6 / 10
6話
ノイマイヤー侯爵夫人はそう言うと、お茶を飲んで立ち上がった。
「わざわざ来てもらって悪いのだけれど、まだ仕事が残っていて……後は若いお二人で、ね?」
悪戯が成功したように微笑むノイマイヤー侯爵夫人に、私とライナルト様は顔を見合わせて――もしかして、それが狙いだったのでは……? と考えてしまった。侯爵夫人は忙しい方なのに、わざわざ時間を作ってくださったことには感謝しているけれど……。
「……少し、歩くか?」
「そ、そうですね!」
残された私とライナルト様は、ライナルト様に屋敷の中を案内してもらった。挨拶に来た時には応接間で話したから……。まだ、夢なんじゃないかって思っているけれど……実感がわかない。本当に。
「……大きなお屋敷ですね」
「タウンハウスだからそうでもない。領地の屋敷のほうが大きい」
「……え」
さ、さすが侯爵家……。
「シーズン中だからタウンハウスに居たが……、そう考えると君のプロポーズは丁度良いタイミングだった」
「忘れてくださいっ」
今でも謎なのよ、お友達になってくださいが夫になってくださいになったことが! 思い出すだけで顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
ライナルト様はその時のことを思い出し、肩を震わせていた。……ライナルト様、案外笑うわよね。……うん、彼のことを知っていくのは嬉しい。
陰からこっそり、というわけではないけれど(なにしろ会わない)、殿下の護衛として働いているところを見ていた。
「レオノーレ、こちらへ」
「は、はいっ」
名前で呼ばれてどきりとした。ドキドキと心臓の鼓動が早くなる。婚約を認められた瞬間から、私のことを名前で呼ぶようになった。婚約者に対して親しみを込めて、と言われては……。
「……手を」
「は、はいっ」
すっと手を差し出されて、私は手を重ねた。分厚いライナルト様の手。剣を握って出来たタコが潰れて、厚くなる。それが積み重なったライナルト様の手。きゅっと握られて、さらに胸がドキドキする。
「たぶん、この屋敷の中で一番君が気に入る場所だ」
「え?」
ライナルト様にそう言われて、私は首を傾げた。
彼が案内してくれたのは――薬草畑だった。
「こ、これは……!」
「タウンハウスでも作っているんだ。ノイマイヤーの特産品でもある」
「素晴らしいですわ! ああ、なんて立派な薬草……!」
「……やっぱり喜んだ」
質のいい薬を作るには、質のいい薬草を見極める必要がある。こんなに質のいい薬草を栽培出来るなんて……! さすがはノイマイヤー侯爵家! うちでも栽培しているけれど、中々こんなに良い薬草は作れない……。
「結婚したら、ここの薬草は好きに使っていい」
「えっ!?」
「領地でも作っているし、ここのはほんの一部だからな」
……こ、これでほんの一部……。……なんかもう、さすがとしか言えない……。
「……そんなことを言って、私がこの薬草を悪用したらどうするんですか」
「君はそんなことしないだろう?」
当たり前のように言われて驚いた。私が目を瞬かせていると、ライナルト様は「気に入ったか?」と尋ねてきたので、私は満面の笑みを浮かべて、
「もちろん!」
と大きな声で返事をした。
「わざわざ来てもらって悪いのだけれど、まだ仕事が残っていて……後は若いお二人で、ね?」
悪戯が成功したように微笑むノイマイヤー侯爵夫人に、私とライナルト様は顔を見合わせて――もしかして、それが狙いだったのでは……? と考えてしまった。侯爵夫人は忙しい方なのに、わざわざ時間を作ってくださったことには感謝しているけれど……。
「……少し、歩くか?」
「そ、そうですね!」
残された私とライナルト様は、ライナルト様に屋敷の中を案内してもらった。挨拶に来た時には応接間で話したから……。まだ、夢なんじゃないかって思っているけれど……実感がわかない。本当に。
「……大きなお屋敷ですね」
「タウンハウスだからそうでもない。領地の屋敷のほうが大きい」
「……え」
さ、さすが侯爵家……。
「シーズン中だからタウンハウスに居たが……、そう考えると君のプロポーズは丁度良いタイミングだった」
「忘れてくださいっ」
今でも謎なのよ、お友達になってくださいが夫になってくださいになったことが! 思い出すだけで顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
ライナルト様はその時のことを思い出し、肩を震わせていた。……ライナルト様、案外笑うわよね。……うん、彼のことを知っていくのは嬉しい。
陰からこっそり、というわけではないけれど(なにしろ会わない)、殿下の護衛として働いているところを見ていた。
「レオノーレ、こちらへ」
「は、はいっ」
名前で呼ばれてどきりとした。ドキドキと心臓の鼓動が早くなる。婚約を認められた瞬間から、私のことを名前で呼ぶようになった。婚約者に対して親しみを込めて、と言われては……。
「……手を」
「は、はいっ」
すっと手を差し出されて、私は手を重ねた。分厚いライナルト様の手。剣を握って出来たタコが潰れて、厚くなる。それが積み重なったライナルト様の手。きゅっと握られて、さらに胸がドキドキする。
「たぶん、この屋敷の中で一番君が気に入る場所だ」
「え?」
ライナルト様にそう言われて、私は首を傾げた。
彼が案内してくれたのは――薬草畑だった。
「こ、これは……!」
「タウンハウスでも作っているんだ。ノイマイヤーの特産品でもある」
「素晴らしいですわ! ああ、なんて立派な薬草……!」
「……やっぱり喜んだ」
質のいい薬を作るには、質のいい薬草を見極める必要がある。こんなに質のいい薬草を栽培出来るなんて……! さすがはノイマイヤー侯爵家! うちでも栽培しているけれど、中々こんなに良い薬草は作れない……。
「結婚したら、ここの薬草は好きに使っていい」
「えっ!?」
「領地でも作っているし、ここのはほんの一部だからな」
……こ、これでほんの一部……。……なんかもう、さすがとしか言えない……。
「……そんなことを言って、私がこの薬草を悪用したらどうするんですか」
「君はそんなことしないだろう?」
当たり前のように言われて驚いた。私が目を瞬かせていると、ライナルト様は「気に入ったか?」と尋ねてきたので、私は満面の笑みを浮かべて、
「もちろん!」
と大きな声で返事をした。
あなたにおすすめの小説
婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。
黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。
差出人は幼馴染。
手紙には絶縁状と書かれている。
手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。
いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。
そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……?
そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。
しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。
どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。
幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね
りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。
皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。
そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。
もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら
心を失った彼女は、もう婚約者を見ない
基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。
寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。
「こりゃあすごい」
解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。
「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」
王太子には思い当たる節はない。
相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。
「こりゃあ対価は大きいよ?」
金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。
「なら、その娘の心を対価にどうだい」
魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。
婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。
待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。
そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。