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第二章:恋心の芽生えと宮廷の陰謀編
第17話「世界で一番美しいあなたへ」
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そして、ついにその日は訪れた。
アウレリア・ルクス、十八歳の誕生日。
それは彼女が成人し、名実ともにルクス王国の次期女王として認められる、運命の日だ。
早朝、アウレリアの寝室。
「姫様、本日のドレスですが……」
「メイクの準備が整っております!」
侍女たちが慌ただしく動き回っていると、部屋の空気がふわりと紫色の香気に包まれた。
「―――全員、下がりなさい」
凛とした、絶対的な命令。
宰相ドミナ・アルカーナが、ドレスの箱を魔法で浮かせながら入ってきたのだ。
「え、あ、ですが、お支度が……」
「私がやると言っている。聞こえなかったか?」
ドミナの真紅の瞳が、冷ややかに侍女たちを射抜く。その美しくも恐ろしい威圧感に、侍女たちは「し、失礼いたしました!」と逃げるように退室した。
パタン、と扉が閉まる。
部屋には、ベッドの上で目をぱちくりさせているアウレリアと、ドミナの二人だけになった。
「おはようございます、私のアウレリア」
先ほどまでの氷点下の声色はどこへやら。
ドミナは砂糖菓子のように甘い笑顔で、アウレリアのベッドサイドに歩み寄った。
「お誕生日、おめでとうございます」
「ドミナ様……! おはよう!」
アウレリアが起き上がろうとすると、ドミナはそれを優しく制し、ベッドの端に座らせた。
「今日は特別な日です。約束通り、私があなたを世界で一番美しくして差し上げましょう」
「約束……?」
「おや、忘れましたか? あなたがまだ、こんなに小さかった頃のこと」
ドミナは鏡台から、象牙の櫛を手に取った。
アウレリアは、ハッとして自分の銀髪に触れる。
「あ……『髪を結う約束』!」
「ええ。あの日、あなたは私の髪を梳かしてくれましたね。……今度は、私の番です」
ドミナはアウレリアの背後に回り、その流れるような銀髪に櫛を通し始めた。
スッ、スッ……。 丁寧で、慈しむような手つき。
ドミナの指先が触れるたび、アウレリアの心臓がトクトクと温かい音を立てる。
「長くなりましたね」
「うん。ドミナ様みたいになりたくて、ずっと伸ばしてたの」
「ふふ。月光のように美しい銀髪ですよ。さあ、できました」
ドミナの魔法のような手際で、アウレリアの髪は複雑で優美な編み込みに結い上げられた。
そしてドミナは、浮遊させていた大きな箱を開く。
「これ……っ!」
アウレリアが息をのんだ。
そこに入っていたのは、眩いばかりの純白のドレス。生地には繊細な魔法の糸で刺繍が施され、散りばめられた瑠璃色の宝石が、まるで星空のように煌めいている。
「私が、十数年かけて魔法で紡ぎました。あなたの瞳の色に合わせた宝石も、すべて私が選定したものです」
「十数年……? まだ私が小さかった頃から?」
「ええ。予知夢であなたを見た、あの日からずっと……いつかあなたがこれを纏う日を夢見て、少しずつ織り上げてきたのです」
ドミナはドレスを取り出し、アウレリアの体に当てがった。
「予知夢の通り……いいえ、それ以上に素晴らしい」
ドミナの瞳が、熱を帯びて潤む。
「あなたは、私が見つけた最高の宝石です。さあ、着てみてください」
着替えを終えたアウレリアが、姿見の前に立つ。鏡の中にいるのは、もはやあどけない少女ではなかった。
国を背負う女王の気品と、愛を知った女性の艶やかさを纏った、絶世の美女。
「……似合うかしら?」
アウレリアが恥ずかしそうに振り返る。
ドミナは言葉を失い、数秒間見惚れてから、深々と傅いた。
まるで、女神を崇める信徒のように。
「完璧です、我が女王陛下。……世界中の誰よりも、あなたが美しい」
ドミナはアウレリアの手を取り、その甲に恭《うやうや》しく口づけを落とした。
「さあ、参りましょう。国民が、そして世界が、私たちの『お披露目』を待っていますよ」
