『魔女のお姫様 ~数百年の孤独を埋めるのは、私が育てた「世界一可愛い女王陛下」だけでした~』

額田ハル

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第三章:成人の儀と帝国戦争編

第18話「成人の儀と誓いの口づけ」

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王宮の大バルコニーへ続く重厚な扉の前。  
外からは、地鳴りのような歓声が響いてくる。 
ルクス王国の民たちが、愛する姫君の成人を祝うために集まっているのだ。

「ふぅ」

アウレリアは小さく深呼吸をした。  
緊張で、指先が少し震えている。

「怖いですか、アウレリア」

隣に立つドミナが、そっとその手を包み込んだ。

「ううん。……武者震いよ」

 「ふふ、頼もしいですね」

ドミナはアウレリアの頬を撫で、愛おしげに目を細める。

「胸を張りなさい。あなたは私が育てた最高傑作であり、この国の希望そのものです。あの有象無象の民草など、あなたの輝きだけで平伏させられますよ」

ドミナらしい、傲慢で、けれど絶対的な自信に満ちた言葉。アウレリアは自然と口元が緩んだ。

「ありがとう、ドミナ様。……行ってきます」 

「ええ。お供します」

ギィィィ……。扉がゆっくりと開かれる。 
瞬間、視界が白く染まるほどの光と、鼓膜を揺らす大歓声が押し寄せた。

「「「ウオオオオオオオッ!!!」」」 
「アウレリア姫万歳!!」
 「我らが光! お誕生日おめでとうございます!」

広場を埋め尽くす数万の民衆。  
アウレリアは一瞬怯みそうになったが、ドミナの手の温もりを感じ、堂々とバルコニーの先端へと進み出た。

純白のドレスが陽光を浴びて輝き、瑠璃色の宝石が煌めく。その神々しい美しさに、歓声はため息へと変わっていった。

「国民の皆様」

アウレリアの声が、魔法の拡声によって王都中に響き渡る。

「本日は、私の成人の儀に集まっていただき、ありがとうございます」

凛とした、透き通るような声。  
アウレリアは、国を襲った災厄、それを乗り越えた復興、そして未来への希望を語った。  
誰もが、その言葉に聞き入っていた。

「……そして」

演説の最後。アウレリアは言葉を切り、一歩後ろに下がって、影のように控えていたドミナの方を向いた。

「私が今日ここに立っていられるのは、ある御方のおかげです」

アウレリアはドミナに手を差し伸べる。

「ドミナ・アルカーナ宰相。……いいえ、私の最愛の師であり、家族であり」

ドミナはアウレリアの手を取り、その隣に並び立つ。民衆の間に、ざわめきが走った。  
宰相として国を救った英雄だが、同時に「恐るべき魔女」としても知られるドミナ。  
彼女の冷徹な真紅の瞳が民衆を一瞥すると、前列の者たちは恐怖に身を竦ませた。

「(ふん。相変わらず愚かな顔つきだ)」

ドミナが内心で毒づいた、その時。  
アウレリアが、ドミナの手を強く握りしめた。

「彼女こそ、私の半身」

アウレリアは、数万の視線を真っ直ぐに見据え、高らかに宣言した。

「私が生涯を誓う、唯一無二の『伴侶』です」

「「「…………は?」」」

時が止まった。  
民衆も、貴族たちも、国王さえも、言葉の意味を理解するのに数秒を要した。
伴侶? 魔女が? 姫様の?

困惑と動揺が波紋のように広がりかけた、その瞬間。

「ドミナ様」

アウレリアはドミナに向き直ると、その紫色の髪にそっと触れ、背伸びをした。

「……んっ」

柔らかい感触が、重なる。  
衆人環視の中。  
青空の下で。  
アウレリアは、ドミナの唇に、深く、甘い口づけを落とした。

「「「!!!!????」」」

悲鳴にも似た驚愕の声が上がる。  
だが、ドミナはそんな外野の反応などどうでもよかった。ただ、目の前のアウレリアの、熱っぽい瞳と、触れ合う唇の甘さだけに意識を奪われていた。

「(…ああ)」

ドミナは、アウレリアの腰に手を回し、その口づけに応える。数秒か、数分か。  
唇が離れると、アウレリアは悪戯っぽく、けれど幸せそうに微笑んだ。

「これで、国民公認ですね?」

 「……ふふ。ええ」

ドミナはとろけるような笑顔で頷いた。

「もう、逃げられませんよ。……私の可愛い女王陛下」

民衆たちは、あまりの衝撃に言葉を失っていたが、二人の間に流れる圧倒的な空気――世界を二人だけで完結させているような絶対的な愛のオーラに気圧され、誰も異議を唱えることなどできなかった。  
ただ、呆然と見守るしかなかったのだ。  
この国が、「魔女と姫の国」として新たな歴史を刻み始めた瞬間を。
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