王子の宝剣

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第二章

#23 独占欲の目覚め (Side エレオノールⅡ)※R

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R15・・・だと思うんですよ。内容的には。多分。
もし、違うぞって時は、どなたかご指摘お願いします。

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「今夜の食事は騎士達が狩ってきた獲物だそうですよ。」
ナーノと二人、向き合いながら彼が腕を振るった食事を摂る。
「お加減がお悪くないのでしたら、明日は皆と一緒に外でお食事なさいませ。ダイは殿下が回復してからで無いと、あの時仕留めたイノシシ魔獣の肉を振る舞わないと公言しているようですから。」
「そ、そんなことを?」
「はい。騎士達は早く肉祭りをしたいようなので、これ以上引っ張ると殿下が恨みを買うかも知れませんからね。」
ふふ・・・とナーノが笑う。
それは騎士達に悪いことをしてしまった。
食後のハーブティーには彼が煮込んで作ったというメフチのジャムが入っていて、甘くてほんわか温まる。彼の手で作られた物が自分の体に入ってくると言う事はこんなにも満たされることなのか。ほぅっと息を吐く。

なんだかずっとぼんやりしている。泣いたせいなのだろうか。
頭がボーッとして、何も考えられない。
気を抜くと、彼の声や手の熱さや掌に伝わってきた彼の鼓動なんかを思い出して、急に立ち上がって叫びながら走り出したくなる。そのたび頭を抱えて煩悶し、乱れた呼吸を整えたりして、どうしたら良いんだ。もう、どうしたら良いんだ、このやっかいな私を。
ああ、何もしていないからいけないのだ。仕事をすべきだ。
私が眠っていた間の中央からのメッセージの確認と今までの経費の整理と明日からの行程を詰めなくては。
そう思ったときにテントの外からエヴォルトの声がした。

「エヴォルトです。入ってもよろしいですか」
ナーノが招き入れる。軽く立礼をしてから私の手の指示に従って着席する。
エヴォルトは今は第一騎士団の団長だが、前大聖女の母上の護衛騎士だった時からの付き合いだ。つまり私が母のお腹に宿っていたときから私を守ってくれている。
私が最も信頼する男。
「おぉ、ずいぶんよくなられた・・・ん?え・・・?ナーノ?どうかしたのか?」
彼は近づいて初めて、ほのかなランプの明かりでよく見えていなかった私の瞼の赤みと腫れぼったさに気づき、ナーノに訊ねた。
「食事の前にダイが参りまして・・・。」
ナーノはすまして答えた。でもそのすまし顔の裏側に何か含みがあるのを長年の付き合いでなんとなく感じる。
「え、まさかとは思うけどケンカしたとか?」エヴォルトはやや半笑い。私は・・・。
「ケンカなんてする訳ないだろ!私が、私が一方的に・・・彼を責めてしまって・・・」
はぁ~ん、とエヴォルトがニヤついている。何が可笑しいんだ!
ナーノの方を見て訊く。「もしかして、レヒコの件か?」「はい。レヒコの件です。」
何でそんなことエヴォルトまでが知ってるんだ!あ、シシャンブノスが喋ったのか。
アイツ、ふだん寡黙なくせにこんなときにお喋りだなんて。
頷き合うエヴォルトとナーノ。なんだかものすごく恥ずかしい。
「そいつぁ、まあ・・・ああ、それでアイツなんか様子が変だったのか。」
 様子が変?ハッとして私が顔を上げるとエヴォルトは言い辛そうに口を開く。

