上 下
141 / 250
4章

4章16話(316話)

しおりを挟む

「それって普通のことなのですか?」

 ディアが困惑の表情を浮かべながらたずねる。それに答えたのはシー兄様だった。シー兄様はアル兄様を見て、それから肩に置いた手を離す。

「いや、普通のことではないかな」
「僕らには普通のことなんだけどね……」

 肩をすくめるアル兄様に、私たちはそれぞれ顔を見合わせて曖昧あいまいに微笑んだ。

 そして、それから三十分もしないうちにヴィニー殿下が戻ってきた。

 ――ジュリーと一緒に。

 ジュリーは私たちを見て、びくりと肩を震わせる。……以前のような自信に満ち溢れている姿ではなく、やせ細ってガリガリになっていた。

「念のため伝えておくけど、……マザー・シャドウの洗脳は解けているよ」

 ヴィニー殿下が静かにそう言った。彼のジュリーを見る瞳に、同情の色が見て取れた。塔に閉じ込められて以来、会うことのなかった異母妹は、すっかりと変わったようだった。

「ジュリー……なの……?」

 本当にジュリーなの……? と思わず驚いたような声が出た。彼女は私を見て、「……お姉様……」と、力なく呟く。耳に届いたその声は、確かにジュリーのもので……、別人のようになった彼女を見て、心底驚いた。

「よく塔から連れ出せたね」

 アル兄様がヴィニー殿下に近付きながら声を掛ける。確かに、あれから三十分も経っていないのによくここまで……と考えていると、ヴィニー殿下は右手を腰に当てて、左手の人差し指を立てた。

「国が滅ぶかもしれないって説得したよ」
「それは……ヴィーが言ったら効果的だろうね……」

 国が滅ぶ未来を視た、とヴィニー殿下が言えば説得力があるわね。国を滅ぼすか、守るかの二択で、陛下は守るほうを選んだ。

「ジュリー嬢は、ある日から憑き物が落ちたかのようにこうなったみたいだよ。……まぁ、絶対あの日からだと思うけど」

 ヴィニー殿下の言う『あの日』は、きっと私が――いいえ、月の女神がマザー・シャドウの魂を蒼い炎で包んだ日のことを指しているだろう。あの日から、アカデミーに満ちていたマザー・シャドウの魔力も消え去ったから……、恐らく、ジュリーが影響を受けていた彼女の魔力も消えたのだろう。

 そして、洗脳が解けたことにより、自身がなにをやっていたのかを自覚して、放心状態になっていた可能性が強い。

 そう思考を巡らせていると、扉がノックされた。

「どうぞ」

 私の返事を聞いてから、扉が開いた。ブランドン様とアミーリア様が入って来た。広めの部屋とはいえ、ここまで人数が多いと狭く感じるものね……と頬を掻いた。

「勢ぞろいだな、みんな」
「ごきげんよう。いい天気ね」

 私たちの顔をそれぞれ見ながら、アミーリア様が笑顔で挨拶をした。私たちも挨拶をすると、アミーリア様はジュリーを見て、近付いた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:562pt お気に入り:152

シート無双な魔法使いの嫁になりました。

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:35

悪役は静かに退場したい

BL / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:5,343

モブの俺が巻き込まれた乙女ゲームはBL仕様になっていた!

BL / 連載中 24h.ポイント:1,157pt お気に入り:7,752

浮気は許しません、旦那様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,165pt お気に入り:48

オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

BL / 連載中 24h.ポイント:4,055pt お気に入り:517

婚約は失敗しましたが幸せになれました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:75

可哀想な私が好き

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,041pt お気に入り:533

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。