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一章
第五話
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数日間降り続いた雨がようやく止み、森には木漏れ日が差し込んでいた。
しかし、地面は雨水をたっぷりと吸い込み、歩くたびに足首まで沈むような深い泥濘(ぬかるみ)と化している。
狼族の少年ルカは、自分の体よりも一回りも大きな背負い袋を担ぎ、泥に足を捕られそうになりながら、数メートル先を行くガストンたちの背中を必死に追っていた。
袋の中には、その日に仕留められた獲物から取り出したばかりの魔石や、剥ぎ取った鋭い牙、毛皮といった素材が詰め込まれている。泥濘を歩くたびに、袋の中で魔石同士が硬い音を立ててぶつかり、その重みがルカの肩に食い込んだ。
「ははは、よく働いたな、ルカ! 明日は俺達パーティーの旅立ちの日だ。奮発して母親の薬を買い、お前の取り分と一緒に家まで届けてやるよ。場所を教えてくれ」
ガストンが振り返り、快活な笑顔を見せた。その屈託のない表情に、ルカは疲れも忘れて目を輝かせた。
「本当ですか!? ありがとうございます! 西の長屋の一番奥です! 母さんも、妹のミーナも、きっと喜びます!」
ルカは家路を急いだ。
ガストンたちが「本物のヒーロー」であることを家族に証明できる喜びが、少年の胸を温かく満たしていた。自分を対等な働き手として扱い、家族まで気遣ってくれる。そんな彼らへの信頼は、ルカの中で確固たるものになっていた。
◇
一方、ガストンたちは街の酒場へ向かう足で、再び通りの鑑定店へと立ち寄った。
扉を押し開けると、冷えた空気と共に規則正しい音が響く。
――チリン。
天秤の皿が微かに触れ合う音。
――カチリ。
精密な機構が噛み合う、無機質で正確なしらべ。
整然と並ぶ蒸留水の水槽、細かく目盛りの刻まれた金属棒。その奥では、白いシャツの袖をまくり上げた店主――イチロウが、真剣な眼差しでレンズを覗き込んでいた。その手元では、ピンセットで固定された小さな破片が、窓からの光を反射して怪しく光っている。
その傍らには、街の喧騒を寄せ付けない気品をまとう女商人――イザベラが、静かに佇んでいた。
「いらっしゃい。おや、昨日の冒険者さんたちですね。ご無事の帰還、何よりです」
イチロウは顔を上げると、営業用の柔らかな笑みを浮かべた。ガストンたちはイザベラの放つ圧倒的な存在感に一瞬だけ威圧された様子を見せたが、ガストンはすぐに鼻を鳴らし、カウンターの上へずっしりと重い革袋を放り出した。
「景気がいいな、店主。昨日と同じく換金だ. 中身は保証するぜ、上等な獲物ばかりだ」
「はい、拝見します。……イザベラさん、少しお待たせしてしまいますが」
「構わない。後でいいわ」
イザベラの短い返事を聞くと、イチロウは手際よく袋の中身を広げた。中から現れたのは、数個の小指大の魔石と魔物素材である。
イチロウはそれらを一つずつ手に取り、寸法を測り、水槽に沈めて体積を出し、天秤で正確な重量を計測していった。その作業は、まるで儀式のように慎重で、かつ淀みがなかった。
「魔石は土属性と風属性。どれも結晶の構造が安定していますね。これなら市場でも高く評価されます。素材の方は、あまり買い取れるところはないでしょうが……うちで引き受けましょう」
イチロウは淡々と独り言を漏らしながら、手元の石板に細かな数値を書き込んでいく。ガストンはその様子を、退屈そうな顔で眺めていた。
「はい、鑑定完了です。本日の買い取り代金になります。どうぞ、ご確認ください」
