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1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 15-1

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 次の日からアナベルはちらちらとエルヴィスを見るようになった。その様子を旅芸人の同じ踊り子であるアドリーヌがにんまりとした笑みを浮かべながら見ていた。

「アナベル」
「アドリーヌさん……」
「自分の直感、信じられそう?」

 アナベルはその言葉に、小さくうなずきを返した。アドリーヌはぎゅうっと彼女の腕に抱き着いた。そして、こてんとアナベルの頭に自分の頭をくっつけるように傾けて、「応援するわぁ」と小さく言葉にした。

「……ありがとう」
「うふふ、どういたしまして。忘れないでね、ここのみーんな、アナベルの味方だってこと」

 アドリーヌの言葉がじんわりと胸の中に広がる。アナベルはそっと目を伏せて、「うん」と嬉しそうに微笑んだ。そんな様子を見ていたクレマンが後ろから声を掛ける。

「腹が決まったか?」
「……そうねぇ、やれるだけ、やってみるよ」

 空を見上げて、アナベルは呟く。そして、迷いの消えた晴れ晴れとした表情を彼に向けた。

(……覚悟が決まったら決断早いのは相変わらずか)

 クレマンがそう考えていると、アドリーヌが「寂しくなるわぁ」と小さく息を吐いた。

「それじゃあ、歩きながらこれからのことについて話し合うか」
「これからのこと?」
「寵姫になる前に、貴族っぽく振る舞うことを覚えないといけないからな。王宮に入り、紹介の儀までの間に覚えることが多いぞ」

 アナベルはゾッとしたように身震いした。貴族っぽく振る舞うなんて、一度もしたことがない。

「なーに、大丈夫大丈夫。きちんと先生を用意してくれるだろうからな」
「先生?」
「陛下に味方してくれる人も、結構多いんだよ」

 エルヴィスの味方が本当に協力してくれるのだろうかと不安に感じつつも、自分で決めたことだからとアナベルはぎゅっと拳を握る。決意を宿した瞳を見て、アドリーヌはそっと彼女から離れてぽん、と肩を叩いた。

「舞を覚えた時のように覚えれば良いわよぉ。得意でしょ?」
「それは……まぁ……?」
「ま、良い先生に巡り合えたら良いな」

 そんな会話をしながら歩き、それを繰り返すこと数日。ついにティオールへ到着一日前となり、アナベルはエルヴィスに寵姫の件を話そうとした。彼の周りには護衛の騎士と、踊り子たちが居たが、アナベルに気付いたエルヴィスが彼女の元へと近付いた。

「……返事を聞かせてもらえるかい?」

 エルヴィスの瞳は自信半分、不安半分、のように見えた。アナベルはそっと彼の目を見つめて、自分の胸元に手を添えた。
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