BUDDY-0-

TERRA

文字の大きさ
34 / 75
BUDDY-0-MONSTER

10

しおりを挟む
砂漠に沈んだ街の名を、今も忘れられない。

廃棄区域M-7。通称『ゴーストタウン』
命令書には、そう冷たく記されていた。
敵性生物の発生と、機密資材の回収任務。
地図上では点にすぎないその座標に、キメラ部隊が送り込まれた。

当時のリカルドは、まだ十代だった。
指示された目標に従い、殺せと言われたものを殺すだけの、戦闘生命体。
軍服を着てはいたが、兵士とは呼べなかった。
理性の仮面をかぶせられた、ただの猛獣。
仲間たちも、みな似たような存在だった。
獣の力と軍の命令を刻まれた、使い捨ての兵器たち。

「……警戒しろ。」
先行していたネイトが、狼の耳を動かした。
空気の震えを読むように目を細める。

「どうせまたモドキの巣だろ。燃やして終わりだ。」
トッドがランチャーを背負い、肩を鳴らした。
巨大な体躯に似合わぬ軽口は、いつもの癖だった。

だが、街の中心に足を踏み入れたその瞬間、空気が変わった。
風が止まり、音が消えた。

気づいた時には、トッドの上半身が吹き飛んでいた。
血飛沫が噴き上がる。
視界が赤く染まる。

「敵襲ッ!散開しろッ!」
叫ぶ前に、既に地獄が始まっていた。
暗闇の中から現れたのは、異形のキメラ。
骨と鉄を無理に編んだような外殻。
無数にねじれた脚。
叫びをあげるたび、触手のような腕が地面を引き裂き、仲間を串刺しにしてゆく。

リカルドも叫んだ。
喉が潰れるまで吠え、銃を乱射し、ナイフで肉を裂いた。
「死ねッ、死ねッ、死ねよッ!!」

だが敵は再生した。
撃ち抜いたはずの頭部が、粘膜のように再構成される。
あれはもはや、生物ではなかった。
人間が創り、人間が捨てた何か。
旧時代の闇が、街の底から這い上がってきたのだ。

一人、また一人と倒れていく。
ネイトの胴がねじられて引き千切れ、隊長の首がねじ落とされる。

「……また、使い捨て……かよ……。」
最期に目が合ったのは、幼さの残るチャーリー。
自分の名前すら知らぬまま育った彼の瞳に映るのは、恐怖ではなかった。
絶望でも、憤怒でもない。
空虚だった。
生まれてはいけなかったものが、死んでゆくという静かな諦念。
リカルドは咄嗟に彼の胸にナイフを突き立ててから、声にならない悲鳴を上げた。

気づけば、自分以外の全員が死んでいた。
通信は切断され、上空の衛星は応答しなかった。
ここは捨てられた。
最初から、救援などなかった。

誰も来ないと知った時、リカルドは死体に火をつけた。
匂いを嗅ぎつける異形が来る前に全員を焼却し、自分の腕を味方の銃で撃ち抜いて、血と骨の中から這い出した。

それが、キメラ部隊の最期だった。

「……また、あの夢か。」

リカルドはまぶたの裏に残る熱を振り払い、額に浮いた汗を指で拭った。
暗闇の中で、ジェレミーの寝息だけが静かに流れている。

十年前。
仲間は全員殺され、自分だけが生き残った。
何故だ?何故あの時、自分だけが。

報告はしなかった。
身分も捨てた。
軍に戻る理由も、名乗る意味も、すべて棄てた。
公式記録には「作戦中死亡」。
実際には、ひとりの獣だけが、屍の山を踏み越えて逃げ延びた。

名もない荒野を彷徨い、ただ息をつなぐように生き延びてきた。
その手で殺した仲間の夢を、夜毎に見ながら。

しかし今、隣にある命だけは、失いたくないと思った。
あのときのような地獄に、もう二度と誰も送らせはしない。

リカルドは静かに腕を伸ばし、眠るジェレミーの髪に触れた。
そっと、落ち着くように撫でる。

彼の耳はふにゃりと力を抜き、喉から甘い寝息が漏れた。

……この温もりの意味を、あの頃の自分は知らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...