黄泉ノ彼岸葬儀店

EP.5闇の書Scriptum Tenebris

8

葬儀店のラウンジには、静かな夜が流れていた。  
黄泉はソファの背もたれに寄りかかり、指先で軽くグラスを揺らしている。  

棺はカウンターに腰を下ろし、じっと窓の外を眺めていた。  

テレビのニュースが、政治家の不祥事を伝えている。  

『現職政治家・墨川権三郎の悪行が次々と暴かれ……』
『過去の疑惑に関する証拠が新たに提出され……』
『これまで隠されていた裏取引の詳細が』

画面には彼の顔写真が映っている。  
だが、その顔はすでに過去のものだった。  


棺はふと、手元の書類に視線を落としながら問いかける。  
「ねぇ、黄泉。」  

黄泉は軽く眉を上げる。  
「ん？」  

棺は窓の外を見ながら、ぼんやりと呟いた。  
「彼岸に渡れなかった魂って……どうなるの？」  

黄泉はグラスを置き、指先で軽く回しながら答える。  
「送れなかった奴は、その場に留まることもあるし、無になることもある。」  

「それに……悪霊になる奴もな。」  

棺は視線を落としながら、少し考える。  
「つまり、どんな形であれ……渡れない場合はこの世に残るってこと？」  

黄泉は軽く鼻で笑う。  
「ま、それを決めるのは俺たちじゃない。水先案内人は選択肢を提示して、正しい方向へ導くだけ。」  

棺は静かに頷き、グラスを指でなぞった。  
「……そっか。」  

テレビのニュースはまだ続いている。  

しかし、彼らは次に迎える魂へと、思考を移していた。