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第二章:恋心の芽生えと宮廷の陰謀編
第16話「嫉妬は紫の香り」
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アウレリアの十八歳の誕生日、そして成人の儀式が目前に迫っていた。
王宮は祝賀ムード一色に染まり、準備に追われる日々が続いていた。
とある午後の会議室。
アウレリアは、警備計画の打ち合わせのため、
近衛騎士団の若い小隊長たちと卓を囲んでいた。
「―――当日のパレードですが、姫様の馬車はこのルートを通る予定です」
「ありがとうございます。これなら、沿道の皆さんの顔もよく見えそうですね」
アウレリアは地図を覗き込み、微笑んだ。
その笑顔の破壊力に、若い小隊長たちの頬がポッと赤らむ。
「は、はい! 我々近衛騎士団、命に代えてもお守りいたします!」
「ふふ、頼りにしていますね」
和やかな空気。
アウレリアの持ち前の優しさが、場を明るく照らしている。
……ただ一人、部屋の隅で腕を組んでいる人物を除いては。
「(…………チッ)」
宰相ドミナ・アルカーナ。
彼女の周囲だけ、空気が物理的に重く、暗く淀んでいた。
真紅の瞳が、デレデレする小隊長たちを氷点下の視線で射抜いている。
「(あの男、アウレリアとの距離が近すぎる。あと三センチ近づいたら、消す)」
ドミナの殺気に気づいた小隊長が、ヒッと肩を震わせた。
「あ、あの……宰相閣下? 何か不備が……?」
「会議は終わりか?」
ドミナが冷たく言い放つ。
「は、はい! おおよそは!」
「なら、さっさと下がれ。アウレリアは多忙だ。貴様らのような男の機嫌を取っている暇はない」
「し、失礼いたしましたぁっ!!」
小隊長たちは逃げるように部屋を出て行った。
「もう、ドミナ様ったら……」
アウレリアが苦笑しながら振り返ると、そこには眉間に深い皺を寄せ、あからさまに不機嫌な魔女が立っていた。
「…少し、私の部屋に来ていただけますか、アウレリア」
宰相執務室に入るなり、ドミナは魔法で扉に鍵をかけ、アウレリアをソファに座らせた。
「ドミナ様? どうしたの、そんなに怖い顔して」
「怖くなどありませんよ。ただ、少し腹が立っているだけです」
ドミナはアウレリアの隣に座り、その手をギュッと握りしめた。痛いくらいの強さだ。
「あなたは、誰にでも優しすぎます」
「え?」
「あの騎士たちへの笑顔。あれはなんですか?サービス過剰です。
あんなふうに微笑みかけられたら、男などすぐに勘違いする生き物なのですよ」
ドミナの言葉は、まるで駄々をこねる子供のようだった。
アウレリアは、ぽかんとして、それから口元を手で覆って吹き出した。
「ぷっ……あはは!」
「な、何がおかしいのですか?」
「だって、ドミナ様……もしかして、妬いてるの?」
「っ……!」
図星を突かれたドミナが、ばつが悪そうに視線を逸らす。その耳が、ほんのりと赤くなっている。
「……嫉妬、してはいけませんか?」
「ううん。うれしい」
アウレリアはドミナの肩に頭を預け、すり寄った。
「私はドミナ様のものだもの。誰に優しくしても、心は全部ドミナ様にあげてるわ」
「……口が上手くなりましたね」
ドミナの手が、アウレリアの腰に回る。
そして、そのまま抱き寄せ、アウレリアの首筋に顔を埋めた。
「んっ……ドミナ様?」
「いい匂いがします。ですが、少しだけ『外』の匂いが混じっていますね」
ドミナの紫色の髪から漂う、妖艶で甘い香りが、アウレリアを包み込む。
「上書き、しておきましょうか」
「う、うわがき……?」
「ええ。誰が見ても、あなたが『私のもの』だとわかるように」
ドミナの唇が、アウレリアの白く華奢な首筋に触れる。熱い吐息が肌にかかり、アウレリアはゾクゾクと震えた。
「印をつけたくなる衝動を抑えるのが大変なのですよ、アウレリア」
甘く囁きながら、ドミナは吸い付くように首筋にキスをした。それは、独占欲という名の紫の鎖。
「あ……っ」
