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5章:エピローグへの足音

エピローグへの足音 5-2

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「我らはもう、何にも手出しをしません。それでよろしいでしょう?」
「それを決めるのもダヴィドだな」

 エルヴィスは肩をすくめて息を吐く。

 実際にはダヴィドと話し合って、処遇を決める予定だが、娘――イレインと縁を切れば自分たちは助かる、という考え方が彼には気に入らなかった。

「……」

 忌々しそうにエルヴィスを睨みつけるイレインの両親に、彼はただ笑った。

 逃げるように去っていく両親を見たイレインは、呆然としていた。

「……なん、なのよ……!」

 イレインは力を失ったかのようにその場に座り込み、カタカタと震えている。そんな彼女の姿を見たエルヴィスもアナベルも、――なにも、感じなかった。

「お前と話すのはこれで最期だろう。――さようなら、イレイン」
「……」

 アナベルはちらりとエルヴィスを見た。彼はただ、冷たい視線でイレインを見ていた。その瞳に感情は一切なく、アナベルは彼の腕をぐいっと引っ張った。

「アナベル?」
「行きましょう、エルヴィス陛下。わたくしたちがここにいる理由なんて、ないでしょう?」
「……そうだな」

 そう言ってふたりは地下牢を後にした。

 アナベルが暮らしている宮殿に戻り、エルヴィスと共に少しの間、静かな時間を過ごそうと部屋に向かう。

「……エルヴィス陛下……」

 エルヴィスとアナベルはソファに座り、アナベルがぽんぽんと自分の膝を叩きながら彼の名を呼ぶ。

「顔色が悪いですわ。少し、休んでくださいませ」
「……ああ、そうだな。そうさせてもらおう……」

 アナベルの言葉に素直に従い、エルヴィスはアナベルの膝を枕にして眠りについた。

 彼の眠りを邪魔しないように、アナベルはそっと息を吐く。

(――終わった――……のよね……?)

 イレインのことを思い浮かべたアナベルは、緩やかに首を振る。まさか自分の両親に見捨てられるとは思わなかっただろう。

(これからどうしようかしら……)

 このままここで暮らすわけにはいかないだろう。

 ダヴィドが王になるということは、新たな寵姫ちょうきが呼ばれることになるだろうから。

(でも、せめて今だけは――……)

 エルヴィスを見つめて、起こさないようにそっと頬に触れる。すやすやと眠っているエルヴィスを見て、アナベルは小さく口角を上げた。

(あなたの隣にいたいのよ、エルヴィス……)

 たとえ離ればなれになる時が来たとしても。アナベルはそっと心の中で呟いて、自身の目を閉じた。

 これからのことを想像して、アナベルは自分がどうすれば良いのかを考え始めた。

 元の計画からはだいぶ離れてしまったが、イレインがやったことを思えば自業自得だろう。

廃妃はいひにするつもりだったのに、斬首刑になったものね……)

 恐ろしいほどに自分の美貌にばかり気にかけていたイレイン。その犠牲になった人たちを思い、アナベルは――どうか安らかに、と祈るしか出来なかった――……。
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