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1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 3-1

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 一日、一日があっという間に過ぎて行き、ついに二週間が経過した。
 アナベルを迎えに来たのは、母親からアナベルを引き離した騎士だった。怯えるように身体を震わせるアナベルを見て、ふいと顔を逸らして「これが金貨二十枚だ。では、少女は連れていく」とテーブルの上に金貨の入った袋を置いて、アナベルの手を強く握って家から出る。
 アナベルは必死に家族へと手を伸ばして抵抗しようとしたが、家族の誰もがアナベルに手を伸ばしてはくれなかった。ただただ、肩を震わせて泣いていた。

「ここからジョエルさまのところへは移動に時間が掛かる」

 騎士がそう言ってアナベルを無理矢理馬車へと押し込む。それから自分も乗り込み、御者へ合図を送ると馬車が動き出した。どんどんと遠ざかっている村を見て、アナベルは泣いた。声を大きくして泣いた。

「……悲しいか?」

 泣きじゃくるアナベルに対して、騎士がそう問いかける。
 アナベルは顔を隠して、こくんとうなずいた。

「……この世のすべては権力者のものだ。お前がジョエルさまの花嫁になるのは、ジョエルさまに気に入られたからだ。権力者に気に入られるっていうのは、面倒なことでもある。だがな……、生きたきゃ媚びるしかないんだよ。……だからお前も媚びろ、媚び続けろ。そうすることで、道が開かれるかもしれない」

 騎士はそう言ってやるせなさそうに目を伏せた。
 アナベルは泣きながら、騎士を見た。騎士の瞳に映る自分を見て、ぎゅっと両手を握る。

「……アナベルは、これからどうなるの……?」
「ジョエルさまの花嫁になる。……籍を入れるのはお前が結婚出来る年齢になってからだがな。婚約者ってことになるのだろう」
「……あんなおじさんのお嫁になるなんていやぁ……」
「……では、あの村は焼かれるな」

 淡々とした口調で騎士が続ける。

「お前はな、村を守るために売られたんだ。……恨むなら、その容姿で生まれた自分を恨め」

 ポロポロと、アナベルの目から大粒の涙が零れる。目元を擦って涙を拭き、睨むように騎士を見た。騎士はアナベルを見て、視線を逸らす。そして、黙ってしまった。
 すると、突然ガタン、と馬車が揺れた。

「きゃあっ!」
「……っと」

 バランスを崩したアナベルに騎士が手を伸ばす。そして、アナベルを守るようにひょいと抱き上げた。

「おい、どうした?」

 御者に話し掛けたが、返事が来ない。不審に思った騎士が御者の様子を見に馬車から降りると――魔物と睨み合っている姿が見えた。
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