イチロウは満面の笑みを浮かべ、磨き上げられた机に硬貨を並べてガストンに差し出した。硬貨を受け取り、ガストンは満足げに鼻を鳴らした。
「……ああ、それとお客さん。これ、袋の底に混ざっていましたが、傷が深すぎてうちじゃ買い取れません」
イチロウは、くすんだ色をした一つの魔石を差し出した。
「見てください、レンズを通すまでもなく内部構造がボロボロだ。もはや魔力を宿す力もなく、ただの石ころ同然ですよ。……そうだ、昨日のお手伝いの少年にでも、お土産にあげてはどうです? 彼ならこんな石でも、喜ぶでしょうしね」
イチロウは無造作に、むしろ親切心からの提案であるかのように、傷の入った魔石をガストンへ返した。
「けっ、シケたことを言いやがる。……まあいい、行くぞ」
ガストンは価値のない石を乱暴にポケットへ突っ込み、店を後にした。
◇
扉が閉まり、工房に元の静けさが戻ると、それまで黙って冒険者たちの背中を見送っていたイザベラが、重い口を開いた。
「あなたの言った通り……戦争の余波で、魔石は王都の商人に買い漁られ、鉄は価格が跳ね上がっているわ。私が各ギルドを抑えて供給ラインを一本化したことで、当面の混乱は防げているけれど。どう思う、イチロウ」
彼女は用意されていた椅子に深く腰掛け、本題を切り出した。
イチロウは鑑定用のレンズを柔らかな布で磨きながら、表情を変えずに応じる。
「俺はただの鑑定士ですよ。大きな商売の行方なんて分かりません。だけど、イザベラさんが動くたびに、この街の澱んだ空気が少しずつ軽くなるのは感じます。――お待たせしました、今日の分です」
イザベラは満足げに口角を上げると、優雅に立ち上がって整理された鑑定書を受け取った。
「お褒めに預かり光栄だわ。ああ、それと……」
彼女は去り際に、何かを思い出したように付け加えた。
「あの傭兵、やっぱり『黒』だったわ。おかげでいい商売ができそうよ。教えてくれてありがとう」
気配を消し控えていたスミレに視線で合図を送ると、イザベラは不敵な笑みを残し、凛とした足取りで工房を去った。
イザベラが去り、工房には再び元の静けさが戻った。イチロウは彼女の背中を追うことなく、手元のレンズを丁寧に布で拭い、再び天秤に向き合った。
「……損得じゃないんだよな。種を蒔くのは、ただの『決まり』みたいなものかも知れないよ」
誰に聞かせるでもなくそう呟くと、彼は強張った肩を小さく回した。
窓の外では、騒がしかった街が深い藍色に溶け始め、ひっそりと静かに眠りにつく準備を始めていた。
◇
翌朝。ルカの家の古びた扉が、暴虐な力によって叩き壊され、こじ開けられた。
乾いた木材の割れる音が、静かな朝の空気を残酷に切り裂く。
突然の破壊音に、ルカは慌てて入り口へと駆け寄った。その瞳に映ったのは、壊れ落ちた扉板を無造作に踏みつけ、土足で家の中へと踏み込んでくるガストンたちの姿だった。
「ガ、ガストンさん……?」
呆然と立ち尽くす少年を無視し、ガストンは悠然と歩みを進める。昨日までの快活な仮面は剥がれ落ち、その顔には獲物を追い詰めた猟犬のような、下卑た愉悦が張り付いていた。
縋り付こうとしたルカを、ガストンは大きな手の平で顔面ごと掴み、そのまま壁際へ容赦なく突き飛ばした。
「邪魔だ、どけ!」
その怒声を合図に、背後からパーティーの仲間たちが雪崩れ込んでくる。彼らは手慣れた様子で、寝床にいた病床の母と、怯える幼い妹のミーナを捕らえた。女たちの背中に膝を立て、乱暴に床へと組み伏せていく。
「何をするんだ! 説明してよ、ガストンさん!」
床に這いつくばるルカの必死の叫びに、ガストンは昨日鑑定士から「価値がない」と返された傷だらけの魔石を、嘲笑と共に投げ捨てた。
「ルカ、知ってるか? 魔物の魔石より、もっと価値のある魔石があるんだ。それは高レベルの魔物を倒すより、ずっと安全で、はるかに簡単に手に入る」
