちゃおうかなぁ~?」
 彩花さんの美咲さんみたいなイタズラっぽい笑顔に、思わず狼狽えてしまう。
「え?ちょっ!お仕置きって……」
 オレが怯えた顔で聞くと、猫を抱きしめながらケラケラ笑って誤魔化されてしまった。
 
 なんか色々と釈然としないまま、オレが彩花さんの向かいの席に座ると、猫がスリスリ寄ってきて、ささくれ立った心がほわっと落ち着く。
「ねえ、彩花さん、重大な提案って何?なんか、めっちゃワクワクするんだけど!」
 オレが目をキラキラさせながら言うと、彩花さんが猫を撫でながらニヤッと笑う。
「ふふっ、葵くんのそのテンション、最高!じゃ、早速本題ね!」
 彩花さんがテーブルに身を乗り出して、まるで映画の美咲さんが葵に秘密を話すみたいに声をひそめる。
 
「葵くん、映画の葵のスケッチブック、覚えてるよね?あの海とか星空とか、佐藤先生の横顔とか……めっちゃ心に残ってるでしょ?」
 オレがコクコク頷くと、彩花さんが目をキラキラさせて続ける。
「でね、聖桜病院……映画のモデルになったあの病院で、ほんとに葵のスケッチブックを展示しようよ!絶対、病院に来る人たちの心に届くと思うんだ!」
 聖桜病院は映画の中の病院名だけど、モデルになった病院はあるらしい。
 その病院で、本当に葵の描いた絵の展示会をしよう。っていう提案だった。
 そのアイデアに、オレの心が一気に跳ね上がる。
 だって、映画の葵がオレたちのいる現実の世界でも夢を叶えられるんだって思ったら、嬉しくなっちゃって……
 
「うわ、めっちゃいい!葵の絵、絶対みんなに届くよ!病院に来る人たちにも、葵の愛が伝わると思う!」
 オレが興奮して声が大きくなっちゃったせいで、隣で寝転んでいた猫がビクッと耳を動かす。
「あ、ごめん、猫ちゃん!」って慌てて謝ると、彩花さんがクスクス笑う。
「もぉ~、笑わないでよ」
 恥ずかしいのを誤魔化すように彩花さん文句を言ってみるけど、今はそれ以上に嬉しすぎて口元が緩んでしまう。
 この嬉しい気持ちを共有したくて、オレはいてもたってもいられず、急いで佐藤さんにメッセージを送っちゃった。

『彩花さんが、葵のスケッチブックを聖桜病院で展示しようって!めっちゃいいアイデアだよね!』
 興奮しすぎてタメ語で文章を打ってしまったうえに、確認もせずにそのまま送信ボタンをポチっと押してしまう。
「…………ぁ」
 ボタンを押した直後、冷静になって頭が真っ白になる。
 うわ、ヤバっ!オレ佐藤さんにこんなカジュアルなメッセージ、失礼すぎる!?
 慌てて謝罪のメッセージを打ち始めたけど、その前に佐藤さんから返事がピロンと来てしまった。
『彩花のアイデア、いいな。葵の絵はたくさんの人に響くと思う。青葉の絵も一緒に展示用に出せないのか?』
 佐藤さんのメッセージ読んだ瞬間、嬉しくてニヤニヤしちゃうけど、「オレの絵も展示できないのか?」って……
「え゙っ!?」

 佐藤さんの提案に、驚きすぎて変な声が出てしまう。
「ん~?なになに?」
 彩花さんが勝手にオレのスマホを覗き込んでくる。
「ちょっ!彩花さん、ダメっ!プライバシー!」
 オレが慌ててスマホを隠すけど、彩花さんがニヤニヤしながら言ってくる。
「え~、イイじゃん!佐藤さんの言う通り、葵くんの絵も一緒に展示したら、もっとすごいことになるよ!」
 彩花さんまでノリノリでオレの絵を推してくる。
「いやいや、彩花さん、葵のスケッチブックと一緒に展示なんて、恥ずかしすぎる!」
 確かに、映画で絵を描き始めたけど、オレの絵なんて素人の落書きレベルだよ!
 それに、あのスケッチブックには、佐藤さんの笑顔とか、映画の海とか、オレの気持ちがいっぱい詰まってるけど……それを展示するなんて、恥ずかしすぎる!
 スマホを握りしめて悶々としていると、彩花さんがオレの顔を見てニヤニヤしていた。
 
