9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん

文字の大きさ
20 / 81
にしょう!

しおりを挟む
「とにかく、夢のお告げによれば『脅威』は社交界に現れるらしい。夢の中で脅威にとらわれた俺は何度も助けを呼ぶのだが、その声は誰にも届かなかった。しかし、今の俺はひと味違う。脅威に真っ向勝負を挑み、必ずや打ち勝って見せる……!」

 マクシミリアンの体を取り囲む暑苦しい闘気のオーラを見ながら、アリーは再び「聖女ミア逃げて、超逃げて!」と思わずにはいられなかった。
 しかし彼らが見ている夢の内容は、ずいぶんふんわりしているらしい──そんな風に思っていると、マクシミリアンがぎゅんっと首を巡らせてアリーを見た。

「アリーがいてくれて助かった。久しぶりに社交界に出ようにも、俺にはエスコートすべき婚約者がいない。母上の言う通りに 淑女レディの相手などしていては、脅威に立ち向かえないからな」

「え? は? わたしが殿下のお相手として社交界に出るんですか? わたしが一介の男爵令嬢だって、ちゃんとわかってます?」

「大丈夫だ、アリー。女ながらにその筋肉、なかなか見どころがある。お前なら、しっかり演じきれるだろう」

「すべての価値観を筋肉で統一するのやめて頂けます?」

 アリーは超高速で首を横に振りながら、胸の前でバッテンを作った。王太子が男爵令嬢をエスコート──そんなの、前代未聞にもほどがある。あの権威が大好きな王妃ベルフィアがそれを許すとは、到底思えない。

「それなら来月からスタートする社交シーズンの前に、超特急で誰かと婚約したらいいじゃないですか。王太子なんですから、小さな頃から見合いの話は矢のようにあったでしょうに。側近の皆様はちゃんと婚約しているのに、殿下はどうしてしなかったんですか?」

「そうだな。まあひとつには、俺の眼鏡にかなう女がいなかったということだ」

「またえらい上からだなあオイ」

「何か言ったか?」

「いえ何も~おほほほほほほ~」

 マクシミリアンにねめつけられて、アリーは慌ててごまかした。

「だが最大の理由は、やはり夢だ。繰り返し見る夢の中に、信じられないほどの美女が出てくる。俺は、その娘を泣かせてばかりだった……」

 一瞬遠くを見た後、マクシミリアンはアリーの目を真っすぐに見つめて微笑んだ。

「夢の娘はどことなく、アリーに似ている」

 アリーはぐっと息を呑んだ。今のはさすがに胸に突き刺さった。心の中で「似てないし……」と泣き笑いしてしまう。
 流れる水のように波打つ金の髪、澄み渡った空のような青い瞳、 磁器人形ビスクドールのように愛らしい顔立ち──今のアリーは、もう何ひとつ持っていない。
 あるものと言えば男爵令嬢という中途半端な身分と、病弱な弟とちょっと頼りない両親、狭くて貧弱な農地とそこに生きる領民たちに対する責任だけ。

<いやまてまて、センチメンタルになってどうする。それでいいんだって、もう関わり合いにならなくていいんだって>

 アリーが両手で自分のほっぺを叩いた瞬間、成り上がりスティーブンが「そういえば」と声を上げた。

「殿下、今日は王妃様が高位貴族の御婦人方を集めて、中央で音楽会を催す予定とか。おそらく、殿下の婚約者に相応しい娘がいないか、母親世代にヒアリングするつもりなのでしょう」

「母上め……。今の俺には、そのような暇はないと言っておいたというのに。スティーブン、魔法を使って 間諜スパイを放っておけ」

「御意」

 あ、やっぱ今でもその役目はスティーブンなんだ、と思いながらアリーは姿勢を整えた。
 魔法というものは血筋に宿り、貴族の特権と言ってもいい。とはいえ過去9回までの前世では、モヤシ集団すぎて魔法が不得手だった彼らが、どれほど成長したかはちゃんと見ておきたい。
 さていったいどんな詠唱で、何属性の魔法を使うのか──とワクワクしていたら、ちょっと空いたスペースまで移動したスティーブンが大股を開いて腰をぐっと落とした。そして左手を引き、右手を真っすぐ突き出す。

「ぬううううんっ!」

「いや待って待って、その魔法の発動方法絶対に間違ってるから!」

 アリーは立ち上がって叫んだ。男たちの血走った瞳が、一斉にアリーをとらえる。

「そうなのか? 俺たちは魔法が発動できるまで、この『正拳突き』をひたすら繰り返しているんだが……。もしやアリーには、高位貴族並みの行儀作法だけではなく、魔法の才能まであるというのかっ!?」

 マクシミリアンが少し呆然とした口調で言った。
 スティラがこてんと首をかしげて「そうだよー」と微笑んだ。

「アリーの魔法はすごいんだよ。お水でも土でも火でも、何でも自由自在に操れちゃうの」

 ニコニコしながらお菓子をほおばっているスティラに大物感を感じつつ、アリーはぺしんと己の額を叩いた。ここのところの忙しさにかまけて、口止めするのをすっかり忘れていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

処理中です...