「その、ダイのことなんですけどね」
え・・・、この雰囲気。まさか何かイヤなことを言われるのだろうか。
「こないだのネルムドの森のも含むここしばらくの記録を中央が見たんですよ。・・・まあ、案の定、召喚者であるという事も含めダイに中央の関心が集中してる。で、王都帰還の・・・復路のルートをハヌガノ大橋ルートにしろと要請されました。」
「・・・ああ。それなら。元々私自身ハヌガノ領経由で戻ろうとは思っていたよ。ハヌガノ大橋が開通してから一度も来ていなかったし、たしかアレクシス兄上もまだ来ていないはずだよね?坑道や洞窟都市なんかも含めルネスの石があるならこの機に記録していけばきっとお役に立つと思って。」
「ここからだと直近の村まではほとんど未整備の道ですが、その村からハヌガノ方面だとホツメル市まで比較的整備された商道がありますね。そして、ホツメル市からは国道で王都まで行けますけれども。そのルート・・・ということでよろしいですか?殿下。」
ウン、そういうことになるね、と私が答えると二人は納得した様子だった。が。

「でも、その事とダイとどういう関係が?」
「ん~・・・、どうやら中央はホツメル市にお迎えの王族専用馬車を出すとか言ってやがんですわ。召喚者様を国家あげて歓迎しなくてはとか言ってまして。まあ、早い話がとりあえず自分たちの管理下で、存分に鑑定して値踏みして、その上でとっとと王太子サイド・・・厳密に言えば王妃派サイドにダイを取り込んじまおうって事なんでしょうが。」
え・・・?私はショックを受けた。少し目の前がクラクラするくらいに。
そんな!彼をそんなモノのように扱うなんて。値踏み?そんなこと・・・冗談じゃ無い!
そもそも連中は、あんなに聖剣召喚を反対して妨害までしていたのに。
いざ召喚者が現れたら勝手に連れ去って今度は取り込もうなんて。
何て横暴なんだ。意味が分からない。
そう思って頭に血が上ったけれども、すぐに、でもいつも彼らはそうだった、と思いだした。
いつもの自分なら、やり過ごせるのに。ヤツらの狙いが彼だと思うと。