二人は手を繋ぎ、光の差すバルコニーへの扉へと向かった。数百年の孤独が終わる、その瞬間へと。
アウレリア・ルクス、十八歳の誕生日。
それは彼女が成人し、名実ともにルクス王国の次期女王として認められる、運命の日だ。
早朝、アウレリアの寝室。
「姫様、本日のドレスですが……」
「メイクの準備が整っております!」
侍女たちが慌ただしく動き回っていると、部屋の空気がふわりと紫色の香気に包まれた。
「―――全員、下がりなさい」
凛とした、絶対的な命令。
宰相ドミナ・アルカーナが、ドレスの箱を魔法で浮かせながら入ってきたのだ。
「え、あ、ですが、お支度が……」
「私がやると言っている。聞こえなかったか?」
ドミナの真紅の瞳が、冷ややかに侍女たちを射抜く。その美しくも恐ろしい威圧感に、侍女たちは「し、失礼いたしました!」と逃げるように退室した。
パタン、と扉が閉まる。
部屋には、ベッドの上で目をぱちくりさせているアウレリアと、ドミナの二人だけになった。
「おはようございます、私のアウレリア」
先ほどまでの氷点下の声色はどこへやら。
ドミナは砂糖菓子のように甘い笑顔で、アウレリアのベッドサイドに歩み寄った。
「お誕生日、おめでとうございます」
「ドミナ様……! おはよう!」
アウレリアが起き上がろうとすると、ドミナはそれを優しく制し、ベッドの端に座らせた。
「今日は特別な日です。約束通り、私があなたを世界で一番美しくして差し上げましょう」
「約束……?」
「おや、忘れましたか? あなたがまだ、こんなに小さかった頃のこと」
ドミナは鏡台から、象牙の櫛を手に取った。
アウレリアは、ハッとして自分の銀髪に触れる。
「あ……『髪を結う約束』!」
「ええ。あの日、あなたは私の髪を梳かしてくれましたね。……今度は、私の番です」
ドミナはアウレリアの背後に回り、その流れるような銀髪に櫛を通し始めた。
スッ、スッ……。 丁寧で、慈しむような手つき。
ドミナの指先が触れるたび、アウレリアの心臓がトクトクと温かい音を立てる。
「長くなりましたね」
「うん。ドミナ様みたいになりたくて、ずっと伸ばしてたの」
「ふふ。月光のように美しい銀髪ですよ。さあ、できました」
ドミナの魔法のような手際で、アウレリアの髪は複雑で優美な編み込みに結い上げられた。
そしてドミナは、浮遊させていた大きな箱を開く。
「これ……っ!」
アウレリアが息をのんだ。
そこに入っていたのは、眩いばかりの純白のドレス。生地には繊細な魔法の糸で刺繍が施され、散りばめられた瑠璃色の宝石が、まるで星空のように煌めいている。
「私が、十数年かけて魔法で紡ぎました。あなたの瞳の色に合わせた宝石も、すべて私が選定したものです」
「十数年……? まだ私が小さかった頃から?」
「ええ。予知夢であなたを見た、あの日からずっと……いつかあなたがこれを纏う日を夢見て、少しずつ織り上げてきたのです」
ドミナはドレスを取り出し、アウレリアの体に当てがった。
「予知夢の通り……いいえ、それ以上に素晴らしい」
ドミナの瞳が、熱を帯びて潤む。
「あなたは、私が見つけた最高の宝石です。さあ、着てみてください」
着替えを終えたアウレリアが、姿見の前に立つ。鏡の中にいるのは、もはやあどけない少女ではなかった。
国を背負う女王の気品と、愛を知った女性の艶やかさを纏った、絶世の美女。
「……似合うかしら?」
アウレリアが恥ずかしそうに振り返る。
ドミナは言葉を失い、数秒間見惚れてから、深々と傅いた。
まるで、女神を崇める信徒のように。
「完璧です、我が女王陛下。……世界中の誰よりも、あなたが美しい」
ドミナはアウレリアの手を取り、その甲に恭《うやうや》しく口づけを落とした。
「さあ、参りましょう。国民が、そして世界が、私たちの『お披露目』を待っていますよ」
二人は手を繋ぎ、光の差すバルコニーへの扉へと向かった。数百年の孤独が終わる、その瞬間へと。
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