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#76 手記
「初代の神子のは、前半はほぼ業務日誌のようでした。多分、訓練を受けた際のメモのつもりで書き記し始めたのでしょうね。
与えられた課題と、自分のこなしたトレーニングの内容、そして、マスター出来た技の種類、繰り出し方のコツなど。
途中からは遠征に出かけたときに、地図なども添えて描かれ、訪れた街や村、そこでの被害状況、自分が施した措置などをレポートしています。後半に向かうに従って、単なるメモの文字列では無く、親しくなった仲間との触れ合いの様子や、被害を受けた民達を労り同情する言葉などが増え、ずっとそばで支えてくれている侍女との恋を含め、本人の心情なども交えた…所謂『日記』の形式になっていってました。
行く先々で涙ながらに感謝され、その度に感激している様子でした。
時折新たな瘴気が発生しても、早期対応で大事に至らず、民衆からはまさしく救世主として崇められ、本人もその期待に応えようという使命感が増していたようでした。
一連の使命を終えた後は、王侯貴族からも心からの感謝と賛辞を受け、温暖で豊かな領地と爵位を与えられ、家族とともに長閑な領地で穏やかに暮らしたみたいです。
時折社交の場に引っ張り出されはするものの、人々に尊敬されて良い余生を送れた感じです。
初代に関しては、本当に『神子』として、召還時から必死に救済を懇願され、それに応えていくことで感謝され、最期まで丁重に扱われたことが窺えました。
二代目は、年若い女性でした。召還時は16歳でしたか。
かなり気の強い娘だったらしく、最初は周りもかなり気を遣いながら宥めたりすかしたり拝み倒すように説得して協力を仰ぐ形で始まったようです。
この子は学生だったこともあり、学んだこと、実践したことを事細かな学習ノート形式で書き綴っていました。そこに手記形式の本人の心情なども添えられている形でした。
気が強かったので、周囲とぶつかることも多かったようですが、いざ被害の現場に行けば、被災した人々には深く同情し、懸命に救済に当たったようです。
神子としての能力もそれに呼応して高まっていった感じでした。
でも特定の侍女と神官以外には、打ち解けられずに居たようでした。
遠征後…おそらく、王家側が縛っておきたかった事も有り、王子との婚姻を結ばせましたが…最初は若い娘らしく煌びやかな世界に浮かれていたものの、最終的には貴族社会や愛のない王子とのすれ違いに、物質的には満たされていても、辛い晩年だったようです。
ただ、仲の良かった侍女と神官だけが心のよりどころで、慈善事業に打ち込んでいたせいもあって民からは慕われ、そこには一定の満足感を得られていたようです。
三代目も、若い女性でした。とは言っても、召還時二十歳だったので、二代目に比べれば少し大人ですね。
彼女は、おとなしく慈悲深くはあったのですが、あまり主体性が無く流されやすい人だったようです。
もう最初の儀式で会ったときから、見目麗しく優しげな王子に夢中で、何でも彼に従っていました。
二代目が気の強い女性だったという記録が残っていたのでしょうか、世話を焼く周囲が警戒しすぎて、逆に厳しく接していたようでした。
すぐ泣き、すぐ弱音を吐き、すぐ投げ出して引きこもってしまう彼女は、二代目とは違った意味で手がかかる女性のようでした。
でもやはり、性質は優しく慈悲深かったので、救済は頑張って取り組んでいました。
ただ、初代と二代目が非常に能力値が高かったことと比べると、やや力は弱かったようで、周囲に侮られたり、彼女はかなり頑張ったのに感謝が薄かったりという反応を受けて、次第に色々なことがイヤになってしまったようでした。
当初、夢中だった王子も、遠征を終えて帰還した後くらいから急激に冷たくなり、被害者意識に駆られて出国の計画を練るのですが、密告者がいて、周りを固められてしまいます。
その後は従属アイテムを付けられて逃げられなくされたようです。
