『魔女のお姫様 ~数百年の孤独を埋めるのは、私が育てた「世界一可愛い女王陛下」だけでした~』

額田ハル

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第二章:恋心の芽生えと宮廷の陰謀編

第15話「あなただけの花園」

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嵐が嘘のように消え去った、静寂の夜。  
ドミナの膝の上でまどろんでいたアウレリアは、ふと目を覚ました。

「ん……ドミナ、様?」 

「おや、起きましたか。おはようございます……と言うには、まだ少し早いですね」

ドミナは微笑みながら、乱れたアウレリアの銀髪を指で整える。  
窓の外は、満天の星空だ。
さっきまでの雷雨が夢だったかのように、月が煌々こうこうと輝いている。

「雨……止んだの?」 

「ええ。あなたが眠るには、少し騒がしすぎましたから。消しておきました」 

「消した……?」

アウレリアが首をかしげる。  
ドミナは「ふふ」と悪戯っぽく笑うと、立ち上がってアウレリアの手を取った。

「せっかくですから、外の空気を吸いに行きませんか? あなたに見せたいものがあるのです」


ドミナに手を引かれ、アウレリアは王宮の中庭へと降り立った。  
ひんやりとした夜気が、火照った頬に心地よい。  
普段なら見慣れた庭園だが、今はどこか様子が違っていた。

「ドミナ様、ここは?」 

「アウレリア。あなたは先ほど言いましたね。『大人になるのが怖い』『私がいなくなるのが不安だ』と」 

「……うん」

 「言葉だけでは、私の愛は伝えきれません。
ですから形にしてお見せしましょう」

ドミナはアウレリアの手を離すと、中庭の中央に進み出た。  
そして、夜空に向かって優雅に両手を広げる。

「世界よ。私の愛しい姫のために、そのことわりを歪めなさい」

ドミナの全身から、紫色の魔力が爆発的に溢れ出した。  
それは、ただの魔法ではない。
世界そのものを書き換える、禁忌の力。

「『フロス・テンポリス・エト・スパティイ』《時空の花よ、咲き誇れ》」

ドミナが囁いた瞬間。

ボウッ……!

地面から淡い光が湧き上がり、枯れかけていた低木や、まだ蕾ですらなかった花々が、狂ったような速度で成長を始めた。  
春のバラ、夏の向日葵、秋のコスモス、冬の椿。  
本来なら決して同時に咲くことのない四季折々の花たちが、一斉にその花弁を開いたのだ。

「わぁ……っ!」

アウレリアは息をのんだ。
視界いっぱいに広がる、極彩色の花園。  
さらに、光り輝く幻の蝶たちが、花々の間を舞い始める。

「きれい… 夢みたい……」

「夢ではありませんよ。これは、あなたのためだけの現実です」

ドミナは花園の中で振り返り、アウレリアに手を差し伸べた。

「この花々は、枯れることはありません。
私がこの空間の『時間』を固定しましたから」 

「時間を……固定?」 

「ええ。世界的に禁じられた大魔法ですが……
ふふ、あなたを喜ばせるのに、世界のルールなど関係ありませんね」

ドミナはこともなげに言う。
時間を止めるなど、神の御業みわざに等しい。 
それを、ただ「花を枯れさせないため」だけに使ったのだ。

「ドミナ様……」 

「アウレリア。この花園と同じです。私のあなたへの想いも、決して枯れることはなく、時が経っても色褪せません」

ドミナはアウレリアの手を取り、その甲に口づけを落とした。

「たとえ世界中が敵に回ろうとも、世界が禁じた理であろうとも。あなたの笑顔一つ守れるなら、私は躊躇ためらいなく踏み越えてみせましょう」

それは、あまりにも重く、深く、そして甘美な愛の告白。  
アウレリアの胸が、熱く締め付けられる。

「……バカ」 

「おや?」 

「ドミナ様の、バカ……。こんなことされたら、私……もうドミナ様なしじゃ、生きられないじゃない……」

アウレリアの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。  
悲しいからではない。
愛されているという事実に、魂が震えたからだ。

「責任、とってよね……」 

「ええ。喜んで。一生かけて、溺愛させていただきますよ」

ドミナは泣きじゃくるアウレリアを優しく抱き寄せた。
幻想的な光の花園の中で、二人の影が一つに重なる。
十八歳の誕生日は、もう目前に迫っていた。
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