黄泉ノ彼岸葬儀店

TERRA

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EP.2Memoria et Tea記憶と紅茶

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世界が弾けた。  

嵐のような雨が一瞬にして霧散し、激しく揺れる地面の感触が消え去った。  

暗闇の中に吸い込まれるような感覚の後……突如、静寂が訪れた。  

棺は息を詰まらせたまま、固く目を閉じていた。  
鼓動がまだ速い。  

ゆっくりと、瞼を開く。  
先ほどまでの裏山は消え、目の前に広がっていたのは、薄暗い和室だった。  

夕暮れの光が障子越しに淡く染み込み、部屋の隅では線香の香りが漂っていた。  

黄泉が棺の上に倒れ込む形で、微動だにしない。  

「……ん?」  
棺は一瞬、状況を把握できず、思わず黄泉を見上げた。  

「黄泉……重いって。」  

しかし返事はない。  

「おい、黄泉?」  
棺は黄泉を揺さぶる。  

次の瞬間。棺の視界に衝撃的なものが映った。  

黄泉の背中に、杭のような大きな木片が突き刺さっている。  

「はっ……!」  
棺の呼吸が止まる。  

全身が凍りついたように硬直し、慌てて黄泉の身体を抱き起こそうとする。  

「ちょっと待って!今……医者に連れて行くからっ!いや、それより救急車……!」  
完全に動揺し、棺は慌ただしく視線を泳がせた。  

しかし。

「ん?……あぁ。」  
黄泉はあくびをするように目を開き、肩を回した。  

そして次の瞬間。  
何の躊躇もなく、背中の杭をゆっくりと引き抜いた。  

「うわぁあーーーーーーっ!!」  
棺はコミカルなほどオーバーリアクションで叫びながら、飛び跳ねるように黄泉を見つめた。  

「ダメダメダメっ!抜いたら出血多量で――」  

その時。  

棺は違和感に気づいた。  

畳の上にぼたぼたと鮮血がしたたり落ちている。  
しかし、黄泉の背中には傷一つない。  

スーツにも血の跡はなく、まるで何もなかったかのように、彼はただそこにいた。  

「……黄泉?」  
棺は目の前の光景が信じられず、絶句する。  

黄泉は無言で人差し指を鼻先に当てる。  
「シー。」  

その瞬間。

遠くから、すすり泣く声が聞こえてきた。  

棺は息をのむ。  
視線を向けると……。

そこには、妊娠中の若い女性がいた。  
震える手でロープを握り、今にも首をくくろうとしている。  

「ダメだっ……!」  
棺は考える間もなく、反射的に飛び出した。  

ロープを掴む。  

女性のバランスが崩れ、床へと倒れる。  

その瞬間、棺は違和感を覚えた。  

彼女は、まるで二人の存在に気づいていないかのようだった。  

床に座り込んだ女性は咳き込みながら、震える手を自身の膨らんだ腹へと伸ばした。  
そして、涙を零しながら、静かに撫でる。  

棺の視線が仏壇へと向かった。  

そこには真新しい写真と遺骨。  
まだ若い男の遺影。  

この女性の夫。  
産まれてくる子の顔を見ることなく、先に逝ってしまった男。  

黄泉は無造作にタイムカプセルを抱えたまま、写真を見つめる。  

「初恋の人……か。」  

黄泉がぼそっと呟く。  

棺はハッとして、再び女性へ目を向けた。  

今の自分がしたこと。
これは、過去への干渉なのではないか?  

棺は全身の血が冷えるような感覚に陥る。  
「俺……過去に、干渉した……?」  

黄泉は棺を見つめ、肩をすくめた。  
「さっさとコレ、届けに行こうぜ。」  

まるで何もなかったかのように、いつもの調子で棺の肩を叩く。  

棺は自分の手を見つめる。  
いま救ったはずの命に……これから何が起こるのかを考えながら。  
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