結局彼女は大好きだった王子の側妃にされて、それなりの贅沢だけは許された環境で、流されたまま過ごしたようでした。
彼女は情緒過多な人だったようで、綴られている文章も状況説明があまりなく、その時の扱いが具体的には読み取りにくいのですが、ただ、初代や二代目ほど最初からありがたがられていた様子は感じられませんでした。
四代目は、30代も半ばの男性で、過去の神子達に比べたら社会人経験もあり、色々と冷静でもあり強かでもあった感じです。
かなり早い段階で前の三人の手記を読んでいたらしく、全てを警戒していました。
だから最初から、この世界の情報をある程度把握するまでは、王侯貴族や世話役達の言う通りにして能力を高め、遠征が終わったら姿をくらまそうと計画していました。
ただ、救済はそれなりに頑張ったようです。
やはり、目の前に傷つき弱った無辜の民がいれば、救いたいと思うのが人情です。
ただ、それをセッティングしている世話役達にも、救われた民の反応にも、ある種の違和感は感じていたようです。
そこはかとなく伝わってくる「舐められている」感覚。
「やって貰うことを当たり前と受け止めている」空気。
限りなく殆どの相手から感じる、そういった手応えは、彼の警戒心に拍車をかけたようでした。
彼は、極力隠れて、浄化や治癒以外のあらゆる魔法を練習します。
先ずは転移。認識阻害。それらを使って、こっそりと市井に繰り出し、冒険者登録をします。個人口座の開設。支給された高級品の換金。情報収集。
あらゆる拘束魔道具の解呪法の修得。
ですが。
残念ながら、ここから先は読んでいません。
途中、三代目の冒頭くらいで、宰相に図書館への出入りを邪魔されるようになったので、読み込むのが一旦途切れてしまいました。
その後、深夜に転移で訪れては少しずつ読んだりもしましたが、何しろ神殿通いをしてみたり、秘密裏に冒険者をしてみたり、治癒行脚に出かけたり…で、何とか4代目のここまで、という感じです」
神子様は大きく息を吐いた。
黙って聞いていた、ラグンフリズ三兄弟、義兄、俺…は暫く言葉を失っていた。
三代目から既に、そんな感じだったのか……!
与えられた課題と、自分のこなしたトレーニングの内容、そして、マスター出来た技の種類、繰り出し方のコツなど。
途中からは遠征に出かけたときに、地図なども添えて描かれ、訪れた街や村、そこでの被害状況、自分が施した措置などをレポートしています。後半に向かうに従って、単なるメモの文字列では無く、親しくなった仲間との触れ合いの様子や、被害を受けた民達を労り同情する言葉などが増え、ずっとそばで支えてくれている侍女との恋を含め、本人の心情なども交えた…所謂『日記』の形式になっていってました。
行く先々で涙ながらに感謝され、その度に感激している様子でした。
時折新たな瘴気が発生しても、早期対応で大事に至らず、民衆からはまさしく救世主として崇められ、本人もその期待に応えようという使命感が増していたようでした。
一連の使命を終えた後は、王侯貴族からも心からの感謝と賛辞を受け、温暖で豊かな領地と爵位を与えられ、家族とともに長閑な領地で穏やかに暮らしたみたいです。
時折社交の場に引っ張り出されはするものの、人々に尊敬されて良い余生を送れた感じです。
初代に関しては、本当に『神子』として、召還時から必死に救済を懇願され、それに応えていくことで感謝され、最期まで丁重に扱われたことが窺えました。
二代目は、年若い女性でした。召還時は16歳でしたか。
かなり気の強い娘だったらしく、最初は周りもかなり気を遣いながら宥めたりすかしたり拝み倒すように説得して協力を仰ぐ形で始まったようです。
この子は学生だったこともあり、学んだこと、実践したことを事細かな学習ノート形式で書き綴っていました。そこに手記形式の本人の心情なども添えられている形でした。
気が強かったので、周囲とぶつかることも多かったようですが、いざ被害の現場に行けば、被災した人々には深く同情し、懸命に救済に当たったようです。
神子としての能力もそれに呼応して高まっていった感じでした。
