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Day.1
3
しおりを挟むコンビニの駐車場に車を停めると、店の明かりが夜の静けさを切り裂いた。
雨上がりの空気はまだ少し湿り気を帯びており、路面には水溜まりが点々と残っている。
ヘッドライトの光がそれをぼんやりと反射し、車のボディにも淡い輝きを映していた。
自動ドアが開くたびに、冷たい蛍光灯の光が漏れ出す。
駐車場の奥には、トラックが一台止まっていて、運転席の男が缶コーヒーを片手に何かを考え込んでいる。
「食べたいものある?」
青年は車を降りる前に、ふと問いかけた。
少年は助手席で少し考え込む。
「……うーん、おにぎりとか?」
「そっか。」
青年の言葉はあっさりしていた。
少年は少し驚いたように目を向けたが、すぐに何でもないように車を降りる。
店内の冷たい空気が肌に触れた瞬間、青年は少し肩をすくめた。
雨上がりの外とは対照的に、コンビニの室内は乾燥しすぎていて、どこか人工的な匂いがした。
棚には弁当やパン、菓子が並び、レジ付近では温かい飲み物の香りが漂っている。
少年はすぐに商品を選び、手際よくおにぎりと飲み物を取った。
「お兄ちゃんは?」
「えっと……。」
青年は棚を眺める。
少し迷うように手を伸ばし、包装されたサンドイッチを手に取る。
「それでいい?」
「うん。」
そのまま二人はレジへ向かう。
少年が商品を置こうとした瞬間、青年がさっと手を伸ばして自分の方へ引き寄せた。
「あっ……俺が払うよ。」
少年は少し驚いたように手を止めた。
「えっ、いいの?」
「うん。おごり。」
青年はポケットからくしゃくしゃの千円札を取り出す。
その紙幣は少し湿気を含んでいて、端がわずかに折れ曲がっている。
レジの店員が無言で受け取り、淡々と会計を済ませる。
袋に商品を詰める手つきは慣れていて、無駄な動きがない。
「クーポンなどは……。」
「あ、ないです。」
青年は店員の問いを遮るように返し、袋を受け取る。
少年はその様子をじっと見ていたが、それ以上は何も言わなかった。
ただ、袋を軽く揺らして車へと戻っていった。
外気は少し冷え始めていた。
遠くに見える街灯の光はぼんやりとしていて、湿ったアスファルトの上に歪んだ影を落としている。
車のドアを閉めると、ふたりは再び静かな空間に包まれた。
「……ねぇ。」
少年がふと口を開く。
「ん?」
「お兄ちゃんって、優しいね。」
青年はわずかに瞬きをし、それから視線を前へ戻す。
「……そうかな。」
エンジンが再び低く唸る。
雨上がりの匂いはまだ微かに残っている。
どこへ向かうのかもわからないまま、旅は続いていく。
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