ガストンは腰のナイフを抜き放ち、その刃先をじろりと眺めた。
「ガストンさん、何を言ってるのか分からないよ!」
茫然とする少年に向けられたのは、物分かりの悪い家畜を蔑むような、冷酷な眼差しだった。
「分からないか。ここだよ、お前の心臓にある『石ころ』のことだ。 王都の酔狂な商人どもが、獣人の魔石を欲しがってるんだ。そんなもんのために金貨を何十枚も出すって言うんだから、笑いが止まらねえ」
ガストンは床に倒れ伏すルカの頬へ、ゆっくりとナイフを近づけた。冷たい刃が触れ、柔らかな皮膚にうっすらと赤い筋が刻まれる。
「ヒィィッ……」
少年の喉から悲鳴が漏れると、それを見た仲間たちは下卑た笑い声を上げた。
「……あんなに優しかったのは、全部、嘘だったの?」
震える声で紡がれたルカの呟きに、ガストンは今日一番の「笑顔」を浮かべて言い放った。
「演技だよ。じゃなきゃ、誰がお前みたいな小汚い獣に数日も付き合ってやるもんかよ。……いいカモだったぜ、家まで案内してくれてよ」
「あああああああああッ!」
ルカの絶叫が狭い小屋の中にこだまする。ガストンは絶望に染まった少年の瞳を覗き込み、満足げに頷くと、笑顔のまま仲間に合図を送った。
「やれ」
仲間たちが口角を吊り上げ、冷酷な手つきでナイフを振りかぶる。母とミーナの胸元へ刃を突き立てようとした、まさにその時だった。
コン、コン。
殺気に満ちた空間に、場違いなほど軽やかで、澄んだ音が響いた。
全員の動きが凍りつき、視線が壊された扉のすぐ横、柱を優雅に指先で叩いている人影に集中した。
「お邪魔するわ。少々、騒がしすぎるのではないかしら?」
そこに立っていたのは、鑑定店で見かけた金髪の女商人――イザベラだった。
彼女は血の匂いが漂い始めた惨状を、まるでありふれた日常の一風景であるかのように一瞥した。そして、泥にまみれて倒れ伏したルカに向かって、優雅な足取りで歩み寄った。
しかし、地面は雨水をたっぷりと吸い込み、歩くたびに足首まで沈むような深い泥濘(ぬかるみ)と化している。
狼族の少年ルカは、自分の体よりも一回りも大きな背負い袋を担ぎ、泥に足を捕られそうになりながら、数メートル先を行くガストンたちの背中を必死に追っていた。
袋の中には、その日に仕留められた獲物から取り出したばかりの魔石や、剥ぎ取った鋭い牙、毛皮といった素材が詰め込まれている。泥濘を歩くたびに、袋の中で魔石同士が硬い音を立ててぶつかり、その重みがルカの肩に食い込んだ。
「ははは、よく働いたな、ルカ! 明日は俺達パーティーの旅立ちの日だ。奮発して母親の薬を買い、お前の取り分と一緒に家まで届けてやるよ。場所を教えてくれ」
ガストンが振り返り、快活な笑顔を見せた。その屈託のない表情に、ルカは疲れも忘れて目を輝かせた。
「本当ですか!? ありがとうございます! 西の長屋の一番奥です! 母さんも、妹のミーナも、きっと喜びます!」
ルカは家路を急いだ。
ガストンたちが「本物のヒーロー」であることを家族に証明できる喜びが、少年の胸を温かく満たしていた。自分を対等な働き手として扱い、家族まで気遣ってくれる。そんな彼らへの信頼は、ルカの中で確固たるものになっていた。
◇
一方、ガストンたちは街の酒場へ向かう足で、再び通りの鑑定店へと立ち寄った。
扉を押し開けると、冷えた空気と共に規則正しい音が響く。
――チリン。
天秤の皿が微かに触れ合う音。
――カチリ。
精密な機構が噛み合う、無機質で正確なしらべ。
整然と並ぶ蒸留水の水槽、細かく目盛りの刻まれた金属棒。その奥では、白いシャツの袖をまくり上げた店主――イチロウが、真剣な眼差しでレンズを覗き込んでいた。その手元では、ピンセットで固定された小さな破片が、窓からの光を反射して怪しく光っている。