「王族専用馬車!殿下の為には出したことも無いのに?」
ナーノが憤慨する。エヴォルトも「だろ?」みたいな顔をする。
い、いや、私にとってそこはどうでも良いんだけど。
「・・・べつに私自身は乗せて欲しいと思ったことも無いから・・・。でも、それってアレクシス兄上はどうお考えなんだろう。兄上はもともと彼が召喚者だってのは知っていて当面秘密にするって事に賛同してくれていたひとりだろ?」
「王太子殿下は王妃派の思惑よりなにより、我が国に召喚者が居るなら国の代表として、もてなすべきというお考えのようですよ。今まで秘密にするってのも召喚が失敗だったからあえて公表する必要も無いとお思いだったんでしょう。聖剣の召喚には失敗したけど実質召喚者は居て、今後の働きに期待が持てそうだったら、今回が公開する良いタイミングだって事でしょう。」
・・・そうか。兄上のご意志がそうなら私がどうこう言える立場では無い。仰ることは確かに王族として当然の判断。でも・・・。もやもやする。というよりスゴくイヤだ。
私の頭の中で中央の、私をよく思っていない面々が彼を囲んでジロジロとぶしつけに眺めている図が浮かんで身震いした。
そして何より、彼を盗られてしまうのでは無いか、と言いようのない不安が押し寄せてくる。
私はぎゅっと手を握った。エヴォルトは神妙に私をのぞき込みながら訊ねた。
「殿下はダイをどうしたいですか?」
「そ、それは・・・、勿論彼を利用しようとしているようなヤツらには渡したくないよ。でも、最終的には私が一方的に決めることではない。ダイの気持ちも訊かないと・・・。」
「ああ、じゃあ、今夜にでも訊いておきま・・・」
「必要ですか?」
エヴォルトの言葉を遮るようにナーノが言った。
「ダイは殿下が少しでもお気に召さないことはしないと言っていました。」
「へえ、そんなこと言ったのか。」
「ええ、ハッキリと。そして、『未来永劫殿下の御為にこの身も心も魂も全てを捧げます』とも。」
「わー、ナーノ!やめてやめて。」
私は耳を塞いで突っ伏してしまった。あの時の彼の声や口調を思い出して。顔が熱い。
「団長、私、考えたのですが」淡々とナーノが続ける。
「いっそのこと、ダイを殿下の恋人にしてしまってはどうでしょうか」
息が止まった。
顔を上げてナーノに何か言おうとしたけれど言葉が出なくて口をパクパクしているだけだった。エヴォルトは手を打って「なるほど!」と声を上げた。
エヴォルト?
「殿下。これは戦略的な意味ですよ。例えば、召喚者は王都に戻ったらもうアリの巣に放り込まれた砂糖菓子です。よってたかってもみくちゃです。彼をそんな目に遭わせたいですか?ていうか、きらびやかな令嬢令息達に次々と迫り倒されていく彼を見て殿下は大丈夫ですか?」
・・・そ、そうだった。王都に戻ったら・・・!きっと彼は・・・。
そして多くの令嬢はかなり本気の秋波を彼に送るだろう。だって彼は・・・よく分からないけど魅了のスキルと同じくらいの魔性を持っているようだから。なにしろ自分もヤラレてしまっている。容易に想像できる。
「きっと彼は、権力欲と支配欲と愛欲と虚構の坩堝るつぼである社交界という名の陰謀愛憎劇のステージに無理矢理引きずり出されてしまうでしょう。そして、ピュアな彼はいつの間にか邪悪な罠にはめられて外堀を埋められ、気がついたらどこぞの高位貴族の令嬢と結婚して操られ、追い立てられるように異世界人としての能力を搾取し尽くされて、その一族の権力闘争の一翼を担うのです。彼は本来女性はダメそうですが媚薬でも飲まされれば勃つでしょうし、勃ってしまえば絞るだけ・・・」
「やめて!ナーノッ!」
思わず立ち上がってしまった。きっと顔は青ざめていたと思う。血の気が引いて体がガタガタと震えていた。
「そんな酷いことをよくもスラスラとッ」
「でも、そういうことを平気でやってきた連中ですよ。あいつらは。もっともっとえげつないことも。」
言葉を失う。反論はできない。標的が自分だと思う分にはどこか冷静にそういうモノだと割り切れた。でも、彼がその位置に据えられるのは・・・。イヤだ。耐えられない・・・!
「殿下、彼のことが好きですか?」
エヴォルトが、仕方ないなあと言う調子で問うてくる。私は黙って頷く。
ナーノが私の腕に手を添えて椅子に導いてからそっと囁いた。
「では、守ってあげなければ・・・。ダイは殿下の命令には背きません」
「・・・でも、ちがうよ。間違ってる。命令で恋人にするなんて。そんなの間違ってる。」
口ではそう繰り返しているのに心の奥底では、渡したくない、誰にも。王妃様派の高官達にも、色めき立つ社交界の華たちにも・・・と。自分の胸に、浅ましい小さな欲望の火種がある事を意識しながらエヴォルトに告げた。
「ダイの意思を、・・・どうしたいか、訊いて欲しい。」

エヴォルトが就寝の挨拶を済ませ退出した後、私はナーノの用意してくれた薬草茶を飲んでカーテンの奥、空間魔法で作られた私個人の寝室にふらふらと入った。
今日一日であまりにも色々な事があった。疲れているはずなのに。
今までずっと曖昧にしてきた事柄がむき出しになって目の前に突きつけられて、そうして思い知ってしまった拭いきれない熱が体の奥底で暴れるのを自覚していた。
ナーノはもう既にこの後私が何をするのか分かっていて、それに必要な物は全てサイドテーブルに用意されていた。

