釣った魚、逃した魚

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#64 憧れの上司像

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※ 情報補助として

元・コンセデス領主家三兄弟

 長男・アーノルド (マッチョ系、長男だが中央の不興を買い、廃嫡された過去がある)

 次男・リオネス  (美人系細マッチョ、持病持ち-多分喘息)

 三男・エルンスト (コンセデス領主、ミランの義兄と親友)


――――――――――――――――――――――――――――――――

俺が状況について行けずポカンとしている間に、バタバタと事態は進行していた。



領主様は従者に領内及び近隣領の新聞社数紙を邸に呼びつけるように命じた。

ここは魔の森に隣接している辺境伯領という事も有り、緊急時はあり得ない早さで号外がでる。



また、領内各都市の市長や広報部にも緊急会議を開く旨伝達をしまくる。

その伝達の時点で「独立についての詰めの会議である」旨は通達し、市長が戻る前から市政官達の準備も始めさせる。

領政務官達を集め、要所要所の辻に高札を掲げて独立宣言を発布。その上で明日、正式に領都の中央広場にてラグンフリズ三兄弟からの声明を正式発表する旨を記す。



リオネス様は領属騎士団の各隊長を招集するよう応接の間前に侍っていた側近に命じた。



俺は一応、相手は秘密裏に戦闘竜騎士軍団を組織して、訓練をしている事を伝えておいた。

空からの攻撃がある可能性は、伝えておいた方が良いだろう。

それを聞いて、義兄の秘書兼護衛が持ってきた、空中戦用魔道具のカタログを腹心達と物色し始める。



アーノルド様は義兄と、領内の神殿の扱いについて相談し始めた。



現状、神殿は完全なる敵組織とのパイプ役になっている。

故に現時点で、中央神殿から派遣されている神官達は、地元出身者以外、一旦全て領外に出す。

地元出身者は一旦拘束。

彼らは、刷新された体制に従い、中央との関係を断つ魔法誓約を行わせた上でのみ、地元に残れるようにする予定だ。



もともと我が国の信仰は、この大陸では最もメジャーな女神信仰であり、その総本山は他国にある。



国家として独立するにあたっては、総本山での門下国宣誓儀式を経て、新たなる使徒を派遣して貰わなければならない。

その上で地元神官から司祭を選出、あるいは国内の神殿が安定するまでの間は総本山から派遣して貰う形を取らなければいけない。

総本山が選別した司祭が試験を実施した上で、神官達を選び、各地区に配属させる。

その際、魔法誓約済みの神官は、極力出身地に配属するよう計らう。



その手続きは早急に。セシリアお義姉さんの件もあるから、神殿問題はきっちりと押さえておいて欲しいと、義兄にプレッシャーを与えておいた。



ただ、総入れ替えに近い状態になるのは、引き継ぎが不安だ。各地にそれなりの病院もあり、医療従事者も居るが、神官が人手不足なのはいざという時に困る。

可能な限りすぐ向かわなければならない。



総本山への寄進もかなり多めに包み、グリエンテ商会護衛騎士団から数名の供を連れて、アーノルド様直々に早馬で向かってくれる事になった。

この早馬、グリエンテ商会が試験的に飼育を始めた魔獣馬で、通常3日かかる行程を1日で走れる。

無論騎手にも相応の技術や膂力が必要だが、アーノルド様始め、数名は既に訓練済みだ。



様々な事柄に、目の前で矢継ぎ早に指示が下されていく。

気がつけば部屋からはアーノルド様が消え、リオネス様が消え、その代わりにどやどやと新聞社の記者達が入室してきて領主様に取材したり、号外の紙面を詰めたり、領政務官達が高札に貼り出す書面を作り印章押印を求めてきたりした。



そっと俺達は別室に避難していた。

「凄いね。決断も実行ももの凄く早い。しかも、人の動かし方も適切だし、自身が出向くのが最短と思えば躊躇無く動くフットワークの軽さ!…組織の長はかくあるべきだよねえ~」

神子様がどことなくウットリした調子で呟く。

「ああいう上司の下で働きたいね。…ああ、俺の元の世界での上司もそれなりに良い人だったんだけど、ここまでの頼りがいは無かったからなぁ」

思いを馳せている様子だった。

ついこないだまでの直属の上司というか、主人であった陛下の事はスキップして、その前の上司と比べての発言が、周囲を微妙な空気にした。



そう思うと、あの人は何ひとつ自身で決断しなかった。決断も実行も人任せで、自分から何かを知ろうともしなかった。

人から伝えられても、それが自分にとって楽しくない事だと、軽く流したり、聞いた先から忘れたり…。

あれが所謂『お花畑』というヤツなんだろう。王城の中で蝶よ花よと育てられた結果か。

どんなに血筋が良くても、辺境においては確実に後継ぎから外されるタイプだ。



既にごった返している応接の間から避難した俺達は、ドアを隔てた控えの間で茶菓を頂きながら待機していた。



 そんな中、神子様がハッとした表情で何かに集中し始める。おそらく“盗聴”で敵の情報収集をしているのだと思う。
暫くすると俺と義兄の顔を見やりながら口を開いた。

「また更にもう1箇所、瘴気の発生が確認されたらしい。先日のも被害がじわじわと広がっているのだけど、今度のもいずれも西北側の辺境領。こないだの弾劾裁判を仕切っていたエムゾード辺境伯の領地内のよう。…それと、どうやら、ミランを断罪する書状が到着する頃合いを見計らってと言う事のようだけど、飛竜騎士隊をコンセデス領に向け出動させる準備にかかっている模様」

「なるほど、そういう事か」
義兄が呟いた。
「あの書状、新政権の『中央審議会最高責任者カイル・エムゾード』という署名があったな…。辺境伯の息子であるカイル・エムゾード様には一刻の猶予も無かった…だから、こういう強硬な手を使ったと言う事か」

「グレイモスが猛反対したのを押し切ってその書状を送ってきたみたい。言い争っていたよ。
グレイモスは俺の伝言『ビジネスの交渉には応じる』という言葉を新国王に伝えて検討中だったようだけど、新政権の面々の中でも、何人かの新大臣達から『神子のくせに、金を取るつもりなのか?』と声を荒げている者が居て、王兄殿下…あ、今はもう陛下か…が窘めていたよ」

思わず絶句してしまった。

「…は?…え、何ですか?それ」
義兄が顔色を変えて少し腰を浮かせ、前のめりに神子様に訊く。
神子様が“盗聴”という諜報魔法を使える事は義兄には大まかに伝えてある。

神子様にそんな質問した直後に俺の顔を見て「おい、鬼のような顔して黙り込むのはやめろ」と本気で怯えられた。

「頭をすげ替えても、そうそう性根は変わらないんですねッ」
俺は怒りにまかせて吐き捨てた。
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