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Night & Day
1
しおりを挟む朝の空気は静かだった。
まだ慣れない部屋。
家具は揃っているのに、どこか空間が落ち着かない。
先嶺はキッチンのカウンターの前に立ち、ぼんやりとマグカップを指先でなぞっていた。
新しい生活。
男性との同居。
それが「恋人としての時間」であることに、まだ実感が持てない。
「コーヒー、飲みます?」
ふいに後藤の声が響く。
スウェットの裾を軽くまくり、ポットから細く湯を注ぐその仕草は妙に自然だった。
「……うん。」
何気なく答える。
けれど、言葉を発した瞬間、胸の奥が妙にざわついた。
マグカップが目の前に置かれる。
温かな湯気が立ち上がり、柔らかな香りが広がる。
先嶺はゆっくりと手を伸ばし、カップを持ち上げようとした。
その時。
後藤の指先が、ほんの一瞬、先嶺の手の甲に触れる。
たったそれだけのことなのに、思わず動きを止めてしまう。
「……あ、ごめん。」
先嶺は小さく言う。
けれど、声が僅かに掠れていたのが自分でも分かった。
後藤は何も気にした様子もなく、軽く微笑む。
「大丈夫っすよ。」
その柔らかい声が、妙に耳に残る。
カップを持ち上げ、一口飲む。
けれど、コーヒーの温度がどこか遠くに感じられた。
「これが、恋人の生活なのか?」
ふとそんなことを考える。
まだ、この関係に馴染めていない。
けれど、それを後藤は何も言わず、ただ自然に「二人の日常」として過ごしている。
そのことに、胸の奥で微かな熱が広がる。
そして先嶺は、初めて少しだけ目を伏せた。
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