ベッドに腰掛けぼんやりと左手を眺める。
思い出される重ねられた彼の手の熱さ。掌の硬さ。そして心臓の鼓動。えもいわれぬ気持ちがこみ上げてきて、私は私の左手に頬ずりをする。右手をそっと添えて。まるでその左手が自分の物ではないように。
そしてそれに唇で触れる。もしかすると指先の方が唇に触れたのかも知れない。
その左手で頬を、顎を、喉を、首筋をなぞる。
彼の心臓から送り込まれた熱を自分の肌にすり込んでいくかのように。
一つ一つの動きにぞくりと体の芯が疼く。
胸元、腹、二の腕。肩。撫でて、さすって、ときに揉んで。
息が乱れる。
脇腹から腰にかけて滑らしたときビクリと体が跳ねた。たまらず声が出る。
いつものその行為とは、明らかに自分の体の反応が違う。
いつもだって私の体は十分に淫らだ。でも今夜は・・・。
自分では無いみたいに快楽に踊らされている。
まだ肝心の場所に触れても居ないのに。
吐息がどんどん早くなる。こらえきれずに漏れる恥ずかしい声。
そして、彼の熱を持つ掌を自分の心臓の上に当てる。激しく打ち付ける鼓動が掌に吸い込まれる。彼の鼓動を感じていたときに聴いていた声が蘇る。「殿下・・・」と。
私を呼ぶあの声。語尾がかすれて息が残るたまらないあの声で「殿下・・・」と。
ああ、もうそこからは自分の中で何かが突き上げてきて、抗いようのないうねりが狂おしく暴れ始めて、ひたすらその左手で自分の体を愛撫した。
下腹部の熱く堅くなった部分を握りしめたとき、彼の掌の感触を思い出して悲しいほどあっという間に吐精した。
けれども、一度では収まらないのはいつものこと。
熱い吐息と呻きを漏らしながら更に自らを追い上げる。
いつもの自慰とは比べものにならないほどの快感に髪をかきむしる。
空気を求めて開かれた唇に指が触れたとき、鮮明に、レヒコに唇を重ねる彼の姿を思い出した。ずぶ濡れの彼がレヒコの細いおとがいを持ち上げて唇を重ねて塞いだあの瞬間を。
白状しよう。あの時のシーンを思い出す度に、私はあのレヒコに自分を重ねていたのだ。
命を落としかけていた部下がそこに居たというのに、不謹慎にも、浅ましくも、醜くも私はあのレヒコが自分になる幻影を何度も見たのだ。恥知らず。最低だ。
そして私はあの時のレヒコの位置、彼が覆い被さってきているあの位置から見える幻の彼も見たのだ。水滴を滴らせながら視界を塞ぐほど近づく彼の黒い髪、黒い瞳を。欲望が見せる奇跡の幻を。
背徳の左手で自分の物を扱きながら、漏れる淫らな声を制するように押し当てられていた右手の指で唇をなぞる。幻の接吻を想いながら。指先が唇を、歯列を割って口内に侵入し舌を弄ぶ。けれどそこには無い彼の舌、その生暖かさに焦がれて私の舌が指に絡まり唾液をあふれさせる。何度も。何度も。
ナーノの用意した柔らかいかたまりを秘部に押し入れる。それは体温でとろりと溶ける。私は自らの指でそこを探るようにほぐす。
いつもは物足りないはずの指が今日はどこをどうしても感じる。
分かっている。幻の彼に施されている愛撫だからだ。何て淫らな。なんていやらしい。
そして、時折たまらず訪れる痙攣のような反応に自分の体だというのに驚くのだ。
ああ、ダイ
・・・来て・・・
  お願い
もっと
   もっと
お願い
お願い
  欲しいんだ、あなたが
ああ・・・もう・・・もう・・・
お願い!
 
そして。

朝のざわめきが聞こえ始めた頃。
不思議とスッキリした感覚と余韻の残る気持ちで起き上がった。
夕べの行為で汚れた諸々は清浄魔法で概ね清めてある。
私は身なりを整えながら、ナーノとエヴォルトとのやりとりを反芻していた。
けど、もう賽は投げてしまった。
今日エヴォルトはダイに意思を訊くはずだ。

私は自信が無い。
確かにその作戦は意味があるかも知れない。けれど。
戦略と欲望の線引きが自分にできる気がしなかった。
こんな私はやはりいつか彼に失望されるのだと苦い思いを飲み込んだ。
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