『魔女のお姫様 ~数百年の孤独を埋めるのは、私が育てた「世界一可愛い女王陛下」だけでした~』

額田ハル

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第一章:魔女と幼き姫の邂逅・育成編

第4話「はじめての『私の姫』」

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「姫の私室は、こちらでございます」

国王アルノーは、死刑台へ向かう罪人のような顔で、分厚い扉の前で足を止めた。
その後ろで、ドミナは一切の感情を表情に出さず、ただ静かに立っている。

玉座の間での「契約」から数時間。 
ドミナは宰相として王宮の一室を与えられ、こうして早速、契約の「代償」であるアウレリア姫との対面を果たそうとしていた。

「(ようやく……ようやく会える)」

ドミナの胸は、数百年ぶりに高鳴っていた。  
あの予知夢で見た、銀色の髪と瑠璃色の瞳。
あれが今、この扉の向こうにいる。

「入るぞ」

国王が重々しく扉を開けると、そこは幼い少女の部屋らしく、ぬいぐるみや絵本が並んでいた。
そして、その部屋の奥。 バルコニーへと続く窓辺に、小さな影が一つ。

「…………」

ドミナは息をのんだ。

銀色。月光を溶かし込んだような、柔らかな銀色の髪。

瑠璃色。振り向いたその瞳は、澄み切った空よりも深く、吸い込まれそうだ。

「(ああ、間違いない)」

予知夢で見た姿、そのまま。
いや、それ以上に……愛らしい。

「お父様! お仕事終わったの?」

少女――アウレリア・ルクスは、国王の姿を見つけると、ぱあっと顔を輝かせて駆け寄ってきた。 だが、国王の隣に立つ見慣れない美女の姿に気づき、ぴたりと足を止める。

「(……?)」

侍女の後ろに隠れるかと思ったドミナの予想に反し、アウレリアは隠れるどころか、その瑠璃色の瞳をキラキラさせながらドミナを見つめていた。

「(…可愛い)」

ドミナが内心で呟いた、その時。  
アウレリアは、ドミナの前にトテトテと歩み寄ってきた。

「わぁ…」

アウレリアは、ドミナの美しい紫色の髪と、真紅の瞳を、憧れの眼差しで見上げている。 彼女は母親を早くに亡くしており、目の前の完璧な「美しいおとな」に、人見知りよりも好奇心が勝っていた。

「あなた、だあれ? お人形さんみたいに、きれい!」

国王や侍女が「ひ、姫様、失礼を!」と青ざめる。  
だが、アウレリアは無邪気に首をかしげた。

「お父様が言ってた、新しい先生?」

その言葉と、真っ直ぐな瞳。  
ドミナの心の奥底で、数百年凍りついていた何かが、カチリと音を立てて溶けた。

「(ああ、なんだ。これは)」

守りたい。この無垢な存在を、誰にも汚させたくない。私以外の誰にも、触れさせたくない。

数百年生きて始めて感じた、強烈な庇護欲と独占欲だった。  
国王たちに向けていた氷のようなオーラは完全に消え去り、ドミナはゆっくりとアウレリアの前に膝をついた。目線を、小さな姫君と合わせるために。

「はじめまして、アウレリア姫」

その声色は、先ほどまでとは別人のように優しく、甘く響いた。

「! なまえ、知ってるの?」 

「ええ。あなたのことは、何でも」

ドミナは完璧な微笑みを浮かべ、アウレリアの小さな手を取った。

「あなたが、これからの先生?」 

「いいえ」

ドミナは取った手に、そっと口づけを落とす。  
アウレリアは「きゃっ」と小さく声を上げた。

「私はあなたの『すべて』を育てる者、ドミナです」

真紅の瞳が、アウレリアだけを映して細められる。

「……よろしくね。私の、可愛いアウレリア」

ドミナ・アルカーナの「伴侶育成」計画が、
今、静かに幕を開けた。
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