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1章:踊り子 アナベル
踊り子 アナベル 7-2
しおりを挟む――アナベルが一座に加入してから十五年の月日が経った。その間に、様々な人が入り、抜けて、を繰り返した。そして、アナベルは昔自分を花嫁にしようとしていた貴族、ジョエルが何者かによって殺されていることを耳にしたり、北部の村が焼かれていた事件について耳にすることがあった。そのどれもが信憑性のないものだったが、アナベルはたくさんの噂を集めた。そのうちのどれかが、当たりであることを願って。
「アナベル、準備は良いか?」
「大丈夫よぉ、座長。あたしの準備はバッチリ!」
ウェーブがかったプラチナブロンドは艶があり、ポニーテールで緩やかにまとめられていた。アメジストの瞳は、見た者すべてを魅了しそうな輝きを発していた。ピンク色のグロスで色づけられた唇はぷるんとしていて、男性たちの視線を釘付けにするだろう。
すらりと伸びた手足、形の良い胸、丸くてきゅっと上がったお尻。――そのすべてが、アナベルの武器だ。
アナベルは剣を片手に歩き出す。
(見ていてね、ミシェルさん)
天を仰ぐように空へと顔を向けてから、アナベルは前を見据えて歩き出す。今日は、この街で最後のパフォーマンスだ。
ステージにアナベルが立つと、途端にヒューヒューと口笛が聞こえた。音楽が鳴り始め、アナベルはそっと剣を抜き、鞘を大きく空へと放つ。落ちて来る間にもステップを踏み、剣舞を披露する。あの日、ミシェルが見せてくれたように。
リズムに乗ってステップを踏み、剣を振るう。上空に放った鞘が剣に吸い込まれるようにぴたりと収まる。もう一度剣を抜いて、今度は鞘も握ったままステップを踏んだ。
音楽は過激さを増していく。それに合わせるようにアナベルの動きも大胆な動きになり、ステージを見ている人たちの欲望を煽るようだった。
最後まで踊りきり、大きく両手を広げてからすっと頭を下げる。
「アナベルちゃん、最高ーっ!」
「すっげぇセクシーだったよー!」
そんな声が投げかけられて、アナベルは自分の唇に人差し指と中指を当てたら、チュッ、と音を立ててキスを飛ばし、ウインクをした。
アナベルの剣舞はミシェルのものだ。ミシェルが一生懸命に教えてくれたもの。そして、アナベルがステージで演じる人物像も、ミシェルのものだ。
ミシェルは、アナベルが十五歳の頃に亡くなってしまった。元からあまり身体は丈夫ではなかったそうで、このまま旅を続けていたらいつ亡くなってもおかしくない、と街の医者に宣言されていた。
それでもミシェルは、旅を続けていた。一日でも長く、アナベルの傍にいたかったから。だが、無理が祟ったのか、途中で倒れてしまい、近くの町で看病をしたがそのまま亡くなった。
その時に、アナベルはミシェルの手を握って、何度もお礼と謝罪をしていた。
『謝らなくて良いのよぉ、アナベルちゃん……。これからは、あなたが一座のスターになってね。……でも、自分の身体は売っちゃダメよ。大切にしなさいね……。……そうね、出来れば初めては、素敵な人が良いわよねぇ……』
力なく笑うミシェルと、そう約束したのだ。
だから、アナベルは客に誘われても幻想の魔法を使って、その人の都合の良い夢を見せることで身体を売ることはなかった。
その後、座長からミシェルの過去を断片的に伝えられた。彼女はずっと、アナベルを守ってくれていたのだと知り、ミシェルの剣舞を広めようとアナベルは決意した。
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