異世界転移者の日常生活風−−戦乱を添えて

おたべ ひとり

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一章

閑話

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 窓の外は、突き抜けるような青空!

 お兄ちゃんは今日もお勉強に学校へ行っちゃったし、お母さんも食堂へお仕事。だから、今日はお家で一人でお留守番なんだ。

 でもね、ミーナの耳は、お外から聞こえてくる楽しそうな音をひとつも聞き逃さないんだよ。
 遠くで鳴る荷車の音、近所の子供たちの笑い声、それに楽しそうにさえずる鳥さんたちの歌声。

 ぴこぴこ。

 私の耳としっぽは、もうお外に行きたくて仕方がありません。

「……ちょっとだけなら、お散歩してもいいよねっ?」

 私はしっぽをご機嫌に揺らして、お家からお外へ思いっきりジャンプ!


 今日目指すのは、お兄ちゃんがいつもお仕事に行っている、大きなお屋敷。あそこに行けば、とっても綺麗なイザベラお姉さんや、すっかりお友達のスミレお姉ちゃんと遊べるもんね。

 道端に咲いてる青いお花を摘んだり、おもしろい形をした石ころを蹴っ飛ばしたり。水たまりを見つけたら、服が汚れちゃうのも怖がらずに思いっきり飛び越えちゃう。

 そんな楽しい道草をしながら、ようやく辿り着いた大きなお屋敷は、太陽の光をはね返してキラキラしてる。

 だけど、大きな扉から出てきたメイドのお姉さんは、困ったような顔をしてたんだ。

「あらあら、ミーナちゃん。残念だけど、イザベラ様とスミレちゃんはお仕事で出かけていて、今日はお留守なのよ」

「ええーっ、つまんないの……」

 しょんぼり垂れ下がった私の耳を見て、メイドさんは「これで元気を出して」と、包みをひとつ手渡してくれた。

 開けてみると、中にはほかほかと湯気が立つ、焼きたての菓子パンが二つ!

「わあ、ありがとう!」

 もらったパンを一口ぱくりと食べると、中にはとろーり甘いクリームが入ってて、幸せな味が口いっぱいに広がった。

「もう一つは、あとでお母さんと半分こして食べようっと」

 私は残りのパンを大事にカバンに詰め込んで、お母さんの働く食堂へ向かって歩き出したんだ。


「チッチッチッ、チィー!」

 ふと空を見上げたら、見たこともないくらい綺麗な鳥さんが飛んでた。羽が虹色にキラキラ光ってて、まるで宝石が空を飛んでるみたい。

「待って待ってー!」

 私は夢中でその鳥さんを追いかけて走った。
 生け垣をくぐり、細い路地を抜け、どんどん走っているうちに、気づけば周りは背の高い木々に囲まれた深い森の中。

 木漏れ日が地面をキラキラ照らしてて、とっても綺麗。
 飽きずにキラキラを見ていると、木々の葉っぱの間からかわいいしっぽが見えたんだ。

「ねえ、パン食べる?」

 私がパンの端っこを少しだけちぎって差し出すと、茂みの奥からシカさんの子供がひょっこり顔を出した。

「パクっ」

 おいしそうに食べてくれた! 
 私は嬉しくなって残りのパンも差し出すと、おいしそうな匂いに惹きつけられて、鳥さんたちやウサギさんも集まってきてくれた。

 みんなでパンを分け合って食べたら、森の動物たちはみんな私と仲良し!

 ふわふわの毛並みを触ったり、一緒に追いかけっこをしたりして、森の中は私たちの笑い声でいっぱいになったんだ。


 そんな時だった。
 少し奥から「ドスッ!」とか「ウワーッ!」っていう、なんだか騒がしい音が聞こえてきた。

「ん? なにかな?」

 私が木陰からこっそり覗いてみると、そこには白銀の鎧を着たおじさんがいた。

 おじさんは、牙をむき出しにした怖いワンちゃん――グレーハウンドと向き合っていた。

「はあっ、はあっ! この、すばしっこい奴め……! 貴様、私の一突きを、うっ、受けろー!」

 おじさんの突き出した剣はあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。必死に動いてるんだけど、ちっともワンちゃんに当たらない。

 それにおじさんが動くたびに、履いてるブーツの底が「パカパカッ」って面白い音を鳴らしている。

 そのリズミカルな音に合わせて、おじさんが右へ左へ飛び跳ねる姿を見て、私はすっかり勘違いしちゃったんだ。

「わあ、ダンスだ! おじさん、とっても上手だね!」

 私がひょっこり飛び出すと、戦っていたおじさんは飛び上がるほど驚いてた。

「だ、ダンスではないっ!? 私は今、高度な資源管理の予行演習を……って、おじさんと言うな! 私はまだ若い!」

 パカパカおじさんが叫んだその瞬間、私の後ろから別のワンちゃんが飛びかかってきた!