アウレリアは抵抗することなく、その重たい愛を受け入れる。
部屋の中には、嫉妬と愛情が入り混じった、濃厚な紫の香りが満ちていた。
王宮は祝賀ムード一色に染まり、準備に追われる日々が続いていた。
とある午後の会議室。
アウレリアは、警備計画の打ち合わせのため、
近衛騎士団の若い小隊長たちと卓を囲んでいた。
「―――当日のパレードですが、姫様の馬車はこのルートを通る予定です」
「ありがとうございます。これなら、沿道の皆さんの顔もよく見えそうですね」
アウレリアは地図を覗き込み、微笑んだ。
その笑顔の破壊力に、若い小隊長たちの頬がポッと赤らむ。
「は、はい! 我々近衛騎士団、命に代えてもお守りいたします!」
「ふふ、頼りにしていますね」
和やかな空気。
アウレリアの持ち前の優しさが、場を明るく照らしている。
……ただ一人、部屋の隅で腕を組んでいる人物を除いては。
「(…………チッ)」
宰相ドミナ・アルカーナ。
彼女の周囲だけ、空気が物理的に重く、暗く淀んでいた。
真紅の瞳が、デレデレする小隊長たちを氷点下の視線で射抜いている。
「(あの男、アウレリアとの距離が近すぎる。あと三センチ近づいたら、消す)」
ドミナの殺気に気づいた小隊長が、ヒッと肩を震わせた。
「あ、あの……宰相閣下? 何か不備が……?」
「会議は終わりか?」
ドミナが冷たく言い放つ。
「は、はい! おおよそは!」
「なら、さっさと下がれ。アウレリアは多忙だ。貴様らのような男の機嫌を取っている暇はない」
「し、失礼いたしましたぁっ!!」
小隊長たちは逃げるように部屋を出て行った。
「もう、ドミナ様ったら……」
アウレリアが苦笑しながら振り返ると、そこには眉間に深い皺を寄せ、あからさまに不機嫌な魔女が立っていた。
「…少し、私の部屋に来ていただけますか、アウレリア」
宰相執務室に入るなり、ドミナは魔法で扉に鍵をかけ、アウレリアをソファに座らせた。
「ドミナ様? どうしたの、そんなに怖い顔して」
「怖くなどありませんよ。ただ、少し腹が立っているだけです」
ドミナはアウレリアの隣に座り、その手をギュッと握りしめた。痛いくらいの強さだ。
「あなたは、誰にでも優しすぎます」
「え?」
「あの騎士たちへの笑顔。あれはなんですか?サービス過剰です。
あんなふうに微笑みかけられたら、男などすぐに勘違いする生き物なのですよ」
ドミナの言葉は、まるで駄々をこねる子供のようだった。
アウレリアは、ぽかんとして、それから口元を手で覆って吹き出した。
「ぷっ……あはは!」
「な、何がおかしいのですか?」
「だって、ドミナ様……もしかして、妬いてるの?」
「っ……!」
図星を突かれたドミナが、ばつが悪そうに視線を逸らす。その耳が、ほんのりと赤くなっている。
「……嫉妬、してはいけませんか?」
「ううん。うれしい」
アウレリアはドミナの肩に頭を預け、すり寄った。
「私はドミナ様のものだもの。誰に優しくしても、心は全部ドミナ様にあげてるわ」
「……口が上手くなりましたね」
ドミナの手が、アウレリアの腰に回る。
そして、そのまま抱き寄せ、アウレリアの首筋に顔を埋めた。
「んっ……ドミナ様?」
「いい匂いがします。ですが、少しだけ『外』の匂いが混じっていますね」
ドミナの紫色の髪から漂う、妖艶で甘い香りが、アウレリアを包み込む。
「上書き、しておきましょうか」
「う、うわがき……?」
「ええ。誰が見ても、あなたが『私のもの』だとわかるように」
ドミナの唇が、アウレリアの白く華奢な首筋に触れる。熱い吐息が肌にかかり、アウレリアはゾクゾクと震えた。
「印をつけたくなる衝動を抑えるのが大変なのですよ、アウレリア」
甘く囁きながら、ドミナは吸い付くように首筋にキスをした。それは、独占欲という名の紫の鎖。
「あ……っ」
アウレリアは抵抗することなく、その重たい愛を受け入れる。
部屋の中には、嫉妬と愛情が入り混じった、濃厚な紫の香りが満ちていた。
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