ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい

文字の大きさ
255 / 277

第255話 真インフェルノ対片翼の天使 その2

しおりを挟む
 一撃……。たった一撃で、「片翼の天使」のヒーラー陣が焼き尽くされた。残されたのは死体だけ。
 聖域で戦ったインフェルノは、被ダメージ量に応じて複数のブレスを使い分けていたが、真インフェルノが使っているのは、扇状に広がるブレスだ。距離を取れば取るほど攻撃範囲が広がるため、真インフェルノから離れていたヒーラー達に逃げ場などなかった。

「これではもう打つ手がありませんね……」

 ヒーラーであるミコトさんの声は、震えてはいなかった。
 冷静に状況を見ている――だからこそ、その言葉の重みが刺さる。
 けれど、ヒーラーの重要性を一番理解しているのは、むしろ彼女の支援を受けて戦う俺たちアタッカーやタンクのほうだ。
 序盤でヒーラー全滅。――それは、悪夢以外の何ものでもない。
 まだ立っているメンバーたちの心中を思うと、胸が痛む。

「それにしても、なぜタンクからターゲットが剥がれたんだ……?」

 クマサンの声には、明確な戸惑いが混じっていた。
 ブレスの直後、真インフェルノの攻撃は再びタンクのガブリエルへ戻っている。
 つまり、タンクへのヘイトがリセットされたわけではない。タンクのヘイト管理自体は正常に機能している。

「……運悪く、ヒーラーのヘイトがタンクのヘイトを上回ったんだろうか?」
「いえ、ヒーラーはローテーションで回復ヘイトを分散していました。まだ範囲攻撃も受けていませんでしたし、大量の回復が必要な状況でもなかったはずです。それで狙われるとは考えにくいです」

 俺の推測は、ミコトさんに即座に否定された。
 ……いや、彼女の言うとおりだ。
 どう考えても、あの状況でヒーラーにタゲが向くとは思えない。

「だとすると――真インフェルノは従来のヘイト処理とは違う仕様かもな。……あるいは、あのブレス自体がヘイトを無視した攻撃なのかもしれない」
「ヘイトを無視?」
「たとえば、ランダムで狙いを決めるとか、一番遠くにいるプレイヤーを狙うとか……」
「なるほど……それなら、さっきの挙動は説明がつく……けど、もしその通りならタンクとしてはやってられないな」

 クマサンの低い声には、苦笑に似た怒りが滲んでいた。
 確かに、もし俺の仮説が当たっているなら――それはタンク職の存在意義を根底から揺るがしかねない仕様だ。
 だが、敵によっては魔法耐性が異常に高かったり、物理攻撃がほとんど通らなかったりと、職業ごとの不利は常に存在する。
 全攻撃がヘイト無視というのなら話は別だが、一部の攻撃だけそうだとしたら、理不尽というほどでもないかもしれない。
 ……ただ、それを新HNMでやってくるあたり、運営の性格の悪さを感じるけど。

「あくまで仮説の域だ。もっと情報を積み重ねないと、はっきりしたことはわからないよ」
「……そうだな」

 そんな会話を交わしている間にも、戦況は進んでいた。
 タンクのガブリエルが、ついに堕ちた。
 アタッカーの中には回復スキルを持つ者もいたが、焼け石に水だった。ほんのわずか、彼女の寿命を延ばしただけにすぎない。
 次にサブタンクが前に出て、ターゲットを引き継ぐ。
 だがヒーラーを失った状態では支えきれるはずもなく、彼もまた沈んだ。

 ヒーラー全滅の時点で、勝機がないのは誰の目にも明らかだった。
 全員で別方向に一斉に逃げれば、何人かは助かる可能性もある。敵にはそれぞれ「有効範囲」があり、その外まで逃げ切れば戦闘状態は解除される。真インフェルノの有効範囲が無限の可能性はあるが、それでも街や村に入れば戦闘状態は強制解除される。北の砦まで戻ることができれば、確実に助かるだろう。