「食らえええいっ!」

 おじさんは私を庇うように前に飛び出し、目をつぶって必死な顔で剣をブンブン振り回した。

 ワンちゃんはおじさんの勢いにびっくりして、情けない声を上げながらどこかへ逃げていっちゃった。

「あはは! 面白い踊り! ミーナも混ぜてー!」

「踊りではないと言っているだろう! ええい、平民の子供が、ロンドベルクの血を引く私に気安く話しかけるな。……それから、おじさんではない!」

 口ではプンプン怒ってるおじさんだったけど、震える足でなんとか立ち上がると、私の手をぎゅっと引いて歩き出したんだ。

「いいか、森は危険なのだ。私が特別に、安全な街までエスコートしてやろう」

 なんだかんだ言いながら、私の歩く速さに合わせてゆっくり歩いてくれる。
 パカパカ鳴るブーツの音を聞きながら歩くのは、とっても楽しかった。


 ようやく街の真ん中にある、大きな噴水広場に着いたとき、ちょうどお昼の鐘が鳴った。

「さあ、ここならもう安全だ。さっさと親の元へ帰るがいい」

 おじさんはそう言ってフンッて鼻を鳴らしたけど、私は物足りなくて、おじさんのお洋服の裾をぎゅーって掴んだ。

「おじさん、待って! せっかく広場に着いたんだもん、さっきのダンスをミーナにも教えてよ!」

「断る! おじさんと言うな、お兄さんだ! それに私はこれから大事な調査があるのだ!」

 だけど、私が「やだやだー!」ってしっぽをパタパタ振って離さないでいたら、おじさんは大きくため息をついた。

「……やれやれ。仕方ない、一つ、本物の高貴な舞踏というものを教えてやろう」

 おじさんは急にシュッとして、背筋をピンと伸ばした。
 そして、とっても丁寧に右手を差し出すと、お芝居みたいにペコリと一礼したんだ。

「レディ、私と一曲、いかがかな?」

 私が嬉しくなってその手を取ると、近くにいた楽団の人たちが、私たちの様子を見て、素敵なワルツを演奏し始めてくれた。

 ボロボロのブーツをパカパカ鳴らす鎧姿のおじさんと、ふわふわの耳としっぽを揺らして笑う私。

 広場の真ん中で、二人は真剣にダンスを踊る。

 最初はバラバラだったステップも、音楽に合わせていくうちに、くるくる回って、ふわふわ跳ねて……。

 周りの人たちも足を止めて、二人のダンスに手拍子をしてくれた。
 太陽の光を浴びて、パカパカという音が不思議と音楽に混ざって、なんだか夢の中みたいにキラキラした時間だった。

 踊り終わると、おじさんは私の手の甲にチュッてして、キザっぽく決めた。

「ふっ……。君は、なかなか筋がいい。すでに立派なレディだな」

「えへへ、おじさん、ありがと! とっても楽しかった!」

「……だから、おじさんではない」


 おじさんが文句を言いながらも満足げな顔をした、その時。

 背後から、太陽の光さえ凍りつくような、すっごく冷たーい風が吹いてきたんだ。

「……とても子供がお好きなようね、エドワード様?」

「ん。通報案件。現行犯」

 おじさんが振り返ると、そこには無表情のイザベラお姉さんと、刀を半分抜いて今にも斬りかかりそうなスミレお姉ちゃんが立っていた。

 二人の目は、お掃除しても取れない頑固なゴミを見る時みたいな、冷たーい光が宿ってたよ。

「い、イザベラ殿!? スミレ殿!? これは違うのだ、これは高度な情操教育の一環であって、断じて怪しいことでは……ぎゃああああああ!」

 広場におじさんの情けない悲鳴が響き渡って、私はそれさえも新しいお歌みたいだと思って、楽しくて手を叩いちゃうのでした。
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