「ふぅ~ん、やっぱりそうなんだぁ~。ズバリ!葵くんは、佐藤さんに恋してるでしょ~♪」
 いきなり核心突かれて、胸がドキッと跳ねる!
「は?えっ!な、なっ!?え、そんな、こと……ない、よ?」
 声が裏返っちゃって、めちゃくちゃ動揺してるのがバレバレだ。
「だって、普通こういう話は監督とかプロデューサーに相談するよね?なのに、一番最初に佐藤さんに連絡して、返事見てニヤニヤしてるんだもん!モロバレだよ~!」
 彩花さんの軽快な笑い声に、頭から湯気が出そうなくらい顔が真っ赤になって、スマホ握ったまま俯いちゃう。
「うんうん、映画でも葵と悠真はお似合いだったもんね!ねぇ、葵くんは佐藤さんとデートしないの?デート!」
 彩花さんが美咲さんみたいにめちゃくちゃ嬉しそうに揶揄ってくる。
 恥ずかしいけど、事実だから否定できなくて……
 でも、恥ずかしいことには変わりない。
「葵くんから佐藤さんのこと誘っちゃいなよ♪絶対OKくれるって!ご飯だけでもいいし、水族館とか遊園地もいいんじゃない?」
 目を輝かせながら言ってくる彩花さんの勢いに負け、ついポロッと本音が漏れてしまう。
 
「実は……明日、佐藤さんと海に行く約束してて……」
 言った瞬間、彩花さんが「きゃー!やっぱり!めっちゃロマンチックじゃん!」って、映画の美咲さんみたいにテンション高く喜んでくれた。
 その声に、なんか心がポカポカして、幸せな気持ちが溢れてくる。
「彩花さん、なんか……美咲さんみたいですね。いつもオレのこと、応援してくれる」
 オレが照れながら言うと、彩花さんは映画のワンシーンみたいに頬杖をつき、猫を撫でながら、まるで美咲さんが葵を応援するみたいに言ってくれる。
「当然でしょ!葵くんは私の弟みたいな子だからね!」
 彩花さんの笑顔が、本当のお姉さんみたいに温かくて、なんか……心がポカポカする。

「よし、じゃあ作戦会議ね!聖桜病院に連絡して、展示会の許可もらうところからスタートしよう!あ、監督たちには先に言って許可もらってるから大丈夫! 葵くんは、佐藤さんに相談して、どんな絵を展示するか一緒に考えといてね」
 彩花さんがウインクしながら言うと、オレの頭に、佐藤さんと一緒にスケッチブックを開くシーンが浮かぶ。
 佐藤さんが「青葉の絵、めっちゃいいな」って笑ってくれるのを想像したら、胸がドキドキしてニヤニヤが止まらない。
 
「う、うん。絶対やる!葵の愛を、みんなに届けたいし……」
 それに、佐藤さんに、オレの絵を見てもらうチャンスだもんね。
 うん。もしかしたら、本当に絵を褒めてもらえるかもしれないし……

「明日、佐藤さんとデートするなら相談するタイミングもバッチリだしね♪ついでに告白もしちゃえ♪」
 彩花さんが猫の手を借りてシュッシュッと猫パンチを繰り出してくる。
「えぇっ!ちょっ、彩花さん!」
 オレが慌てて訂正しようとしたら、彩花さんは「それそれ!葵くんのそのテンション、好きだよ~!」って笑って聞いてくれなかった。
 彩花さんの笑い声に反応したにゃんこカフェの猫たちが、ゴロゴロ喉を鳴らしながら寄ってきて、まるで応援してるみたいだった。
 