 ――だが、彼らは逃げなかった。

 逃げている間、真インフェルノはユニオンのメンバーを追い続けるだろう。
 その途中で範囲攻撃やあのブレスを放てば、この新エリアにいる他のパーティを巻き込みかねない。
 もしそんなことになれば、ギルドの評判は地に落ちる。
 おそらく、それを恐れてのことだ――そう思ったそのとき。

「……いや、違うか」

 俺は息をのんだ。
 勝ち目のない中、それでも攻撃の手を止めない彼らを見て、ようやく気づく。
 もちろん、評判を守るという理由もあるだろう。だが、それだけじゃない。
 今の彼らの攻撃――あれは明らかに、ヒーラーが健在だった頃とは違っていた。
 先ほどまではダメージ効率を最優先に、最適なスキルを回していた。
 だが今は、一撃ごとに違うスキルを使っている。
 中にはほとんど効果の見られないものもある。
 けれど、それでもやめない。

 勝てないと悟って投げ出したのではない。
 彼らは勝算が消えた瞬間に、戦いの目的を変えたのだ。
 どのスキルがどれほど通じるか。
 どんな条件でブレスが飛ぶのか。
 何が通用し、何が通じないのか。

 ――次に挑むときのために。

 一見すればただの敗北。だが実際には、次へ繋げるためのデータ収集戦。
 命を懸けた、未来のための戦いだった。

「……ルシフェル」

 ギルドマスターである彼は、なおも属性を変えながら精霊魔法を放ち続けていた。
 正直、苦手な相手だ。
 だが――その姿勢だけは、心から敬意を払わざるを得ない。

 俺が見つめる中、真インフェルノの標的がルシフェルに向かう。
 次の瞬間、紅蓮の爪が閃き、ルシフェルの体が宙を舞った。
 そして彼は、静かに地へ崩れ落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい
ファンタジー
 かつて「緑の公国」で英雄と称された若き魔導士キッド。しかし、権謀術数渦巻く宮廷の陰謀により、彼はすべてを奪われ、国を追放されることとなる。それから二年――彼は山奥に身を潜め、己の才を封じて静かに生きていた。  だが、その平穏は、一人の少女の訪れによって破られる。 「キッド様、どうかそのお力で我が国を救ってください!」  現れたのは、「紺の王国」の若き王女ルルー。迫りくる滅亡の危機に抗うため、彼女は最後の希望としてキッドを頼り、軍師としての助力を求めてきたのだった。  かつて忠誠を誓った国に裏切られ、すべてを失ったキッドは、王族や貴族の争いに関わることを拒む。しかし、何度断られても諦めず、必死に懇願するルルーの純粋な信念と覚悟が、彼の凍りついた時間を再び動かしていく。  ――俺にはまだ、戦う理由があるのかもしれない。  やがてキッドは決意する。軍師として戦場に舞い戻り、知略と魔法を尽くして、この小さな王女を救うことを。  だが、「紺の王国」は周囲を強大な国家に囲まれた小国。隣国「紫の王国」は侵略の機をうかがい、かつてキッドを追放した「緑の公国」は彼を取り戻そうと画策する。そして、最大の脅威は、圧倒的な軍事力を誇る「黒の帝国」。その影はすでに、紺の王国の目前に迫っていた。  絶望的な状況の中、キッドはかつて敵として刃を交えた伝説の女暗殺者、共に戦った誇り高き女騎士、そして王女ルルーの力を借りて、立ち向かう。  兵力差は歴然、それでも彼は諦めない。知力と魔法を武器に、わずかな希望を手繰り寄せていく。  これは、戦場を駆ける軍師と、彼を支える三人の女性たちが織りなす壮絶な戦記。  覇権を争う群雄割拠の世界で、仲間と共に生き抜く物語。  命を賭けた戦いの果てに、キッドが選ぶ未来とは――?

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...