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2章:寵姫になるために

寵姫になるために 3-1

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 アナベルは眉をぴくりと動かした。そして腕を組んでゆっくりと息を吐く。

「王妃サマは少女しかメイドにしないの?」

「ああ。イレインは年齢の割に肌に艶があり、憧れる人が多いんだ。王妃宮でのことは外部に漏らさないように徹底的しているからね」

 ダヴィドはそう言うとふと思い出したように顔を上げて、小さく肩をすくめた。

「自分の傍に置くのは、イレインよりも老けているように見えるメイドだけどね。あとは、若いけれど容姿はあまり良くない子。……どう考えても引き立て役だろうね」

 その状況を想像して、アナベルはため息を吐いた。
 自分よりも美しいものを徹底的に排除しているのかもしれない。

「君も狙われるよ、きっとね。王妃は君のように美しい寵姫ちょうきを自由にはさせないだろう」

 くつくつと喉を鳴らして笑うダヴィドに、エルヴィスが目元を細めた。そして、そっとアナベルの手を取り、きゅっと握る。
 まるでアナベルの不安を感じ取ったかのように。
 アナベルがエルヴィスへと顔を向けると、彼は小さくうなずいた。
 ――大丈夫だ、と言われた気がした。

「……受けて立とうじゃない。あたしだって、ただで転んだりしないわ」

 勝気に笑うアナベルに、ダヴィドが「うん、良い心意気だね」と力強く言う。

「とりあえず、現在はそのくらいかな。寵姫たち全員を亡き者にした後だから、おとなしめって感じ」

 メイド三人が亡くなったのが、おとなしめと聞いてアナベルはわかりやすくイヤそうな表情を浮かべた。

「……そうか。まつりごとは、どうなっていた?」
「それはもちろん、お前の右腕がなんとかしていたよ。どこで見つけたんだ、あんな子」
「王家の血筋を辿って辿って孤児院に送りつけられていたのを見つけた。確か、祖父の代の子だったはずだ」
「……それって、寵姫の子、だったってこと?」

 肯定するようにうなずくふたり。
 アナベルは小首を傾げた。

(寵姫の子を孤児院に……は、聞いたけれど、どうして探したのかしら?)

 アナベルが考え込むように口をきゅっとつぐむと、エルヴィスとダヴィドは視線を交わした。

「私よりも年上だったが、事情を説明したらついて来てくれた。どうやら、彼も絶対的な味方が欲しかったようだ」
「絶対的な、味方……」

 それは恐らく、アナベルにとってのクレマンたちのような存在だろう。

「そう。ダヴィドも私の絶対的な味方だ」
「俺は王妃が大っきらいだからね」

 にっこり。
 ダヴィドの笑みにアナベルは目を瞬かせた。
 言葉は確かにイレインへの憎しみを感じるような声色こわいろだったから、彼の言葉に嘘偽うそいつわりはないだろう。

「……どうして、と聞いても良いのかしら?」

 窺うようにダヴィドを見るアナベルに、ダヴィドは首を縦に動かした。
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