その傍らには、街の喧騒を寄せ付けない気品をまとう女商人――イザベラが、静かに佇んでいた。
「いらっしゃい。おや、昨日の冒険者さんたちですね。ご無事の帰還、何よりです」
イチロウは顔を上げると、営業用の柔らかな笑みを浮かべた。ガストンたちはイザベラの放つ圧倒的な存在感に一瞬だけ威圧された様子を見せたが、ガストンはすぐに鼻を鳴らし、カウンターの上へずっしりと重い革袋を放り出した。
「景気がいいな、店主。昨日と同じく換金だ. 中身は保証するぜ、上等な獲物ばかりだ」
「はい、拝見します。……イザベラさん、少しお待たせしてしまいますが」
「構わない。後でいいわ」
イザベラの短い返事を聞くと、イチロウは手際よく袋の中身を広げた。中から現れたのは、数個の小指大の魔石と魔物素材である。
イチロウはそれらを一つずつ手に取り、寸法を測り、水槽に沈めて体積を出し、天秤で正確な重量を計測していった。その作業は、まるで儀式のように慎重で、かつ淀みがなかった。
「魔石は土属性と風属性。どれも結晶の構造が安定していますね。これなら市場でも高く評価されます。素材の方は、あまり買い取れるところはないでしょうが……うちで引き受けましょう」
イチロウは淡々と独り言を漏らしながら、手元の石板に細かな数値を書き込んでいく。ガストンはその様子を、退屈そうな顔で眺めていた。
「はい、鑑定完了です。本日の買い取り代金になります。どうぞ、ご確認ください」
イチロウは満面の笑みを浮かべ、磨き上げられた机に硬貨を並べてガストンに差し出した。硬貨を受け取り、ガストンは満足げに鼻を鳴らした。
「……ああ、それとお客さん。これ、袋の底に混ざっていましたが、傷が深すぎてうちじゃ買い取れません」
イチロウは、くすんだ色をした一つの魔石を差し出した。
「見てください、レンズを通すまでもなく内部構造がボロボロだ。もはや魔力を宿す力もなく、ただの石ころ同然ですよ。……そうだ、昨日のお手伝いの少年にでも、お土産にあげてはどうです? 彼ならこんな石でも、喜ぶでしょうしね」
イチロウは無造作に、むしろ親切心からの提案であるかのように、傷の入った魔石をガストンへ返した。
「けっ、シケたことを言いやがる。……まあいい、行くぞ」
ガストンは価値のない石を乱暴にポケットへ突っ込み、店を後にした。
◇
扉が閉まり、工房に元の静けさが戻ると、それまで黙って冒険者たちの背中を見送っていたイザベラが、重い口を開いた。
「あなたの言った通り……戦争の余波で、魔石は王都の商人に買い漁られ、鉄は価格が跳ね上がっているわ。私が各ギルドを抑えて供給ラインを一本化したことで、当面の混乱は防げているけれど。どう思う、イチロウ」
彼女は用意されていた椅子に深く腰掛け、本題を切り出した。
イチロウは鑑定用のレンズを柔らかな布で磨きながら、表情を変えずに応じる。
「俺はただの鑑定士ですよ。大きな商売の行方なんて分かりません。だけど、イザベラさんが動くたびに、この街の澱んだ空気が少しずつ軽くなるのは感じます。――お待たせしました、今日の分です」
イザベラは満足げに口角を上げると、優雅に立ち上がって整理された鑑定書を受け取った。
「お褒めに預かり光栄だわ。ああ、それと……」
彼女は去り際に、何かを思い出したように付け加えた。
「あの傭兵、やっぱり『黒』だったわ。おかげでいい商売ができそうよ。教えてくれてありがとう」
気配を消し控えていたスミレに視線で合図を送ると、イザベラは不敵な笑みを残し、凛とした足取りで工房を去った。
イザベラが去り、工房には再び元の静けさが戻った。イチロウは彼女の背中を追うことなく、手元のレンズを丁寧に布で拭い、再び天秤に向き合った。