でも特定の侍女と神官以外には、打ち解けられずに居たようでした。
遠征後…おそらく、王家側が縛っておきたかった事も有り、王子との婚姻を結ばせましたが…最初は若い娘らしく煌びやかな世界に浮かれていたものの、最終的には貴族社会や愛のない王子とのすれ違いに、物質的には満たされていても、辛い晩年だったようです。
ただ、仲の良かった侍女と神官だけが心のよりどころで、慈善事業に打ち込んでいたせいもあって民からは慕われ、そこには一定の満足感を得られていたようです。
三代目も、若い女性でした。とは言っても、召還時二十歳だったので、二代目に比べれば少し大人ですね。
彼女は、おとなしく慈悲深くはあったのですが、あまり主体性が無く流されやすい人だったようです。
もう最初の儀式で会ったときから、見目麗しく優しげな王子に夢中で、何でも彼に従っていました。
二代目が気の強い女性だったという記録が残っていたのでしょうか、世話を焼く周囲が警戒しすぎて、逆に厳しく接していたようでした。
すぐ泣き、すぐ弱音を吐き、すぐ投げ出して引きこもってしまう彼女は、二代目とは違った意味で手がかかる女性のようでした。
でもやはり、性質は優しく慈悲深かったので、救済は頑張って取り組んでいました。
ただ、初代と二代目が非常に能力値が高かったことと比べると、やや力は弱かったようで、周囲に侮られたり、彼女はかなり頑張ったのに感謝が薄かったりという反応を受けて、次第に色々なことがイヤになってしまったようでした。
当初、夢中だった王子も、遠征を終えて帰還した後くらいから急激に冷たくなり、被害者意識に駆られて出国の計画を練るのですが、密告者がいて、周りを固められてしまいます。
その後は従属アイテムを付けられて逃げられなくされたようです。
結局彼女は大好きだった王子の側妃にされて、それなりの贅沢だけは許された環境で、流されたまま過ごしたようでした。
彼女は情緒過多な人だったようで、綴られている文章も状況説明があまりなく、その時の扱いが具体的には読み取りにくいのですが、ただ、初代や二代目ほど最初からありがたがられていた様子は感じられませんでした。
四代目は、30代も半ばの男性で、過去の神子達に比べたら社会人経験もあり、色々と冷静でもあり強かでもあった感じです。
かなり早い段階で前の三人の手記を読んでいたらしく、全てを警戒していました。
だから最初から、この世界の情報をある程度把握するまでは、王侯貴族や世話役達の言う通りにして能力を高め、遠征が終わったら姿をくらまそうと計画していました。
ただ、救済はそれなりに頑張ったようです。
やはり、目の前に傷つき弱った無辜の民がいれば、救いたいと思うのが人情です。
ただ、それをセッティングしている世話役達にも、救われた民の反応にも、ある種の違和感は感じていたようです。
そこはかとなく伝わってくる「舐められている」感覚。
「やって貰うことを当たり前と受け止めている」空気。
限りなく殆どの相手から感じる、そういった手応えは、彼の警戒心に拍車をかけたようでした。
彼は、極力隠れて、浄化や治癒以外のあらゆる魔法を練習します。
先ずは転移。認識阻害。それらを使って、こっそりと市井に繰り出し、冒険者登録をします。個人口座の開設。支給された高級品の換金。情報収集。
あらゆる拘束魔道具の解呪法の修得。
ですが。
残念ながら、ここから先は読んでいません。
途中、三代目の冒頭くらいで、宰相に図書館への出入りを邪魔されるようになったので、読み込むのが一旦途切れてしまいました。
その後、深夜に転移で訪れては少しずつ読んだりもしましたが、何しろ神殿通いをしてみたり、秘密裏に冒険者をしてみたり、治癒行脚に出かけたり…で、何とか4代目のここまで、という感じです」
神子様は大きく息を吐いた。
黙って聞いていた、ラグンフリズ三兄弟、義兄、俺…は暫く言葉を失っていた。
三代目から既に、そんな感じだったのか……!
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