 明日は、スケッチブックにオレたちの新しい物語を描きたい。
 聖桜病院での展示会も、明日の海のデートも、全部特別なものになると思う。
 オレの絵で、葵の愛をたくさんの人に届けたい。
 そして、佐藤さんの隣で、笑顔でいられる未来を描きたい。
 そんなことを考えながら、オレはスケッチブックを抱いたまま、ドキドキが止まらない夜を過ごした。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

カフェ・コン・レーチェ

こうらい ゆあ
BL
小さな喫茶店 音雫には、今日も静かなオルゴール調のの曲が流れている。 背が高すぎるせいか、いつも肩をすぼめている常連の彼が来てくれるのを、僕は密かに楽しみにしていた。 
苦いブラックが苦手なのに、毎日変わらずブラックを頼む彼が気になる。 今日はいつもより温度を下げてみようかな?香りだけ甘いものは苦手かな?どうすれば、喜んでくれる? 「君の淹れる珈琲が一番美味しい」
苦手なくせに、いつも僕が淹れた珈琲を褒めてくれる彼。 照れ臭そうに顔を赤ながらも褒めてくれる彼ともっと仲良くなりたい。 そんな、ささやかな想いを込めて、今日も丁寧に豆を挽く。 甘く、切なく、でも愛しくてたまらない―― 珈琲の香りに包まれた、静かで優しい記憶の物語。

この運命を、あなたに。

皆中透
BL
オメガが治める国、オルサラータ。この国は、王がアルファを側室に迎える形式で子孫を残し、繁栄して来た。 イセイは現王ジュオの運命のつがいとの間の息子で、ジュオの二番目の子供にあたる。彼には兄が一人と弟が二人いるのだが、その弟の父であるイファに長年恋心を寄せていた。 しかし、実父の側室であり、弟たちの父親である人を奪ってまで幸せになる事など出来ないと思い、一度もその想いを告げたことはなかった。そして、成人後には遠くの領地をもらい、イファから離れる道を選ぶと決めている。そうして想いに蓋をしたまま、彼は成人の日を迎えた。 祝宴の日の朝、正装をした四兄弟は杯を交わし、これからも変わらずにいることを誓い合おうとしていた。すると、その杯を飲み干したイセイは、そのままその場に倒れ込んでしまう。 暗殺かと思われたその出来事は、イセイが翌日目を覚ましたことで杞憂に終わったのだが、目覚めたイセイはなぜかオメガになっていて……。 秘めた想いが絡まり合い、真っ直ぐに繋がれない恋。 不器用な二人が番うまでの日々を綴る、訳ありオメガバース。

【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末

竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。 巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。 時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。 しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。 どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。 そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ…… ★『小説家になろう』さんでも掲載しています。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ 久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。 パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。 オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?

(完結)冷徹アルファを揺さぶるオメガの衝動

相沢蒼依
BL
 名門・青陵高校に通う佐伯涼は、誰もが一目置く完璧なアルファ。冷静沈着で成績優秀、規律を重んじる彼は、常に自分を律して生きてきた。だがその裏には厳格な父と家の名に縛られ、感情を抑え込んできた孤独があった。  一方、クラスの問題児と呼ばれる榎本虎太郎は自由奔放で喧嘩っ早く、どこか影を抱えた青年。不良のような外見とは裏腹に、心はまっすぐで仲間思い。彼が強さを求めるのは、かつて“弱さ”ゆえに傷ついた過去がある。  青陵高校1年の秋。冷徹で完璧主義の委員長・佐伯涼(α)は、他校の生徒に絡まれたところを隣のクラスの榎本虎太郎(Ω)に助けられる。だがプライドを傷つけられた佐伯は「余計なことをするな」と突き放し、二人の関係は最悪の出会いから始まった。 《届かぬ調べに、心が響き合い》 https://estar.jp/novels/26414089 https://blove.jp/novel/265056/ https://www.neopage.com/book/32111833029792800 (ネオページが作品の連載がいちばん進んでおります)

さよならの向こう側

よんど
BL
【お知らせ】 今作に番外編を加えて大幅に加筆修正したものをJ庭58で販売しました。此方の本編を直す予定は御座いません。 BOOTH https://yonsanbooth-444.booth.pm/items/7436395 ''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様 (無断転載×)

処理中です...