「……損得じゃないんだよな。種を蒔くのは、ただの『決まり』みたいなものかも知れないよ」
誰に聞かせるでもなくそう呟くと、彼は強張った肩を小さく回した。
窓の外では、騒がしかった街が深い藍色に溶け始め、ひっそりと静かに眠りにつく準備を始めていた。
◇
翌朝。ルカの家の古びた扉が、暴虐な力によって叩き壊され、こじ開けられた。
乾いた木材の割れる音が、静かな朝の空気を残酷に切り裂く。
突然の破壊音に、ルカは慌てて入り口へと駆け寄った。その瞳に映ったのは、壊れ落ちた扉板を無造作に踏みつけ、土足で家の中へと踏み込んでくるガストンたちの姿だった。
「ガ、ガストンさん……?」
呆然と立ち尽くす少年を無視し、ガストンは悠然と歩みを進める。昨日までの快活な仮面は剥がれ落ち、その顔には獲物を追い詰めた猟犬のような、下卑た愉悦が張り付いていた。
縋り付こうとしたルカを、ガストンは大きな手の平で顔面ごと掴み、そのまま壁際へ容赦なく突き飛ばした。
「邪魔だ、どけ!」
その怒声を合図に、背後からパーティーの仲間たちが雪崩れ込んでくる。彼らは手慣れた様子で、寝床にいた病床の母と、怯える幼い妹のミーナを捕らえた。女たちの背中に膝を立て、乱暴に床へと組み伏せていく。
「何をするんだ! 説明してよ、ガストンさん!」
床に這いつくばるルカの必死の叫びに、ガストンは昨日鑑定士から「価値がない」と返された傷だらけの魔石を、嘲笑と共に投げ捨てた。
「ルカ、知ってるか? 魔物の魔石より、もっと価値のある魔石があるんだ。それは高レベルの魔物を倒すより、ずっと安全で、はるかに簡単に手に入る」
ガストンは腰のナイフを抜き放ち、その刃先をじろりと眺めた。
「ガストンさん、何を言ってるのか分からないよ!」
茫然とする少年に向けられたのは、物分かりの悪い家畜を蔑むような、冷酷な眼差しだった。
「分からないか。ここだよ、お前の心臓にある『石ころ』のことだ。 王都の酔狂な商人どもが、獣人の魔石を欲しがってるんだ。そんなもんのために金貨を何十枚も出すって言うんだから、笑いが止まらねえ」
ガストンは床に倒れ伏すルカの頬へ、ゆっくりとナイフを近づけた。冷たい刃が触れ、柔らかな皮膚にうっすらと赤い筋が刻まれる。
「ヒィィッ……」
少年の喉から悲鳴が漏れると、それを見た仲間たちは下卑た笑い声を上げた。
「……あんなに優しかったのは、全部、嘘だったの?」
震える声で紡がれたルカの呟きに、ガストンは今日一番の「笑顔」を浮かべて言い放った。
「演技だよ。じゃなきゃ、誰がお前みたいな小汚い獣に数日も付き合ってやるもんかよ。……いいカモだったぜ、家まで案内してくれてよ」
「あああああああああッ!」
ルカの絶叫が狭い小屋の中にこだまする。ガストンは絶望に染まった少年の瞳を覗き込み、満足げに頷くと、笑顔のまま仲間に合図を送った。
「やれ」
仲間たちが口角を吊り上げ、冷酷な手つきでナイフを振りかぶる。母とミーナの胸元へ刃を突き立てようとした、まさにその時だった。
コン、コン。
殺気に満ちた空間に、場違いなほど軽やかで、澄んだ音が響いた。
全員の動きが凍りつき、視線が壊された扉のすぐ横、柱を優雅に指先で叩いている人影に集中した。
「お邪魔するわ。少々、騒がしすぎるのではないかしら?」
そこに立っていたのは、鑑定店で見かけた金髪の女商人――イザベラだった。
彼女は血の匂いが漂い始めた惨状を、まるでありふれた日常の一風景であるかのように一瞥した。そして、泥にまみれて倒れ伏したルカに向かって、優雅な足取りで歩み寄った。
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